ベーシックなジュリアでも走りの世界へと誘う
非の打ち所のないベーシック感をこれでもかと打ち出してくる318iから乗り換えると、ジュリアはスプリントでも“エモい”。見た目こそ3シリーズのような押し出し感はないけれど、それはアルファ・ロメオの美意識であり、走らせればドライバーの気持ちを、本当に上手にくすぐってくる。
乗り心地はマイナーチェンジを経てさらにコンフォート性を増したと感じていたのだが、318iと比べれば断然スポーティ。そしてステアリングを切り始めると、鋭くノーズが切れ込んで行く。
これは11.8:1というクイックなステアリングギアレシオだけでなく、シャシーの躾けそのものが前のめりだからだと思う。318iはステアリングを切っても、車体が水平なまま曲がろうとする。対してジュリア・スプリントは、絶妙に前下がりなロールセンター軸にそって、ボディ全体で曲がって行こうとするイメージ。その際リアサスがほどよく伸びてコーナリングにキレ味が増す。
エンジンもわかりやすく吠える。DNAモードを「N」(ナチュラル)に入れる限りは猫を被っているけれど、「D」(ダイナミック)モードでブーストを引き上げれば、ガロガロと乾いたサウンドでマフラーを鳴らす。そこには自然吸気ユニット時代のような高密度感はないが、現代のユニットとして乗り手を喜ばせようとするアルファの気概が感じられる。レブリミットは5500rpmと318iに比べて低めだが、トルクがピークに達する際のパンチが効いており、積極的に回したくなる。そういう意味ではMTに乗りたくなるが、このパンチ力は8速ATのギア比にも助けられているはずだから、これはひとつのまとまったパッケージングなのだと思う。
そんなシャシーとエンジンが組み合わさるわけだから、走らせて面白くないわけがない。ビーナスラインに着いてからはまさに独壇場で、小さなステアリングを切り込みながら、気持ち良くワインディングを泳ぎ周ることができた。
もちろん318iも走りの偏差値は高かった。スポーツモードで電動パワステを座らせてやれば格段にその操作性が落ち着きを見せ、セオリー通りにブレーキでフロント荷重を保ち、ステアリングを切り込んで行けば、4ドアスポーツセダンと呼ぶに相応しい、お手本通りの奥深い走りを見せてくれる。
しかし318iと比べれば、ジュリア・スプリントはもはやちょっとしたスポーツクーペだ。そして318iにこの走りを求めるようとするならば、BMWは「それなら420iクーペをどうぞ」と言うのではないか? と思えた。そういう意味でいうとBMWはすでに住み分けを完了しており、318iは4ドアセダンの役目をまっとうしていると言えた。
ショート・トリップとはいえ今回のように600km近い距離を走るとき、家族がいるならば、その安定感やリアの居住空間の広さも含めて、間違いなく318iをお勧めする。逆を言えばふたりで熱い時間を過ごすなら、断然ジュリア・スプリントだ。
SUVが全盛の今、4ドアセダンの見方を変えること、つまりはクーペ的な乗りこなしをすることは、ひとつのヒントなのではないか? と、アルファロメオには教えられた気がする。どちらが優れているというよりは、どちらを選ぶかだ。この2台のスポーツセダンは、素晴らしいライバル関係にある。