海外試乗

【海外試乗】電動パワートレインでもアルファらしさは健在だった「アルファロメオ トナーレ」に最速試乗!

ハンドリングが楽しめるのはさすがアルファロメオのSUV!

2019年のコンセプトカーお披露目から3年少々、そして市販モデルのワールドプレミアから……2ヶ月半ちょい? か。だいぶ待ったようなあんまり待ってないような微妙な感じの書き出しになっちゃいましたが、とにもかくにもアルファロメオ・トナーレのステアリングをようやく握ることができました。ひゃっほー!

トナーレの試乗、ホントに待ち望んでたんですよぉ。だってトナーレは、アルファロメオの長い歴史で初となる電動化モデル。ここから先にデビューするアルファは、基本、電動化モデルばかり。そして2027年には何とラインナップのすべてがBEV(バッテリーEV)のみになる。そんな計画が発表されてます。

でも、アルファロメオといえば、これまで何機もの名作と呼ばれる内燃機関を生み出してきたブランド。僕も含め、それらのテイストに魅せられて長年ファンを続けてる、ちょっとばかり原理主義的なところのある人というのも少なくありません。トナーレがそういった古くからのファンを満足させることができるクルマに仕上がってるのかということは、完全電動化に向かっているアルファの未来を占う第1弾の出来映えはどんなのかというのと同じくらい、気になってたのです。

どうせ何となくバレてることでしょうから速攻で結論に飛んじゃいますけど、トナーレ、ブラーヴォ! ってな感じでした。古い内燃機関が持つ味わいというのはもちろん微塵もありませんが、つきつめれば僕たちがアルファに期待してるのは“そこに美しさはあるか?”“そこにドライビングプレジャーはあるか?”ということになるわけで、それは両方とも見事に“ある!”だったのです。

今回の国際試乗会で僕たちに用意されたのは、トランスミッションに48VのP2モーターを組み込んだ前輪駆動の“ハイブリッド”、前輪をエンジンで後輪はモーターで駆動する4WDの“プラグイン・ハイブリッド”と2系統あるうちの、前輪駆動のハイブリッド・モデル。ワールドプレミアされたときのレポートでクルマの概要をざっくり説明させていただいてるから全面的に繰り返すことはしませんが、こちらは旧FCA時代からのファイアフライ系ユニットをベースにしながら新開発しなおしたという1.5L 4気筒ターボを搭載し、7速DCTにP2モーターが内蔵される、という仕組みです。

上級版の160hp仕様とエントリー版の130hp仕様とがあるのですが、僕たちに与えられたクルマがすべて160hp仕様だったことから予想すると、日本仕様もこちらが中心になるんじゃないかと思います。160hpの最高出力を発生するのは5750rpm、240Nmの最大トルクを発生するのは1500rpm。48VのP2モーターは、単体では20hpと55Nmですが、トランスミッション比が2.5対1であることからトルクのギアボックス入力値では135Nm相当とのこと。無視することのできない数値ですね。

最初に走らせたのは、ヴェローチェというスポーツ志向の強いトリムが与えられたクルマでした。フロントのスクデット(盾)やグリル下部、サイドスカート、リアのディフューザーなどがブラックアウトされているのが識別点です。もう一方のTIはエレガントなグランツーリスモとでもいうべきモデルで、上記のディテールがシルバーにあしらわれています。どちらも基本的なメカニズムは一緒なのですが、唯一異なるのは、ヴェローチェでは電子制御のアクティブサスペンションを選べること。試乗車には、そのアクティブサスが備わっていました。

試乗会の舞台となったのは、ミラノから50kmほど北上したところにあるコモ湖の周辺。湖と山の間に街が形成されてるエリアなだけに道幅はほとんどのところが狭く、対向車とのすれ違いに気づかいが必要なところもあったほどでした。そこで活きたのが、トナーレのコンパクトなサイズです。全長4528mm、全幅1835mmという寸法は、ジュリエッタよりはひとまわり大きいけどステルヴィオよりはひとまわり小さい、といったところ。ステルヴィオより70mm横幅が小さいのは、サイズの問題でアルファロメオのSUVを諦めようとしている人にとってはいいニュースでしょう。全高は1604mmで視線もそれなりに高いし取り回しも悪くないので、ひさびさに走るイタリアの狭い道でもほとんど難儀しなくてすみました。日本にもマッチングのいいサイズだと思います。

乗り心地もなかなかのものでした。街から街を繋ぐルートにはところどころ路面の荒れた箇所もあったのですが、走行モードを選ぶDNAダイヤルをD(ダイナミック)にしない限り、しなやかに路面の上を滑るかのようで快適。段差の大きなところではもちろん突き上げがありますが、角が上手く丸められていて不快な衝撃には感じられませんでした。室内のクオリティに安っぽさがないこともあるのですが、そうした日常的な移動のような走らせ方をしていて不満らしい不満を感じることがなく、素直によくできてるな、と思えたものです。

