現代の最新技術が余すところなく投入された正真正銘のフラッグシッププレミアムセダンのベンチマーク的存在として、長きに渡り君臨しているメルセデス・ベンツSクラスが7年振りにフルモデルチェンジ、7代目へと進化を遂げた。今回は刷新されたデザインも目を引くが、最大のトピックは大幅に進化したインフォテイメントシステムと、てんこ盛りともいえる先進技術の投入だ。
世界最高のラグジャリーセダンの座は渡さない
自他ともにベストカー・イン・ザ・ワールドと認められているメルセデス・ベンツSクラスの11代目(W223)が誕生した。
7年前から市場投入されていた現行Sクラス(W222)の販売台数はおよそ50万台と、もちろんラクジュアリーセグメントナンバーワンで、Sクラスはメルセデス・ベンツにとって単にシンボリックな存在なだけでなく、実質的な稼ぎ頭でもあるのだ。また現在ではSクラスの30%以上は中国で販売され、その90%がロングホイールベース、さらにオーナー年齢は40歳代と非常に若い。
意外な事実は韓国市場の伸びで、日本を軽く追い越して輸出先国では中国、アメリカに次ぐ3位に入っている。
このニューSクラスの試乗会はシュツットガルト空港で行われたのだが、なんと集合場所は駐車場ビルだった。もちろんコロナ禍ゆえに、例年のような大規模なイベントは無理だとは思っていたが、Sクラスにしては意外な場所だ。
しかしこれにはちょっとした演出があった。駐車場の出口でスマートフォンを渡されたあと、指示通りの操作をして待っていると、無人のSクラスが目に前に現れたのである! すなわち試乗車には来年から導入が予定されている自動バレー・パーキング・システム(AVP)が搭載されており、ここでデモンストレーションが行なわれたのだ。
ニューSクラスのエクステリアデザインはキープコンセプトで、サイドへ回り込んだヘッドライトやシャープなテールライト以外に大きな変化はないが、ショートホイールベースで全長5.18m、全幅1.95m、全高1.50m、そしてホイールベースは3.11mと、現行モデルより5・4cm長く、5.5cmワイドになった。一方で高さはわずか1cm増なのでスリムになった感じだ。実際にCd値を見ても、このクラスでは最良の0.22となっている。
ドライバーが近づくと伸びてくるリトラクタブル式の自動ドアノブは、例えばポルシェ911のそれとは違って材質と作りはソリッドで形状も素晴らしく、豪華なリムジンにはふさわしいもの。キャビンに入ると、まず正面に12.3インチ、そしてダッシュボード中央には12.8インチのOLED大型ディスプレイが並んでいる。正面のディスプレイにはオプションの3Dシステムが組み込まれていたが、情報を読み取るには特に利点はなさそうだ。一方フロントガラスには、77インチ画面に相当するサイズの映像を写す、AR機能付きのヘッドアップディスプレイが備わっており、これは非常に見やすくナビガイダンスも効果的であった。
メインモニターにPINコード(あるいは顔、指紋、音声などの生体認証も可)を入力すると、ウエルカムメッセージと共にスタートの準備が整う。
ところで「ハイ、メルセデス」でお馴染みのMBUXは、27カ国語、そして母国語以外を話すドライバー/パッセンジャーの多少のアクセントも理解するようになったので安心して話しかけることができる。
最大19個(助手席)の電気モーターでアジャストやマッサージを行うたっぷりしたクッションと、ゆったりと体をホールドする形状のシートに身を預け車内を見渡すと、アルミ、高級レザーそして豪華ヨット風のデザインに仕上げたウッドを使い、1.6cm間隔で埋め込まれた合計250灯のLEDによるインテリア照明が用意されたキャビンは、快適に過ごせるラウンジのようだった。
メルセデスは単に快適性を求めるのでなく、むしろドライバーやパッセンジャーのための癒しの空間を目指しており、Sクラスのキャビンを「ウエルネス・オアシス」と名付けている。