文化遺産を守ろうという人に共通する考え
このクルマの整備を進めていく過程で、興味深く感じられたのは、このクルマがまさに限定モデルであって、しかもゴルフII最終年の’91年モデルで、IIからIIIの過程にあるということが分かってきたことだという。
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(左)ベルト類もすべて交換する。もちろん、一応、要交換と判断したこともあるが、ここまでやってしまうのは、自身がオーナーになった時のことを想定するからという。(右)タイミングベルト、テンションプーリーおよびサービスベルト類の交換は、エンジン・メンテナンスにおける定番中の定番ではある。
たとえば、フロントシート。ほかのGTIと変わらぬレカロ製だが、サイドの張り出しがやや強くなっていて、バックレストにはレカロの文字が入る。上下のみだがパワー付きともなっている。
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(左上)ゴルフのオルタネーターは、新品だと8万円以上という高額の部品だ。(右上)ブラシは新品に交換する。ブラシが摩耗してしまうと、まったく発電しなくなってしまう。(下)なるほど、これだけ汚れていれば、ベアリングの問題はともかく、交換したくなる気持ちも分かる。
たとえば、ブレーキがABS付きとなっている点。エンジンルームにはABSの分配器があり、実際にもブレーキ関係を分解し、各輪にブレーキのセンサー、そして細かい歯を持った歯車のような部品を確認すると、ABS付きであることが実感される。IIのGTIで、ABSが標準装着となっているものはないから、まさしくIIIへの移行期にあったモデルであることが分かる。派手なステッカーを持つ外観だけに価値があるのではなく、その内容にも価値があるといえるのである。
こうしたことで改めてその価値を認めざる得なくなると、その後の整備には余計に力が入る。もともと、このクルマをちゃんと復活させるには、走行距離の多いクルマということもあり、少なからず新品部品に交換していかなければならないだろうことは予想、覚悟もしていた。しかし、その価値を認識すればするほど、そうするに相応しい、さらにいえば、そうしなければならないクルマのように思えてきたという。
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(左上)取り寄せたリザーバータンクとそのキャップの新品。水漏れは大敵なのである。(右上)サーモスタットは、バルブがちゃんと締まりきらない可能性があって、これも交換。(下)ウォーターポンプは、フィンが金属製のものと交換する。樹脂製は耐久性が問題あり?
もともと、このクルマは個人的な思い入れでキープしてきたこともある。このため、廣岡さんは手元にあった中古部品はもちろん、新品部品もドンドン投入するようになったのである。
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(左上)リア側のマウントは、基本構造がIII\同様のものとなっている。IIからIIIの過程にあるクルマといえるのだ。(右上)エンジンマウント3点。最終型GTIのエンジンマウントは、このように通常のものとはかなり異なる。(下)25万km走行車であっても、交換すべきところを交換したなら、ちゃんと元に戻るというのが、廣岡さんの基本的な考え方。ゴルフだから、できることという。
この考え方は、文化遺産を守ろうという人の考え方に共通する。欧州の古城にはオーナーが存在するが、そのほとんどは古城の文化的価値を認識したうえで、「自分たちは一時的に城を預かるだけで、現状を保ったまま後世に残していくことこそが我々の役目」としている。ストラディバリウスなど“名器”とされる楽器を所有する音楽家も、同じことを異口同音に語る。つまり、このファイヤー&アイスをゴルフの歴史上、重要な文化遺産と捉えれば、廣岡さんはその貴重な文化遺産の動態保存を試みていることになる。
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(左)プラグやコード、イグニッションコイルまでも、点火系は一気に交換する。これも、本来の気持ちいい吹け上がりを実現するため。(右)ディスビも、キャップ、ローターともども、もちろん交換する。電気はなにしろ大事なのだ。
いま、IIは、輸入車でいえば旧ミニ、国産車でいえばトヨタのAE86(レビン/トレノ)のようなポジションを獲得しようとしている。ひとつのクルマ文化になる可能性が高い。したがって、可能な限り、よい状態のIIを残すことには大きな意義があると思うのだ。