マセラティ

上品な見た目からイメージするよりも過激なスポーツカー!「マセラティMC20」【野口 優のスーパースポーツ一刀両断!】

クーペ・オープン・EVすべてがダラーラと共同開発した共通カーボンモノコックを採用

マセラティにとっては久々の本格的スーパースポーツとなる「MC20」。昨今はどちらかというとレヴァンテがヒットしたことにより、SUVを得意とするブランドだと思われていそうだが、本来はグランドツーリングカーを得意とするメーカーだ。そんなマセラティが手掛けるミッドシップスポーツは、果たしてどのように我々を楽しませてくれるのか、乗る前から大きな期待を抱いていた。

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ボディはカーボンモノコックで車両重量は150kg以下、パワーウェイトレシオは2.3kg/psをマーク。レーシングコンストラクターでるダラーラの風洞実験室で、2000時間以上に及ぶテストによって空力も徹底的に磨き上げられたという。

何故なら、かつては1970年代にメラクやボーラ、2004年には事実上エンツォ・フェラーリの姉妹車であるMC12をリリースするなど、数十年に一度、思い立ったかのようにミッドシップスポーツを製作し、我々の度肝を抜かしてくれるとあって期待するなというほうが無理な話。それに、今回のMC20は未来をも見据えたその第一章でもある。ここでテストしたクーペに加え、オープンモデルの「MC20 チェロ」、そして近い将来用意されるというEVモデルまで共通のカーボンモノコックをダラーラと共同開発したというから尚さらである。

マセラティの完全自社開発となる3000㏄のV6ツインターボは、最高出力630ps、最大トルク730Nmを発生。F1由来のプレチャンバー技術を採用しているのもトピックだ。

詳しい解説などは本サイトで試乗記も含めて掲載されているので割愛させていただくが、まず注目すべき点はマセラティが新開発したネットゥーノと呼ばれる3L90度V型6気筒ツインターボエンジンであろう。F1マシン由来の副燃焼室、即ちプレチャンバーシステムを導入し、ハイパワー&高効率を狙い、燃費性能の向上にも貢献するという、スーパースポーツファンにとっては惹かれるユニットが搭載されている。今後、EVモデルが控えているからハイブリッドなんて中途半端なものは不要とばかりの潔さにもエールを贈りたくなるほどだ。

しかも、最高出力は630ps、最大トルク730Nmと、V6エンジンとは思えないパフォーマンスまで実現している。実際のフィーリングも素晴らしい印象だ。8速DCTのギア比も実に巧みで、2000rpmを下回るような低回転域でも十分なトルクを発し、ゴー&ストップを多用するような一般道でも非常に扱いやすく仕上げられている。その上の領域もレスポンスに優れ、その気になれば豪快な加速を見せるのだが、やや荒々しい気質をもつのも事実。カーボンモノコックとの組み合わせということもあり、上品な見た目からイメージしてしまうと、ちょっと過激なスポーツカーと思えるかもしれない。

0-100km/h加速は2.9秒以下で、トップスピードは325km/h以上というパフォーマンスを誇るMC20。今後オープン版の「チェロ」が追加されるとともに、将来的にはBEV版も予告されている。

そもそもマセラティというブランドに皆、ジェントルなイメージを抱きがちだが、良い意味で野蛮な演出が意図的に仕組まれていることを忘れてはならない。このMC20も同様。一見マナーのよさそうなミッドシップカーにみせながら刺激に溢れていることこそ魅力なのである。それでいて、ノーマルモードとして機能するGTモードでは快適性を維持しているから実にマセラティらしいと思う。

各所にカーボン製パーツが奢られるなどスパルタンな装いのコクピット。センターのディスプレイは10インチで、ドライブモード切替はセンターコンソールにあるダイヤル式のスイッチで操作する。

これとほぼ同じアプローチとして挙げられるのは、マクラーレンGT。ただ、マクラーレンは4L V8ツインターボ、MC20は3L V6ツインターボを搭載し、少ない排気量にも関わらず、パワーで10ps、トルクはなんと100Nmも上回っている。これこそプレチャンバーシステムによる効果なのかもしれない。内燃エンジンの終焉が秒読み段階に入っているとも囁かされる昨今において、これは衝撃的な事実である。

シートはオプションのフルレザータイプが装備。セミバケッド形状でホールド性も良好だ。

ドライブモードの設定は先にも触れたが、「GT」の上に「スポーツ」「コルサ」、そして滑りやすい路面向けの「ウェット」と全部で4モード用意され、思っていた以上に明確な差が設けられていたのは好感がもてた。その内訳をセンターモニターで確認できるようになっているのも有り難く、分かりやすい。今回は雨上りのハーフウエットという状況下だったため、それほど攻めることはできなかったものの、その動きは相当期待できそうな感触だったのは確か。本音でいえば、サーキットで試したい!という感情に襲われたほどである。

その最大の理由は、マセラティが新たに導入したセミバーチャルステアリングと呼ばれる、旋回中に接地面を一定に保つことができるというその効果を体感してみたくなったからだ。昨今、他車でも見られるようなアプローチにも思えるが、この手の技術はドライバーが受ける感触も極めて重要。全開に近い領域で攻めてみてはじめて分かる魅力がある気もする。

デザインもマセラティらしく、比較的コンパクトに映るボディサイズも悪くない。コクピットなどインテリアの雰囲気もカーボンが多用されていてMCの名に恥じないし、シンプルかつ機能的にレイアウトされているのも刺激的で惹かれるものがある。

ホイールは20インチが標準で、タイヤはフロントが245/35ZR、リアが305/30ZRサイズを装着。銘柄はピレリではなく意外にもブリヂストンのポテンザスポーツである。

最後に個人的な話で恐縮だが、その昔は何度もマセラティ本社を取材したことがあるし、長期レポートでマセラティ・スパイダーやクアトロポルテを担当した経験もあるだけに、このブランドに対しては思い入れが相当強い。それに、長年スーパースポーツカーを試乗&ウオッチングしてきた身としても、このMC20には黙っていられなかった。今回、様々な事情により試乗が延期されていたゆえ、念願かなってようやく実を結んだから何よりだ。

今、マセラティは再び活気づいている。今回のMC20のほかにもSUVのラインナップにグレカーレを加えるなど、今後はさらに注目されていくブランドになるだろう。近い将来デビューするはずのMC20のEV仕様も是非とも試したいと思っている。

【Specification】マセラティMC20
■車両本体価格(税込)=26,500,000円
■全長×全幅×全高=4669×1965×1221mm
■ホイールベース=2700mm
■トレッド=前1681、後1649mm
■車両重量=1500kg以下
■エンジン型式/種類=-/V6DOHC24V+ツインターボ
■内径×行程=88.0×82.0mm
■総排気量=3000cc
■エンジン最高出力=630ps/7500rpm
■エンジン最大トルク=730Nm(74.4kg-m)/3000-5500rpm
■燃料タンク容量=60L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速DCT
■サスペンション形式=前Wウイッシュボーン/コイル、後Wウイッシュボーン/コイル
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前245/35ZR20、後305/30ZR20

マセラティMC20公式サイト

フォト:郡 大二郎/D.Kori

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

野口優

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