BMW318iとアルファロメオ・ジュリア ・ スプリントというスポーツセダンのベーシックグレード2台で長野県の美ヶ原高原を目指した。 絶景と変化に富んだコーナーが続くビーナスラインを走りながらセダンについて向き合った。実は当初 「紅葉と秋の味覚を楽しもう!」 などと、 行楽気分で走り出したのだが、目的地付近はマイナス1℃、 そして、 すでに粉雪が舞い始めていた……。
318iのエンジンはバランス感が秀逸!
スポーツセダンのベンチマークであるBMW3シリーズ。そのベーシックグレードを担う318iが日本でリリースされた。時をほぼ同じくしてアルファロメオのスポーツセダンであるジュリアもラインナップ体系を改め、そのベーシックモデルが往年の名称スプリントに改められた。
というわけで今回はこの2台を連れ出して、信州までショートトリップと決め込んでみた。
端的に言ってしまえば318iとジュリア・スプリントは、まったく正反対の性格を持つスポーツセダンであると筆者は思う。318iは、長らくこのセグメントで先頭を走り続けてきた3シリーズの末っ子だけのことはあり、本当に隙がない。先代比で最大55kgもの軽量化を果たしたボディは、ハイテンションスチールを多用しながらも、その反発感や安っぽい共振などを一切感じさせることなく、走り出した瞬間からボディ剛性の高さ、ひいては上質感を濃厚に訴えかけてくる。

BMW318i/コンベンショナルなサスペンションを装着して、 16インチホイール(試乗車はオプションの17インチ)を履く318iは、バネ下の軽さが際立ちセダンらしいしなやかなドライブフィールが味わえる。パワーユニットは320iの出力調整を行なったガソリンエンジンを搭載。
そのボディの真価は、まず乗り味に現れる。可変機構など持たないダンパーはきちんと伸縮し、ランフラットタイヤの硬さこそわずかに残るけれど、路面からの入力を見事に減衰する。ステアリングを切れば、微少舵角からまったりと路面をつかんでくれる。
行きと帰りの高速道路ではこのまったり感に癒やされながら突き進む。うねりのあるカーブでは4輪が巧みにこれを乗り越える。
上質な弱アンダーステアを維持したまま、グーッと横Gを増やして行く上り坂に下り坂。ここがドイツなら、間違いなくアクセルを踏み込む場面だ。しかしそれは決して床まで一気に右足を踏み抜くような運転ではなく、後輪に押し出されるようにして速度を乗せて行く走りが似合うはずである。
そんな大人びた走りをする上で、この2L直列4気筒ターボは実にいい仕事をする。パワー&トルクはたったの156ps/250Nmしかないのだが、ターボのピックアップと8速ATのコンビネーションが、数字を意識させない。その回転上昇感には当然6気筒のようなエモーショナル性はないのだが、低回転域からもたつくことなくトップエンドまで吹け上がる様は見事で、気持ちよさだけでなく誠実さすら感じさせられる。どこから踏んでもフラットでフレキシブル。ベーシックグレードのエンジンとしては、ちょっとできすぎなほどバランスの良い直列4気筒ユニットだと思う。
ベーシックなジュリアでも走りの世界へと誘う
非の打ち所のないベーシック感をこれでもかと打ち出してくる318iから乗り換えると、ジュリアはスプリントでも“エモい”。見た目こそ3シリーズのような押し出し感はないけれど、それはアルファ・ロメオの美意識であり、走らせればドライバーの気持ちを、本当に上手にくすぐってくる。

