ルノー

これぞチューニングの魔術師! 平凡なファミリーセダンが立派なスポーツカーに!? 「ルノー12ゴルディーニ」国内試乗

かのカルロ・アバルトと並ぶ、チューニングの名匠といえばアメデ・ゴルディーニを措いて他にいない。魔術師ともいえる彼の手に掛かったクルマは、操る者を刺激に満ち溢れた世界へと誘った。

アメデの気質を反映したような多面性

1969年にデビューした小型セダンのルノー12。なんら変哲の無いファミリーカーも、ゴルディーニの手にかかればスポーティなクルマへと生まれ変わる。

自動車の世界で“魔術師”と呼ばれるチューニングの名匠は、歴史上に少なからず存在する。例えばアバルトの開祖カルロ・アバルトなども、その一人。しかし魔術師の代名詞の代表格と言えば、やはり思い出されるのはアメデ・ゴルディーニである。

1899年6月23日、北イタリアのエミリア・ロマーニャ州の小さな町バッツァーノに生まれた彼は、実は『アメディオ・ゴルディーニ』として生を受けた生粋のイタリア人。1930年代中盤まではイタリアを拠点として、エンジニア兼レーシングドライバー兼コンストラクターとしても名声を高めていったが、その後はフランスにて、ルノー公団をパートナーとしたチューナーとして、素晴らしい成果を達成。いつしか世間から、“ル・ソルシェ(魔術師を意味するフランス語)”の愛称で呼ばれることになった。

今回の主役であるフレンチブルーの『ルノー12ゴルディーニ(R12G)』も、もちろん彼が手がけた。前任モデルに当たる『ルノー8ゴルディーニ』で得たノウハウを、余すところなく注ぎ込んだ一台である。

ルノー12は1965年から『プロジェクト117』の社内コードで開発がスタートし、62年にデビューしたリアエンジンの小型車R8と、多目的5ドアハッチバック中型車R16の間のギャップを埋める中間車種として期待されていた。FWD機構は採用するものの、比較的シンプルで経済的。それまでのフランス土着性を強調したモデルから、発展途上国でノックダウン生産できるほど生産効率が高く、派生車種の開発が可能、というのが与えられた命題だったとされる。

とはいえ、その中身はもともとブラジル・フォードのためにルノーが設計した小型車『コルセル』のボディを改装したものだったが、1969年に正式デビューを果たしたのちはヨーロッパ各地で好調なセールスを記録。その後のルノーが開発する中級モデルの規範となった。

ブルーのボディカラーにホワイトのストライプはゴルディーニの定番。ライトウェイトバージョンはバンパーレスとなっている。

そしてR12にも、1971年からゴルディーニ版が用意された。R12Gは大成功を収めたR8Gと同様、ワンメイクレース『クープ・ナシオナル・ルノー・ゴルディーニ』に供用。若きドライバー達にとっては、登竜門というべき存在となったのも特筆すべきトピックと言えるだろう。

実際にコクピットの主となって走らせてみると、そのフィールは意地の悪い期待を裏切るほどにナチュラル。真四角の外見とは裏腹に、かなりクセの強いR8Gよりは遥かに取っ付きやすい。

『R4』や『R16』ではエンジンが前車軸より後方に縦置きされていたが、R12のエンジンは同じ縦置きFWDながら、フロントオーバーハング内に収めた特異なプロポーション。コーナリングではかなりのアンダーステアに見舞われる。でも、その大部分は、いわゆる「手アンダー」であることが判ってくる。低速時だけでなく、スピードがある程度乗ってからもやたらと重いステアリングと、「エイヤっ!」とばかりに覚悟を決めて格闘すれば、思いのほか優れた回頭性を披露してくれる。

横一文字のシンプルなダッシュボードのデザインは、ベース車両が実用車であることを窺わせる。ノンアシストのステアリングとはまさに格闘するよう。

また、四輪独立懸架を採用したR4およびR16とは違って、リアはリジッドアクスルとされたサスペンションのチューンも素晴らしい。高速走行時のスタビリティは現代車にも遜色ないレベル。乗り心地も、簡素なハンモック式シートと相まって、快適至極なものとなっている。

