103年に及ぶベントレーの歴史を語るに欠かせない1台
数十年にわたり路上を離れ保管されていたベントレーTシリーズ最初期モデルが、完全なレストアによって甦りつつある。6.25LのプッシュロッドV8は15年以上ぶりに始動し、長期間の放置にもかかわらずエンジンとギアボックスが良好な状態であることが証明された。少なくともあと1年半はかかると思われるレストアプロジェクトを経て、優れたコンディションに戻された後、2023年、ベントレーヘリテージコレクションに加えられる予定だ。
Tシリーズで最古の車両であるこの個体は1965年9月28日に製造された。世界各地で試運転が行われたこの車両は、シェルグレイのエクステリアにブルーレザーのインテリアで仕上げられていた。2016年10月、アプレンティスのグループがTシリーズVIN(車両識別番号)001の若返りプロセスを開始、トリムを取り外しホワイトボディに戻されたのを皮切りに、この個体は現役復帰への道を歩み始めることとなった。作業の中断こそあったものの、ヘリテージコレクションに再び注目が集まり、この車は復帰の道を歩み続けている。
Tシリーズの歴史を簡単におさらい
1958年、ベントレーは初のモノコックボディの設計を開始。コーチビルドのビジネスが衰退し顧客の期待や要求も変化する中で、ベントレーのボディは小型化されても、それまで同様の広さ、豪華さ、快適さが維持されることを期待された。1962年にはジョン・ブラッチレイが、スチールとアルミニウムによるモノコックボディの新しいエクステリアを完成。これは先代S3の乗客スペースを改善したもので、車体長は約180mm短く、車高は約130mm低く、幅は約89mm狭められていた。キャビンスペースは全体的に拡大、トランクも大きくなっている。新開発のV8エンジンを搭載した7台のプロトタイプは、16万km超の耐久走行を含む大規模なテストを実施。ドライブトレインを搭載するサブフレームを分離し、「ビブラショック」というゴム製のサブフレームマウントを開発するなど、設計上の工夫も凝らされた。
Tシリーズは1965年10月5日のパリモーターショーで初めて発表・展示された。225馬力、6.25LのV8は元々1959年にベントレーS2に搭載されるため設計されたもの。当時このエンジンは2.7 lb/hp(1.2 kg/ps)という、市販車としては世界最高のパワーウェイトレシオを達成した。オーバーエンジニアリングとも言われたこのエンジンだが、その固有の強度、信頼性、開発ポテンシャルから、その後50年にわたりベントレーの主力エンジンとして使用されたのである。
初代Tシリーズは1,868台が生産され、税引き前価格は5,425ポンド、大半はスタンダードな4ドア・サルーンだった。1966年には2ドアバージョンが、その翌年にはコンバーチブルも登場している。1977年にはマイナーチェンジでT2と呼ばれるモデルとなり、1980年まで生産された。