ALFA ROMEO GIULIA 2.0 TURBO SPRINT/搭載するパワーユニットの2Lターボは、低回転域から豊かなトルクが立ち上がり、高回転域では伸びが良くワインディングでもファンなドライビングを提供してくれる。ギアボックスは8速ATとで、Cd値はわずか0.23という空力性能も身軽さに貢献している。
乗り心地はマイナーチェンジを経てさらにコンフォート性を増したと感じていたのだが、318iと比べれば断然スポーティ。そしてステアリングを切り始めると、鋭くノーズが切れ込んで行く。
これは11.8:1というクイックなステアリングギアレシオだけでなく、シャシーの躾けそのものが前のめりだからだと思う。318iはステアリングを切っても、車体が水平なまま曲がろうとする。対してジュリア・スプリントは、絶妙に前下がりなロールセンター軸にそって、ボディ全体で曲がって行こうとするイメージ。その際リアサスがほどよく伸びてコーナリングにキレ味が増す。
エンジンもわかりやすく吠える。DNAモードを「N」(ナチュラル)に入れる限りは猫を被っているけれど、「D」(ダイナミック)モードでブーストを引き上げれば、ガロガロと乾いたサウンドでマフラーを鳴らす。そこには自然吸気ユニット時代のような高密度感はないが、現代のユニットとして乗り手を喜ばせようとするアルファの気概が感じられる。レブリミットは5500rpmと318iに比べて低めだが、トルクがピークに達する際のパンチが効いており、積極的に回したくなる。そういう意味ではMTに乗りたくなるが、このパンチ力は8速ATのギア比にも助けられているはずだから、これはひとつのまとまったパッケージングなのだと思う。
そんなシャシーとエンジンが組み合わさるわけだから、走らせて面白くないわけがない。ビーナスラインに着いてからはまさに独壇場で、小さなステアリングを切り込みながら、気持ち良くワインディングを泳ぎ周ることができた。
もちろん318iも走りの偏差値は高かった。スポーツモードで電動パワステを座らせてやれば格段にその操作性が落ち着きを見せ、セオリー通りにブレーキでフロント荷重を保ち、ステアリングを切り込んで行けば、4ドアスポーツセダンと呼ぶに相応しい、お手本通りの奥深い走りを見せてくれる。

ハイキングコースでもある車山湿原近くの車山肩駐車場はレストランもあり絶景も楽しめるので休憩にオススメ。気温はマイナス1℃で粉雪が舞い始めていた。ここからさらに標高が高くなる美ヶ原高原は大丈夫かと不安に……。
しかし318iと比べれば、ジュリア・スプリントはもはやちょっとしたスポーツクーペだ。そして318iにこの走りを求めるようとするならば、BMWは「それなら420iクーペをどうぞ」と言うのではないか? と思えた。そういう意味でいうとBMWはすでに住み分けを完了しており、318iは4ドアセダンの役目をまっとうしていると言えた。
ショート・トリップとはいえ今回のように600km近い距離を走るとき、家族がいるならば、その安定感やリアの居住空間の広さも含めて、間違いなく318iをお勧めする。逆を言えばふたりで熱い時間を過ごすなら、断然ジュリア・スプリントだ。
SUVが全盛の今、4ドアセダンの見方を変えること、つまりはクーペ的な乗りこなしをすることは、ひとつのヒントなのではないか? と、アルファロメオには教えられた気がする。どちらが優れているというよりは、どちらを選ぶかだ。この2台のスポーツセダンは、素晴らしいライバル関係にある。
【Specification】ALFA ROMEO GIULIA 2.0 TURBO SPRINT
■全長×全幅×全高=4645×1865×1435mm
■ホイールベース=2820mm
■車両重量=1590kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1995cc
■最高出力=200ps(147kW)/4500rpm
■最大トルク=330Nm(33.7kg-m)/1750rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=225/45R18:255/40R18
■車両本体価格(税込)=4,600,000円
お問い合わせ
FCAジャパン 0120-779-159
【Specification】BMW 318i
■全長×全幅×全高=4715×1825×1440mm
■ホイールベース=2850mm
■車両重量=1540kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1998cc
■最高出力=156ps(115kW)/4500rpm
■最大トルク=250Nm(25.5kg-m)/1350-4000rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=ストラット:5リンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=205/60R16:205/60R16
■車両本体価格(税込)=4,890,000円
お問い合わせ
BMWジャパン 0120-269-437
【TRIP GUIDE】
ビーナスライン
長野県茅野市から同県上田市の美ヶ原高原美術館にまで至る全長約76kmの観光山岳道路。和田峠−美ヶ原台上、武石観光センター−美ヶ原台上、松本市街−ビーナスライン扉峠の区間は11月下旬は冬季通行止めとなるから注意。
【Another Choice】NISSAN SKYLINE 400R/ニッサン・スカイライン400R
日本のスポーツセダンだって負けていない!
318iやジュリアにオプションを乗せる予算があるならば、これを選ぶのもひとつの手。その身のこなしは405psを後輪だけで制御するセダンとは思えないほど洗練されている。これでMTがあれば言うことないのに!