誰もが知る有名なメーカーが出していたのに、日本では知名度が低いクルマをご紹介する連載、【知られざるクルマ】。今回は、2021年2月に北米で発表された新しい「日産・パスファインダー」に関連し、かつて日本でも「テラノ」として販売されていた同車35年の歴史と、テラノもしくはパスファインダーに関する「知られざるモデル」を取り上げる。なお実は、テラノは過去の車名ではない。詳しくはこの記事を最後までご覧あれ!
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https://carsmeet.jp/2021/02/06/184752/
【テラノ&パスファインダーの歴史編】
・初代テラノ/パスファインダー(WD21型)は1986年に誕生
時代は今やSUV戦国時代。フルラインメーカーではラインナップの隙間を埋めるかのように、次々と新しいSUVを発売している。そんなSUVも、かつては「RV(レクリエーション・ヴィークル)」や「クロカン(クロスカントリー)」と称されていた。
日本でRVブームが起きたのは、1980年代半ば。当時、アウトドアやスキーなどのスポーツがレジャーとして一般的になったこと、乗用車並みの快適性・装備を備えた「いすゞ・ビッグホーン(1981年)」「三菱・パジェロ(1982年)」「トヨタ・ハイラックスサーフ(1984年)」が相次いで登場したことも、ブームを後押しした。
そんな中、日産は1986年に「ダットサン・トラック(9代目、D21型)」をベースにした「テラノ」を発表する。テラノは、クリーンでシンプルなデザイン、優れた静粛性と高性能を図ったTD27型ディーゼルエンジンを採用。操縦性や乗り心地の良さも重視しており、日常のシティユースでも快適に使えるファッショナブルなRVとして注目を集めた。一方でラダーフレーム+リアリジッドサスによる高い悪路走破性は残され、レジャー需要にも応えていた。
旺盛なRV需要に支えられ、テラノには次々と魅力的なバリエーションが与えられていく。まず1987年にV6・3LのVG30型エンジンを搭載、1989年には、より高い利便性を得た4ドアモデルも登場。1993年のマイナーチェンジでは、内外装をリフレッシュしたほか4ナンバーの商用モデルを廃止して、さらに乗用車的なイメージを高めていった。
・ビルトインラダーフレーム構造とオールモード4X4を採用した2代目(R50型)
2代目テラノは、1995年にデビュー。初代モデル末期の1994年には2ドアが廃止されていたこともあり、2代目は4ドアボディのみに。しかもトラック由来のラダーフレーム構造から、モノコックボディとフレームを一体化した「ビルトインラダーフレームモノコック」を採用し、大幅な軽量化と剛性アップを果たしている。4WDシステムも、電子制御トルクスプリット式フルタイム4WD「オールモード4X4」を一部に採用していた。搭載エンジンは、TD27ETi型ディーゼルターボとV6・3.3LのVG33E型でスタートしている。
ところで日産は、1989年に北米市場向けの高級車ブランド「インフィニティ」を立ち上げていたが、その後1996年頃に「レクサス(トヨタ)」、「アキュラ(ホンダ)」がそれぞれ高級SUVを発売したことを受け、インフィニティも「QX4」を投入して対抗した。QX4はテラノ/パスファインダーをベースにしたモデルで、専用グリル・内装素材の変更によって高級感をアピール。日本でも、テラノの上級版「テラノ・レグラス」として販売されていた。
・3代目パスファインダー(R51型)から、日本では未発売に
1994年に出現した「トヨタ RAV4」は、モノコックボディ、横置きFFベースという乗用車的な設計を持ち、オンロード寄りの都会派モデルかつ、オフでも自在に活用できる柔軟性を備えた「ライトクロカン」として大いに注目を浴びた。その後「トヨタ・ハリアー」などのSUVが相次いで登場していったが、日産も「エクストレイル」「デュアリス」「ムラーノ」などを次々と生み出していく。2002年、その流れを受けて日本市場向けテラノの販売は終了を迎えることになった。一方、海外向けのパスファインダーは、引き続き日産九州工場で生産を継続した。
テラノの販売終了から2年後の2004年。2代目の継続生産が終了し、ようやく3代目パスファインダーが登場した。日本市場向けという枷がなくなったこともあり、車体は一気に大型化。全長は30cm以上も伸びている。ダットサン・トラックの流れを汲む「フロンティア」や「エクステラ」を兄弟車に持つため、シャーシがラダーフレーム式に戻ったこと、3列・7人乗りになったこと、生産工場が従来の日産九州工場から北米へと移管したことも、小さくないトピックだった。
