コラム

PHEVモデルながら”エンジン命”というミッドシップ・フェラーリを堪能することができる!「フェラーリ296GTB」【野口 優のスーパースポーツ一刀両断!】

F8トリブートやSF90ストラダーレとは似て非なる実にフェラーリらしい1台

スーパースポーツカー界において相変わらず支持層が多いフェラーリは、世界的に活発化する脱炭素社会に向けて比較的早い段階からアプローチを試みてきたブランドだ。すでにSF90ストラダーレにおいて3モーターハイブリッドシステムを実現しているが、さほど時間を要さずに今度はその弟分的位置づけ、というよりも事実上、今後の主力車種となる「296GTB」をハイブリッドモデルとして開発し、先ごろ早くも日本に上陸を果たした。

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この296GTBでもっとも注目すべきは、ミッドに積まれる完全新開発となる内燃エンジンの2.9L 120度V型6気筒ユニット。多く採用されてきた90度V型と比較してバンク内にターボユニットなどを収めてコンパクトにまとめられるほか、等間隔の点火が実現できるなど、高い吸気効率や低重心化も図れることから実は他のメーカーでも開発が進められている今もっとも注目されている形式を、どこよりも早くフェラーリは実現した。

リッターあたり219psを誇る3L V6ターボは、ガソリンエンジンのみで最高出力663ps、最大トルクは740Nmを発生。リアのみに搭載されるモーターは、単体で最高出力167ps、最大トルク315Nmで、システム合計出力は830psとなる。0→100km/h加速は2.9秒というパフォーマンスを披露。

それに電気モーターがエンジンと8速DCTの間に組み合わされ、663psを発生するV6エンジンに、電気モーターの167psが上乗せされるかたちで最高出力830psを発揮する。7.45kWhの容量をもつ80個のセルからなる高圧バッテリーはフロア下に配置され、重量バランスも40.5対59.5%とミッドシップらしい配分を確保。乾燥重量も1470kgに収めているからハイブリッドモデルとしては、かなり軽量に仕上げられている。

ボディサイズは全長4565×全幅1958×全高1187㎜で、これはフェラーリの現行ラインナップの中では最も小さいサイズだ。リアパンパー下部はディフューザー形状とされており、エンドマフラーはセンター出しとなる。

フェラーリ自身、過去10年間でもっともコンパクトなベルリネッタと主張するボディは、実際に見た印象も同じ。250LMをモチーフにしたデザインも好感がもてるし、その効果が活かされ、意外にも新鮮さを覚える。F8トリブート比で50mmほど短いホイールベースが功を奏し、軽快感すら思わせるからディーノの再来のように思えてしまった。新型モデルが出る度に少しずつサイズアップされてきたV8ミッドシップモデルに慣れてしまっていたが、この296GTBを見ると、このサイズを待っていたと気付かされたところもあるほどだ。

コクピットの造形は機能的かつシンプルで、各種コントロール系のスイッチ類はステアリング部に集約されている。助手席にはグローブボックス上面にパッセンジャー・ディスプレイを搭載。

コクピットのデザインや操作性に関しては、最新フェラーリと共通してステアリングにタッチ式スイッチを設けるなどデジタル化されているが、個人的にはこういったスポーツモデルの場合は、あまり賛成できない。慣れてしまえば問題ないと当初は思っていたが、運動性能に優れ、機敏な反応を示すようなミッドシップモデルなら慣れよりも確実性を優先した物理スイッチにすべきではなかろうか。と、乗り込んだ瞬間、つぶやいてしまった。

運転席のディスプレイは液晶パネルで、新コンセプトのフルデジタルインターフェースを採用。タコメーターの左右は様々な情報を切り替えて表示することが可能だ。

エンジンスタートボタンを押すと、SF90ストラダーレ同様、無音。かすかにインバーターの音が聞こえる程度で、この状態で最大25km走行することが可能だ。これまでのような爆音を発する跳ね馬とはおさらば!と言わんばかりのマナーの良さに加え、日本の住宅環境を考えれば、これは極めて助かると痛感する。もちろん、常に充電させながら走行することも可能だから、自宅周辺のみEV走行をするのもいいが、効率ということを意識してドライブするようになる、ある種の効能のようなものも備えていると思う。

