知られざるクルマ

【知られざるクルマ】Vol.18 ルノー9、フォード・スコーピオ、オペル・アンペラ……日本では知られざる欧州COTY受賞車たち

誰もが知る有名なメーカーが出していたのに、日本では知名度が低いクルマをご紹介する連載、【知られざるクルマ】。今回は「欧州カー・オブ・ザ・イヤー2021」をトヨタ・ヤリスが受賞した記念として、これまでの受賞車から「日本では知られざるクルマ」をお送りしたいと思う。でも、そればかりだと記事の内容があまりに地味になってしまうので(笑)、時代を作ったエポック・カーや、注目のモデルと合わせ、年代順にご紹介する。

ヤリス受賞に関する詳細はこちら
https://carsmeet.jp/2021/03/04/187086/

欧州カー・オブ・ザ・イヤー(以下、欧州COTY)の歴史は1964年の第1回まで遡る。以来58台にのぼるアワード・カーが生まれてきた。欧州ではたいへん栄誉ある賞だが、基本的には欧州市場で売られるクルマを対象とし、主催が欧州の主要自動車雑誌、選定を欧州の主要ジャーナリストが行うという性格上、日本では販売されていない車種がノミネート対象となることが多い。そのため、日本ではまったく走っていない、著しく台数が少ない、もしくは知名度が低いクルマが選ばれることがある。

では、早速年代を区切って、受賞車をピックアップしていこう。

【1960年代】第2回で、いきなり「知られざるクルマ」の大物が……

■1964年 ローバー 2000(P6)

かつてのローバーは、「小さなロールス・ロイス」と呼ばれるほどの高品質と、保守的な設計・堅実なスタイルを持っていた。その印象を一変させたのが、モダンな内外装、高剛性ボディなどの最新設計で1963年に登場した「ローバー 2000(P6)」だった。1968年には、アンダーパワーという評価を覆すべく、GM(ビュイック)が開発したV8エンジンを載せた「3500」を追加。のちに、2000も排気量をアップして「2200」へと発展した。

■1965年 オースチン 1800(ADO17)

「ADO17」こと「オースチン1800」は、ミニ(ADO15)と、日本でも高い人気を得ている「バンデンプラス・プリンセス」を擁した「ADO16」の上位に位置する横置きFF車で、全長約4.2mという大きめの車体を持って1964年にデビューした。日本での知名度はかなり低い。ホイールベースは2.7mほどもあり、その胴長なスタイルから「ランドクラブ(地上の蟹)」というあだ名がついた。エンジンはMGBにも積まれた「BMC・Bシリーズ」。1972年にはなんと2.2L直6を横置きした「オースチン2200」も出現した。ADO17には、オースチン・モーリス・ウーズレー版があった。

■1968年 NSU Ro 80

1967年から市販を開始した、ロータリーエンジン搭載セダン。当時、未来の内燃機関として期待されたロータリー・エンジン、大きなグラスエリアを持つ斬新なスタイル、先進のFF機構……などなどの革新性で欧州COTYを受賞するにふさわしい一台だった。しかしその後は……。詳細は、当連載のVol.3『まさに知られざる……VW最初の水冷FF車「K70」』をご覧いただきたい。
https://carsmeet.jp/2020/05/13/151079/

《1960年代、その他の受賞車》
1966 ルノー 16
1967 フィアット 124
1969 プジョー 504

【1970年代】日本に馴染みが薄いシムカ勢、大健闘?

■1976 クライスラー・シムカ 1307/1308

フランス第4のメーカーとして栄えていたシムカは、1960年代に入ってからイギリスの「ルーツ・グループ」ともども米本国のクライスラーに買収された。その中で、旧ルーツ・グループ→クライスラーUKが開発した「1307/1308」は、FF駆動、ハッチゲート付きボディという現代でも通用する設計で、1976年の欧州COTYに輝いた。これもまさに「知られざる欧州COTY受賞車」のひとつ。

シムカとクライスラーに関する複雑な経緯は、本連載『Vol.16 「ステランティス」誕生! でもかつて、プジョーはクライスラーと関係があった?』もご参照あれ。
https://carsmeet.jp/2021/02/26/150868-5/

■1978 ポルシェ 928

「ポルシェ928」は、58回にも及ぶ欧州COTYで唯一の、「スポーツカーの受賞車」。911よりも上級・高級なスポーツカーを目指して開発された。斬新なデザインのボディの前方に強力な水冷4.5LV8エンジンを積み、トランスアクスルで後輪を駆動した。1980年に4.7Lに拡大した「928S」を、1985年には5Lの「928S2」を発売するなど発展を続け、1995年まで生産された。