なお、3代目パスファインダーの型式は、初代のWD21型からR51型に変更されたが、1999年に登場のダットサン・トラック(北米名フロンティア)をベースとしたSUVの初代「エクステラ」はWD22型を名乗り、「型式的な系譜」を継いでいる。
・FFベースになった4代目&5代目パスファインダー(R52型・R53型)
パスファインダーの4代目は、2012年からリリースを開始。オンロードの快適性を重視しつつ、RV的なワイルドさを持っていたパスファインダーも、4代目ではついにFFベースのSUVに大転換。スラントしたノーズ、ステーションワゴンの背を高くしたような外観は、従来モデルとの違いを明確にする。デビュー時はV6・3.5LのVQ35DE型のみだったが、2013年にはQR25DE型を用いたハイブリッド版を追加した。
【知られざるテラノ&パスファインダー編】
・日産・ミストラル=テラノII(R20型)
さて、この章からは「テラノ/パスファインダーの名がつくものの、本流に属しないモデルたち」の出番だ。
まずはスペイン(日産モトール・イベリカ)で生産されていた、フレーム付きの本格派4WD「テラノII」である。日本でも「ミストラル」として販売していたことがあるが、ミストラル/テラノII の「その後」を日本で知る人は多くないだろう。日本での販売を終えた後、テラノIIは幾度かの改良を受け、私たちが知るミストラルとはまったく違うマスクを得て2007年まで売られていたのだった。
・日産・パスファインダー・アルマーダ(TA60型)
北米日産の最高峰SUVが「アルマーダ」。現在は2015年登場の2代目(Y62型)を販売する。初代の登場は2003年で、デビュー時はパスファインダーの派生的車種とも取れる、「パスファインダー・アルマーダ」という名称だった。余談だが、2代目アルマーダは、現行型「サファリ(Y62型/輸出名:パトロール)」および「インフィニティ QX80(Z62型/デビュー時はQX56)」の兄弟車である。
・えっ、「3代目テラノ」ってあるの? しかもベースは…なに!?
そして、ここからがまさにこの記事の核心。ここまで読んだ人だけが知ることができるお話である(オオゲサ)。それが、「3代目テラノ」の存在だ。
えっ? 今回の記事を見る限りでは、「テラノは2代目で終わり、3代目以降はパスファインダーだけが残った」とあるじゃないか……。そう、それは間違っていない。
というのも、3代目テラノは、テラノの名が消えて12年後の2014年に、「本家テラノ/パスファインダーにまったく関係ない」クルマとして現れたからである。しかもベースが、ルーマニアの「ダチア」が作るSUV「ダスター」なのだから、2度驚きだ。
ダチアは1960年代からルノー傘下にあり、「ルノー12」などの古い車種を2000年代半ばまで生産していたことで知られる。ルノーのパーツを組み合わせた小型セダン「ロガン」を2004年に発表してからは、さまざまなオリジナルモデルを輩出中だ。ダスターは日産Bプラットフォームの上に独自ボディを構築したSUVで、安価なクルマながらも日産・エクストレイルなどと同じ4WDシステム「オールモード4×4-i」が奢られている。
3代目テラノは、ダスターの前後や内装を変更して高級感を高めたモデルで、2014年にインドで製造・発売を開始。追ってロシアでも販売がスタートし、2021年3月現在、ロシア市場のみで販売を継続している。
有名なのに消えた車名が、まさかこんなカタチで生き残っているとは……まさしく「知られざるクルマ」コーナーにふさわしい(?)クルマと言えよう。
次回は、「トヨタ・ヤリス」の欧州カー・オブ・ザ・イヤー受賞を記念して、「日本では知られざる欧州COTY受賞車たち」を記したい。どうぞお楽しみに。
この記事を書いた人
1971年生まれ。東京都在住。小さい頃からカーデザイナーに憧れ、文系大学を卒業するもカーデザイン専門学校に再入学。自動車メーカー系レース部門の会社でカーデザイナー/モデラーとして勤務。その後数社でデザイナー/ディレクターとして働き、独立してイラストレーター/ライターとなった。現在自動車雑誌、男性誌などで多数連載を持つ。イラストは基本的にアナログで、デザイナー時代に愛用したコピックマーカーを用いる。自動車全般に膨大な知識を持つが、中でも大衆車、実用車、商用車を好み、フランス車には特に詳しい。