しかし、このクルマの魅力の大部分は、『ル・ソルシェ』の仕立てたエンジンにあると言えよう。R12Gのエンジンは、ルノー16TS用の直列4気筒OHVクロスフローユニットをチューンアップしたもの。あるいは『アルピーヌA110-1600S』用をディチューンしたという方が、聞こえが良いかもしれない。

16 TSと同じ1.6リッターのクロスフローOHVエンジン。圧縮比を10.25:1へ引き上げるのと同時に、ウェバーを2基装着するなどのチューニングによって、ノーマルの倍以上にあたる125psを発生した。

いずれにせよ、1565㏄の排気量から125psという、この時代としてはなかなかのハイチューン。実際に走らせてみると、いわゆる「カムに乗る」回転域に達すると、ウェーバー・キャブレターの心地好い吸気音とともに、気持ちよく吹け上がってくれる。また、スロットル操作に対するレスポンスも素晴らしく、渋いアクセルを不用意に踏みこむと、車体全体が弾けるように反応する。

同じ1.6L級のスポーツエンジンでも、例えば『アルファ・ロメオ・ジュリア・スーパー』などよりも明らかに速いのだが、その一方で例えば都内の渋滞でノロノロと走る状況になっても、極めてフレキシブルなキャラクターを見せてくれる。まったくもって大したエンジンであると感心させられてしまったのである。

我々がイメージする『ル・ソルシェ』アメデ・ゴルディーニと言えば、どの写真でも必ず咥えタバコ。そして苦虫を噛み潰したような表情で、黙々と仕事に向きあう姿が思い出されよう。また、その頑固な職人気質と秘密主義が災いして、1960年代末頃のスポーツカーレースの現場では、マシンづくりを担当するアルピーヌとの間に確執が生じていたことも有名なエピソードとされている。

アルミホイールのようにも見えるが、13インチのスチールホイールに一部塗装を施す。当時のルノーの定番3穴だ。室内で最もスポーティな演出となるのが、この大型の3眼式メーターだ。レッドゾーンは7000r.p.m.となる。ヘッドレストのない簡素なパイプフレームのシートは、ライトウェイト専用の装備品。見た目からは想像出来ないほど座り心地は良く、長距離運転も可能なレベル。

しかし、世のレジェンドの多くがそうであるように、ゴルディーニも単に頑固で生真面目なだけの人物ではなかったようだ。まだイタリアで活動していた戦前、さるレーシングガレージからその才能を見込まれてヘッドハンティングされたゴルディーニは、こう応えたという。「ヴァカンスでパリに行くので、帰ったら詳しくお話ししましょう」。しかし、彼がイタリアに帰ることはなかった。

パリへと到着した彼は、早々に一人のパリジェンヌと恋に堕ちてしまう。そして、かの地での生活費を得るために、イタリアを代表する高級車『イソッタ・フラスキーニ』のパリ代理店、デュバル&カッタネオに職を得たことを契機に、そのままフランスに居ついてしまうのだ。つまり彼には、人生における重要な転機を恋愛のために決定してしまうロマンティックな一面もあったのである。

翻って、このルノー12ゴルディーニについても、創造主であるアメデの気質を反映したような多面性が散見される。実用車としての本分はそのまま、ル・ソルシェ仕立てのエンジンでホットな性能を獲得。さらに極上の高速ツアラーとしての側面をも併せ持つ。 なんとも奥の深いスポーツサルーンであることよ! と、納得してしまった。

【SPECIFICATION】RENAULT 12 GORDINI Light Weight Version
■全長×全幅×全高:4300×1640×1390mm
■ホイールベース:2441mm
■トレッド(F/R):1340/1330mm
■車両重量:940kg
■エンジン:直列4気筒OHV
■総排気量:1565cc
■最高出力:125ps/6250r.p.m.
■最大トルク:14.3㎏-m/4500r.p.m.
■サスペンション(F/R):ダブルウイッシュボーン/トレーリングアーム
■タイヤ(F&R):155HR13

フォト:内藤敬仁/T.Naito Tipoより転載

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