■1979 クライスラー・シムカ・オリゾン

クライスラーの欧州部門が、VWゴルフに対抗するべく生み出した1.5BOXハッチバック。アメリカでも「ダッジ・オムニ」などと名付けられ販売されたグローバルモデルで、欧州仕様では旧シムカ系技術によるパワートレーンを搭載。地味なクルマの受賞だが、クライスラー・ヨーロッパは、70年代に2車種もアワードカーを輩出したことになる。

なお写真は、「タルボ・オリゾン」。ブランド名が「シムカ」ではない件に関しては、説明が長くなるため、『Vol.16 「ステランティス」誕生! でもかつて、プジョーはクライスラーと関係があった?』でご確認いただきたい。
https://carsmeet.jp/2021/02/26/150868-5/

《1970年代、その他の受賞車》
1970 フィアット 128
1971 シトロエン GS
1972 フィアット 127
1973 アウディ 80
1974 メルセデス・ベンツ・Sクラス(初代)
1975 シトロエン CX
1977 ローバー 3500

【1980年代】80年代的欧州名車が百花繚乱

■1980 ランチア・デルタ

ランチアといえば、WRCで大活躍した「デルタ・インテグラーレ」が思い出される。ターボ+4WDで武装したスーパーウェポンだったが、その元となった「ノーマルのデルタ」は、VWゴルフに触発されて開発された、ごくふつうの小型ハッチバックだった。オーバーフェンダーを持たないシンプルな外観は、ジウジアーロによるデザイン哲学をより明確にする。内装には趣味の良い生地を用いており、小さな高級車とでも呼べる雰囲気を漂わせていた。

■1981 フォード・エスコート(3代目/Mk.III)

かつて別々の車種を開発・販売していたドイツと英国のフォードが、欧州ヨーロッパとして一元化すべく1969年に登場させた「エスコート」。その後1975年に2世代目に、そして1980年には3代目にフルモデルチェンジを果たしている。3代目(英国流ならMK.III)は、駆動方式をFFに転換、鋭角的なデザイン・大きな窓で一気にモダンな印象へ。アメリカでは「マーキュリー・リンクス」として売られるワールドカーへと発展した。写真は、スポーツモデルの「XR3」。

■1982 ルノー 9

ルノーには、日本でも正規で販売されたものの知名度が低い車種が多い。「9(仏語読みでヌフ)」も、そんな一台だ。「日産サニーのよう」とまで揶揄されるほど平凡だったスタイルは、9がルノーの世界中で販売するクルマという証だった。しかしいざ乗ると、優れた乗り心地、うっとりするほど座り心地が良いシート、矢のように進む直進性など、フランス車の良さがたっぷり注ぎ込まれており、欧州COTY のアワードカーという称号が伊達じゃないことを知らされる。

世界戦略車だった9は、北米でも販売された。これに関する詳細は、『Vol.7 アメリカに渡ったフランス車(1)「ル・カー」&「ルノー・アライアンス」』に記載している。
https://carsmeet.jp/2020/07/26/151079-3/

■1986 フォード・スコルピオ

これ、フォード・シエラじゃないの? 違います!……ある意味、この記事の中でも、最も主旨に近いのがこの「フォード・スコーピオ」ではあるまいか。このような「日本に正規で入っていない」「日本では、ほぼほぼ知名度がゼロ」という車種が、欧州COTYを獲得しているのは面白い。

スコーピオは、それまでの旗艦「グラナダ」を置き換えるために1985年に登場。ドイツではスコーピオ、イギリスではグラナダの名を引き継いだ。ボディデザインは、シエラや、本国フォード・トーラスとの近似性を感じさせる。

ちなみに、スコーピオは1994年に2代目となったが、その際、ご覧のような奇抜な外観に。そのため販売は低迷した。

スコーピオの前身・グラナダ、さらにその前任車「タウヌス」については、こちらにまとめているので、ぜひご覧あれ。
『Vol.12 ドイツフォードの「タウヌス伝説」……なんでもかんでも車名が「タウヌス」だったって、ほんと?』
https://carsmeet.jp/2020/12/23/151079-5-2/

■1989 フィアット・ティーポ

「フィアット・ティーポ」は、VWゴルフを仮想敵として誕生した「フィアット・リトモ」の後継モデルで、1988年にデビュー。I・DE・Aによる整ったデザインは、未だに古さを微塵も感じさせない。このティーポをベースに、アルファロメオ155、ランチア・デドラ、クーペ・フィアットなどたくさんの車種が生まれた。

私事だが、筆者は1971年生まれ。クルマには幼少から興味があったが、いざ免許が取れる18歳が近づくと、より一層、実感としてクルマへの気持ちが強くなっていった。そのため、このあたりから欧州COTY受賞車に対する「実感」が伴ってくる。

《1980年代、その他の受賞車》
1983 アウディ100(3代目)
1984 フィアット・ウーノ
1985 オペル・カデット(5代目・カデットE)
1987 オペル・オメガ
1988 プジョー 405

【1990年代】えっ、あのフィアットのレアモデル(ただし日本だけ)もアワードだったの!?

