待望の992型911ターボが上陸した。並外れたスポーツ性を備えつつも、一方ではGTカーのごとく快適で実用性に優れた1台として使える究極のスポーツカー。歴代のモデルがそうであったように新しい911ターボも、このコンセプトに揺るぎはなかった。
いうまでもなく911のトップ・オブ・レンジ
都内で車両を受け取り、伊豆方面を目指した。信号が青に変わったのでスロットルペダルをわずかに踏み込み、スルスルと動き出して50km/hくらいでしばらく巡航、次の信号で赤が点灯し、ブレーキペダルに踏み換えたらスッと止まった。タウンスピードにおけるポルシェ911ターボSカブリオレの所作は、外から見れば他のクルマと何ら変わりないだろう。それでも車内にいるドライバーにしてみれば、ペダルやステアリングの操作荷重の適切さや、手足からの微妙な入力にも正確に反応するコントロール性のよさに思わず舌鼓を打ち、やっぱり他のクルマとは明らかに違うということをひしひしと感じる。高速道路に流入すれば、今度は直進安定性や乗り心地や瞬発力のよさが身に染みてきた。
ポルシェが911を世に放つと、モデルによっては順不同の時があるとはいえ、カレラがあり、カレラSがあり、カレラ4があり、カレラ4Sがあり、カブリオレやタルガといったボディバリエーションが加わり、そしてターボとターボSが登場していったんラインナップの拡充が止まる。ずっとこのやり方を続けてきて、現行の992型もまたそれを踏襲した。だからそういう戦略を知っている者にとっては、ターボSが出た時点で「とりあえずここまできたか」と思う。行きつけのレストランでメインディッシュをたいらげたフォークとナイフを置き、デザートの前にひと息つくような感覚かもしれない。そしてデザートには、GT2やGT3といったスペシャリティが待っていることも分かっている。
911はどのバリエーションにもそれを選ぶ理由がきちんと存在しており、こういうところにポルシェの商品企画の巧みさを思い知らされるのだけれど、あくまでも主観で言わせてもらえるのであれば、どの世代でも素のカレラがもっとも魅力的だと思っている。GT3やGT2といったサーキットユースも前提のモデルを除けば、ターボSは911のトップ・オブ・レンジということになる。これがあることを想定して、エンジニアは開発当初から650ps/800Nmのパワーをしっかりと受け止めるボディとシャシーを設計するわけで、それが385ps/450Nmのカレラで物足りないはずがなく、むしろやや過剰品質くらいなわけだ。だからカレラが悪いはずがないと確信しているのである。同時に、そこを狙って作ったのだからターボSこそがパワートレインとシャシーがちょうどいいバランスで成立しているモデルとも言える。
スポーツカーとして圧倒的なパワーデリバリーと魅惑的なハンドリングと感動的なブレーキを兼ね備えているのはもちろんなのだけれど、それらを余すことなく使うのが難しい公道で快適なドライブができる守備範囲の広さも、911の魅力のひとつである。たとえターボSであったとしても、いたずらに尖ったスポーツカーではなく、GT(グランドツアラー)としての要素も持ち合わせているのは、911に貫かれている哲学でもあって、それは992型にも踏襲されている。