パワートレーンの出来映えがよかったことも、良好な影響を及ぼしていました。発進から20km/hくらいの速度域ではP2モーターだけで走ることも可能なんですが、それを越えてエンジンが始動するのも注意していないと気づかないほど。静かだし変な振動もないし、とてもスムーズです。エンジンそのものの低速トルクも豊かな部類なんですが、低回転域からゆるりと加速していくときはモーターがアシストしてるような気配を感じます。という自信なさげないい方をあえてしたのは、P2モーターのみで走ってるときやアクセルペダルの力を抜いて回生が働いてるとき以外、実はあまりハイブリッドであることに意識がいかないからなのです。電動化のメリットが感じられないというわけじゃなく、フィーリングがあまりに自然だから。協調制御、初めての電動化モデル、それも自社開発であるにしては、なかなか巧みだと思います。

けれど、僕が確かめたかったのはそこではありません。“そこに美しさはあるか?”については見てのとおり素晴らしくスタイリッシュで、しかも写真と較べて実車の方が遙かにカッコイイのでわざわざ触れるまでもありませんが、“そこにドライビングプレジャーはあるか?”、です。正直に白状するなら、ファイアフライ系は昔のファイア・エンジンと同じで実用エンジンのくせしに思いのほか楽しいし気持ちいいということを知っているので、それがベースになってるのだから、と不安視はしていませんでした。

そこは期待どおりで、結構レスポンスよくシャープに回るし、回したときにはわりと心をくすぐるサウンドを発してくれるし、ハイブリッド・システムのアシストもあって馬鹿っ速というほどじゃないけどスピードもしっかり気持ちよく伸びていくし、充分にスポーティといえる感触。思いのほか高回転型の性格を見せたのは予想外でしたが、それだからこそフィールとしてのおもしろさを伝えてくれるわけだし、そもそも低回転域はただでさえ充分なトルクがあるうえにアシスト付き。ぶん回していく楽しみはあるけど実はどの領域でも力不足なし。昔の内燃機関のような濃さはもちろんありませんが、このパワートレイン、扱いやすいうえにドライバーがちゃんと楽しめるようになってるのです。

けれど、それ以上に楽しいのは曲がりっぷりの方でした。今回の試乗コースはほとんどが狭いしそれなりの交通量はあるしというルートで、スピードレンジそのものはそれほど高いといえるものではありませんでしたが、トナーレの運動性能のよさははっきり判りました。山間や湖に突き出てる岬に沿ったワインディングロードでは、もちろん走行モードはD(ダイナミック)。アクティブ・サスも一段階、グッと引き締まります。

ちょっとばかり元気に走らせてみると、もちろん背の高さはあるしロールもそれなりにしてるはずなんですが、そのネガは全く感じず。ステアリングを切り込むと間髪入れずにフロントタイヤが反応して、全く遅れることなくリアタイヤが追従してきます。走らせ方によってはスルリとリアを適度に泳がせながら曲がっていったりもします。おもしろいくらいに気持ちよく曲がってくれるのです。ステルヴィオを初体験したときの驚きを思い出しちゃいました。ただしステルヴィオとの明確な違いというのもありました。

ステアリングを切り込んだ瞬間にシュッと素早くインに向こうとするような初期の敏感さはなく、そこは若干マイルドで、クルマが曲がる姿勢に移りはじめたらそこからもっと曲がっていこうとするような感覚。急にロールが大きくなるわけでもオーバーステアが顔を出すわけでもなく、クルマの姿勢も描いていく軌跡も極めて自然で、ただただ曲がっていくことが気持ちいいのです。

ちなみにこの後、アクティブ・サスを持たないTIの方にも試乗したのですが、フットワークの素晴らしさやそのときのクルマの動き方の推移などもまったく一緒。運動性能についても乗り心地についても、アクティブ・サスはより実力が膨らんでるのは確かですが、FSDダンパーを持つ通常のシャシーでも、そのほとんどの部分をカバーできてるのです。もともとの基本的なパフォーマンスが素晴らしく高いのですね。

僕はこれまで、個人的にはステルヴィオこそスポーツ系SUVの中で最もドライビングプレジャーの強いクルマだと思ってましたが、アルファ初の電動化モデルとなったトナーレも全く負けていませんでした。しかもコンパクトで使いやすいSUVとしてのデイリーな実用性に、理屈はいくらでもいえるけど理屈抜きでもカッコいいスタイリングデザイン、です。まだこれからステルヴィオ並みの速さを味わわせてくれそうな275hp+4WDのプラグイン・パイブリッドが後追いで登場してくるわけですが、日々の相棒にするならこれでも充分以上です。ちょっとばかり原理主義的なところのある古臭いアルファ好きですが、ちょっと惚れちゃいました。

【Specification】アルファロメオ トナーレ ハイブリッドVGT160(FF)
■車両本体価格(税込)=ー円
■全長×全幅×全高=4528×1841×1601mm
■ホイールベース=2636mm
■車両重量=1525kg
■エンジン型式/種類=ー/直4DOHC16V+モーター
■総排気量=1469cc
■最高出力=160ps(118kW)/5750rpm
■最大トルク=240Nm/1500rpm
■モーター最大トルク=55Nm
■モーター最高出力=20ps(15kW)
■バッテリー種類=リチウムイオン電池
■燃料タンク容量=55L(ハイオク)
■燃費=(WLTC)15.0~18.0km/L
■トランスミッション形式=7速DCT
■サスペンション形式=(前)ストラット/コイル、(後)ストラット/コイル
■ブレーキ=(前)Vディスク、(後)Vディスク

嶋田智之

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