技術的な解説を加えると膨大なスペースを割いてしまうから割愛させて頂くが、296GTBはハイブリッドスポーツと言ってもF8トリブートと変わらず、フェラーリらしいミッドシップカーに仕上げられているのが何よりもトピックだろう。即ち、エンジンが活きているということ。どうやらフェラーリ社内では“ピッコロV12”と愛称づけられているようで、実際の印象もその表現で強ち間違っていないと思ったのは本当だ。

端的に言えば、V8ツインターボと比較しても遜色ないレベルと言ってもいいだろう。V6ツインターボに電気モーターの出力が加えられることで、F8トリブートとほぼ同等の体感が得られる。確かに厳密に言えば、やや劣る面もあるが、それはあくまでも極限まで攻めた場合のみ見せる程度で、日常からワインディング、時々サーキットを楽しむというライフスタイルであれば、296GTBのエンジンフィールを満喫するほうがお奨めだ。

というのも、このV6ツインターボエンジンは意外にも堪能的で、V8では得られない気持ちよさが備わっている。最大で8500rpmまで回り、しかも常にトルクフル。完全バランス型エンジンらしい振動の少なさも相まって、ターボであることすら忘れそうになる。EV走行からエンジン始動もごく自然で違和感がないし、常用域では扱いやすさが際立つ。

そんなエンジンフィールが特に活きるのは、やはりワインディングだ。120度V型エンジンによる重心の低さが功を奏して思いのまま狙ったラインをトレースしながらコーナリングを存

タイヤは前245/35ZR20 、後305/35ZR20サイズで、「ミシュラン・パイロットスポーツ4S 」が装着されていた。

分に楽しめる。F8トリブートと比べてホイールベースが短いこともあるのだろう、タイトコーナーでの動きも得意で、気持ちの良いターンインが決められる。フロア下に置かれるバッテリーセルの重量は意外にもあまり感じられなかったが、むしろトラクション性能がF8トリブートほどではないことのほうが気になってしまった。それでもこの堪能的なエンジンフィールとサウンドはお見事! 個人的には、F8よりもフェラーリらしいと思う。

トランクはフロントのボンネット内のみで、容量は小型スーツケースがひとつ収まるほどのスペースとなる。

無論、エアロダイナミクスへのアプローチも実は相当こだわっているのだが、それを公道レベルの試乗では到底お伝えできないのが残念でならない。ラ フェラーリ譲りのアクティブ・スポイラーや可変デバイスを備え、アセット・フィオラノ仕様なら250km/hで最大360kgのダウンフォースを発生するというから凄まじい。ボディデザインの造形をシンプルに仕立てながら、見えないところで効果を生む手法を取るゆえに体感してみたいと思わせるのもフェラーリらしい一面だ。

PHEVモデルゆえ、外部充電可能なリチウムイオンバッテリーを搭載し、充電口は左リアクオーターに設置。モーターのみで走行するeDriveモードの最高速は135km/hで、25kmの航続距離を実現している。

今回久々に、エンジン命!というミッドシップ・フェラーリを堪能できた気がする。F8トリブートやSF90ストラダーレとは似て非なる、実にフェラーリらしい1台だ。ハイブリッドになっても、こうした個性を感じられるのは、大いに悦ぶべきだと思う。

【Specification】フェラーリ296GTB
■全長×全幅×全高=4565×1958×1187mm
■ホイールベース=2600mm
■トレッド=1665/1632mm
■車両重量=1470kg
■エンジン種類/排気量=V6DOHC24Vツインターボ+モーター/2992cc
■最高出力=663ps(488kW)/8000rpm
■最大トルク=740Nm(75.5kg-m)/6250rpm
■モーター最高出力=167ps(122kW)
■モーター最大トルク=315ps(32.1kg-m)
■燃料タンク容量=65L(プレミアム)
■トランスミッション=8速DCT
■サスペンション(F:R)=Wウィッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=

■車両本体価格(税込)=36,780,000円

フェラーリ公式サイト

フォト=篠原晃一/K.Shinohara

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

野口優

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