■1990 シトロエン XM

DS、CXと続いたシトロエン・フラッグシップの伝統を継いだXMは1989年のデビュー。ベルトーネが描いた鋭角的なスタイルは、実は豊かな曲面でできている。いわゆるEセグメントの高級車だが外観のメッキは最小限で、リアにハッチゲートを持っているのも「旗艦といえど実用車」というフランス車らしさを感じる。ハイドロニューマチックは電子制御化され「ハイドラクティブ」に進化。乗り心地と操縦性の両立を図った。その一方でハイテク化を目指しすぎたため「壊れるクルマ」という印象が強くなってしまったのも確かだった。

■1992 VW ゴルフ(3代目)

欧州実用車の鑑(かがみ)とでも言えるVWゴルフだが、欧州COTYを獲得したのはこの3代目(ゴルフIII)が初めて。というより、VW自体が初受賞だったというのは驚かされる。ゴルフIIIは、それまでのゴルフが誇った質実剛健さはそのままに、品質・居住性を高めていた。ゴルフIの時代にデビューし、ゴルフIIには発展せずそのまま生産を続けたカブリオレは、この世代でようやくフルモデルチェンジを果たしたほか、初のワゴンボディ「バリアント」もラインナップ。狭角2.8L V6エンジン搭載の「VR6」も設定されていた。

■1993 日産・マイクラ(2代目。日本名:マーチ)

日産を代表する小型ハッチバック「マーチ」は、欧州では「マイクラ」と呼んでいる。現在では、軽自動車にそのポジションをすっかり取られてしまったが、かつては主力車種だった。丸いスタイルが特徴の2代目(K11型)が出たのは、1992年のこと。「日本車初の欧州COTY受賞車」という栄誉を持つ。

■1996 フィアット・ブラーボ/ブラーバ

日本でも売っていたけど、地味で知名度が低い欧州車……の筆頭格が「フィアット・ブラビッシモ」ではないだろうか。前述のフィアット・ティーポの後継モデルで、正式な車名は「ブラーボ/ブラーバ」。3ドアをブラーボ(Bravo)、5ドアをブラーバ(Brava)と呼んでいた。日本では「ブラーボ」をブラビッシモと改名して販売していた。ということは、あのブラビッシモは欧州COTY受賞車というスゴいクルマだったということに……。たしかに、乗るとなかなかソツのない実用車だ。

■1998 アルファロメオ 156

実は、このクルマが欧州COTYのアワードカーだということをすっかり忘れていた(オーナーさんごめんなさい)。アルファロメオに初の栄冠をもたらした「156」は、今なお色褪せない美しい外観が特徴だ。後継の159も素晴らしいデザインを持つが、一気に車体が大きくなったこともあり、156を未だに愛してやまないオーナーは多い。走りと実用性を兼ね備えていたスポーツワゴンも大いに魅力的だ。当時、ヒット作となった理由もよくわかる。

《1990年代、その他の受賞車》
1991 ルノー・クリオ(2代目。日本名:ルーテシア)
1994 フォード・モンデオ(初代)
1995 フィアット・プント(初代)
1997 ルノー・メガーヌ/メガーヌ・セニック(初代)
1999 フォード・フォーカス(初代)

【2000年代】ミニバン初の受賞車「フォード S-MAX」……って何?

■2005 トヨタ・プリウス(2代目)

日本の「標準車」ともいえるプリウス。しかも、売れに売れた2代目が、欧州COTYというとても栄誉ある賞を獲得したクルマだと知る人は、同車のオーナーで何人いるだろう。そういう意味では、このプリウスも「日本では知られざる欧州COTY受賞車」ということになる。見る目が変わるのではないだろうか。

■2007 フォード S-MAX(初代)

メガーヌ・セニックの誕生後、欧州各メーカーでは大小様々なミニバンを用意しているが、欧州フォードは2006年に「S-MAX」という7人乗りのラージモデルを発売。ベースは同車のモンデオで、快適性・居住性と操縦安定性を高い次「日本では知られざる欧州COTY受賞車」「知られざる……」である。現在は2015年デビューの2代目に置き換わっている。

なお、「フォーカス」をベースにして開発された「フォーカス C-MAX」もあり、こちらは2006年から2年ほど、日本にも正規輸入が行われていた。

■2009 オペル・インシグニア(初代)

