南陽一浩の「フレンチ閑々」

新しいDS4はアルファロメオやランチアとどう絡んでいくのか? DSのベアトリス・フシェCEOに電動化戦略その他を訊ねてみた【フレンチ閑々】

DSの指揮を執ってほぼ1年になる新CEO、ベアトリス・フシェ氏が、新型DS4の発表会を機に、オンラインによるインタビューに応じた。先代の「シトロエンDS4」は、まだシトロエンの一モデルだった時代にデビューし、マイナーチェンジでDS4クロスバックが加わった。これらのフルモデルチェンジ版とはいえ、新型DS4は、DS7クロスバック、DS3クロスバック、そして日本では近々上陸予定のサルーンDS9に続いて、独立ブランドとなったDSにとって4番目の車種。初のミドルレンジでもある。

フシェ氏はDS4を特徴づける要件となる3本柱を、次のように挙げる。

「ひとつ目はデザインのカリスマ性。ふたつ目はアール・ドゥ・ヴォワイヤージュ(旅をするための技法)、そしてみっつ目は、ドライビング・エクスペリエンスですね。それぞれ順に、外観とインテリア、走りに相当しますが、いずれの点でもセグメント随一、かつ唯一のものを実現できたと思います」

先代DS4が現役だった数年前と比べ、欧州Cセグメント・プレミアムの地合いも変化しているという。

「私たちはDS4を、従来の欧州Cセグメント・プレミアムにはなかった、まったく新しい提案として投入します。そもそもCセグメントは伝統的ではありますが、保守的なセグメントでもあり、このセグメントでプレミアムを志向する顧客は、スタイルとテクノロジーに対する関心と要求がきわめて高い傾向にあります。そのためDS4はDSとしてのアイデンティティを訴求する必要がありました。具体的には、フランス流のサヴォワール・フェール(モノ造り文化)の洗練と、最新テクノロジーを調和させることです」

狙いはズバリ、従来のCセグのプレミアム・ハッチバックもしくはクーペSUVといった、ダイナミックなシルエットを好む顧客層。2021年第1四半期より生産オーダーを受け付け、第2四半期以降に欧州でデリバリーが予定されるDS4は、DS7クロスバックらが用いてきた主軸プラットフォーム、EMP2を共有する。だが根本的に見直しが図られ、コンポーネントの70%が結果的に新しくなっている。

「外観は、720㎜の大径タイヤを採用することでボディとタイヤのバランスにおける斬新なプロポーション、力強さとエフィシェンシーをも得られたと思います。一方でピュアで流麗な内装は、機能とスタイルを直観的なインターフェイスで統合した、デジタルでエルゴノミックなインテリア。快適に旅をするためのあらゆる技巧が尽くされれています」

確かに内装には、種々の新機軸が盛り込まれている。エアコンの吹き出し口が見えないダッシュボード構成や、DSスマートタッチによってボタンの少ない操作系を実現することで、視線や指先の触れる部分を、レザーやクルー・ド・パリ装飾、鍛造カーボン、ウッドといったノーブルな素材で覆っている。そうした高級な素材感や質感による面積が、きわめて広いのだ。

装備も、ただ備えつけるでなく、相乗効果を狙って投入されている。包み込むような座り心地を目指したシートは、高密度の発泡素材であるばかりか、ベンチレーターやマッサージ機能との組み合わせで、快適さを増す方向。さらに聴覚的な環境も、フォーカル・エレクトラの14個のスピーカーによる出力690Wのシステムを備えつつ、フロントと前席と後席の左右、各ウィンドウをアコースティックガラスとした。足し算ではなく、掛け算による相乗効果を、念頭に置いているのだ。

「ここまでやっているCセグのモデルは初だと思います。もうひとつ、インテリアとドライビング・エクスペリエンスを有機的に結ぶ装備が、21インチ画面相当のヘッドアップディスプレイ表示。ドライバーの視界前方に重ねるように、AR技術として様々な走行情報を投影するのです。さらにDSアクティブスキャンサスペンションを採用し、ロードホールディングや快適性についても、セグメント随一を担保しています」

フロントウインドウに備わるカメラで路面状態をスキャンし、サスペンション減衰力をアクティブ制御する機構は、DS7クロスバックやDS9というフラッグシップ・モデル譲り。フシェ氏がDS4の開発要件の実現に向け、高い目標を掲げて妥協を許さなかったという、その証左でもある。

注目のパワートレインは、E-TENSEを名のるガソリン1.6Lターボと電気モーターによる総出力225psのPHEVを筆頭に、ガソリンの180ps版やディーゼル130ps版も、8速ATで用意される。PHEV版のゼロエミッションでの最大走行距離は50km以上と発表されている。

先んじて発表されたシトロエンC4が、ë-C4という、むしろ100%のBEV版を強調しているのに対し、DS4の電動化モデルが今のところPHEVに限られる理由を、フシェ氏はこう述べる。

「DS4で我々が目指したのは、ニュー・エネルギー・プロダクトでありながら、制限や妥協のまったくない使い勝手を実現すること。PHEVというテクノロジーの利点は、内燃機関と電気それぞれの最良の部分を調和させること、つまり総出力225psがもたらす動的性能と、日常的な走行範囲をゼロエミッションでカバーできることに尽きます。トランク容量が食われることなく、出先での充電の心配は無く、長距離をこなせるのです。先ほど、今のCセグメント・プレミアムの顧客はスタイルやテクノロジーに対する関心が高いと述べましたが、昔からポリヴァランス(状況を選ばず有用性が高いこと)とドライビング・プレジャーがこのクラスの基本的な価値観。それらを両立させるのが、E-TENSEプラグイン・ハイブリッドなのです」

またDS4は、PSAとFCAの統合によって生まれたステランティス・グループ発足後、初のニューモデルでもある。DSの前任CEO、イヴ・ボンヌフォン氏はグループ内のシナジー推進ディレクターとなり、プジョーのトップだったジャン・フィリップ・アンパラト氏がアルファロメオの指揮へとスライド移籍するなど、人事異動も喧しい。ステランティス・グループという新しい枠組みの中で、DSがイタリアン・ブランドと協業する可能性はあるのだろうか。

「もちろん、ステランティス・グループの枠組みがもたらすチャンスは、DSブランドにとって有効な切り札。昨年末の時点で、DSは販売台数の30%が電動化モデルで、全体のCO2 排出平均値は82.6g/㎞と、欧州でもっともエフィシェンシーの高いプレミアム・ブランドとなりました。DSはアルファロメオやランチアとともに、グループ内のプレミアム部門の一角を占める訳ですから、新たなシナジーの恩恵はありうるでしょう」

プレミアム市場で成否のカギを握るのは、従前通りの高級感や高機能、ラグジュアリーさだけではなく、電動化戦略そのもの。ランチアの名まで挙がったのはグッド・サプライズながら、DSがグループ内でプレミアムを主導するという、フシェ氏の強い自信が窺えるだろう。

この記事を書いた人

南陽一浩

1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。ネコ・パブリッシング勤務を経てフリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の男性誌や専門誌へ寄稿し、企業や美術館のリサーチやコーディネイト通訳も手がける。2014年に帰国して活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体に試乗記やコラム、紀行文等を寄稿中。2020年よりAJAJの新米会員。

南陽一浩

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