2009年の受賞車は、日本でも、一部のファンに絶大な?人気を誇る「オペル・インシグニア」だ。これまた「なにこれ知らないヨ!」というクルマだと思う。かつてオペルには、日本でも売れた「ベクトラ」というDセグメントセダンがあったが、インシグニアはまさにその後任車種。日本未導入だったことが惜しまれほどに美しいスタイルだ。なお、中国などでは「ビュイック・リーガル」(これも懐かしい名前)として売られていた。現在は2代目となっている。

《2000年代、その他の受賞車》
2000 トヨタ・ヤリス(初代)
2001 アルファロメオ 147
2002 プジョー 307
2003 ルノー・メガーヌ(2代目)
2004 フィアット・パンダ(2代目)
2006 ルノー・クリオ(3代目)
2008 フィアット 500

【2010年代】オペル、ここでも大健闘……でも日本ではも知られていない車種ばかり(涙)

■2012 オペル・アンペラ

この記事のカバー写真も飾ったのが、この「オペル・アンペラ」だ。実際の中身はGMのプラグインハイブリッドカー「ボルト(Volt)」で、欧州で販売するためにオペル(イギリスではボクスホール)ブランドのクルマとしたもの。149hpを発生するモーターと1.4Lエンジンを搭載。リチウムイオン・バッテリーの容量は16kWhで、最初の40〜80kmほどを電気モーターだけで走行可能と謳っていた。

こちらは、本家?シボレー・ボルト。なおややこしいことに、シボレーは「ボルト(Bolt)」という電気自動車を2016年から販売している。コンセプトから外観まで、ボルト(Volt)とは一切関連がないため、注意が必要。

そして最後は、これまたオペルの登場だ。日本でも以前販売が行われていた「アストラ」の、現在の姿である。いい意味で色気のないデザインだったアストラも、今やすっかりスタイリッシュに。こちらもオペル自体が日本から撤退したあとのモデルなので、日本には入ってきていない。惜しい。

《2010年代以降、その他の受賞車》
2010 VW ポロ(5代目)
2011 日産・リーフ(初代)
2013 VW ゴルフ(7代目)
2014 プジョー 308(2代目)
2015 VWパサート(8代目)
2017 プジョー 3008(2代目)
2018 ボルボ XC40
2019 ジャガー I-PACE
2020 プジョー 208(2代目)
2021 トヨタ・ヤリス(4代目)

58台におよぶイヤーカーの顔ぶれと、過去の受賞回数を見てみると、日本でもっともメジャーといえるフォルクスワーゲンが4回、メルセデス・ベンツが1回、BMWに至ってはなんとゼロである。これは、欧州COTYが比較的小型車・実用車が受賞しがちということもあるのだが、それにしてもフィアット9回、ルノー6回、欧州フォードとプジョーが5回という内容を見ると、わたしたち日本人がなかなか知り得ない、欧州の文化・自動車社会の様子や実態が窺えて興味深い。日本では「知られざるクルマ」が、欧州ではトップアワードを獲得するのだから。

次回は、大きく内容の舵を変え、「日本で売られていた豪州車」をお送りする。どうぞご期待あれ。

この記事を書いた人

遠藤イヅル

1971年生まれ。東京都在住。小さい頃からカーデザイナーに憧れ、文系大学を卒業するもカーデザイン専門学校に再入学。自動車メーカー系レース部門の会社でカーデザイナー/モデラーとして勤務。その後数社でデザイナー/ディレクターとして働き、独立してイラストレーター/ライターとなった。現在自動車雑誌、男性誌などで多数連載を持つ。イラストは基本的にアナログで、デザイナー時代に愛用したコピックマーカーを用いる。自動車全般に膨大な知識を持つが、中でも大衆車、実用車、商用車を好み、フランス車には特に詳しい。

遠藤イヅル

AUTHOR

愛車の売却、なんとなく下取りにしてませんか?

複数社を比較して、最高値で売却しよう!

車を乗り換える際、今乗っている愛車はどうしていますか? 販売店に言われるがまま下取りに出してしまったらもったいないかも。 1 社だけに査定を依頼せず、複数社に査定してもらい最高値での売却を目 指しましょう。

手間は少なく!売値は高く!楽に最高値で愛車を売却しましょう!

一括査定でよくある最も嫌なものが「何社もの買取店からの一斉営業電話」。 MOTA 車買取は、この営業不特定多数の業者からの大量電話をなくした画期的なサービスです。 最大20 社の査定額がネット上でわかるうえに、高値の3 社だけと交渉で きるので、過剰な営業電話はありません!

【無料】 MOTA車買取の査定依頼はこちら >>

注目の記事
注目の記事

RANKING