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不吉!禍々しい!AMT製プラモ「1958年型プリマス」で悪霊のとりついた姿”クリスティーン”を再現【モデルカーズ】

実車20数台を地獄送りにして完成した映画

クリスティーン――映画劇中車の中でも、特に目立った改造が加えられたルックスでないにも拘わらず、ベース車の名前より劇中の名前で広く知られている、稀有な例であろう。映画『クリスティーン(CHRISTINE)』は1983年に公開された作品で、原作はスティーブン・キングによる同名小説、刊行も映画と同年である。

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ストーリーはざっくりと言えば、邪悪な意思を持つ1958年型プリマス・フューリーを中心に据えたホラー映画である(原作は青春小説という趣も強い)。気弱だがメカには強いアーニーがひと目惚れで購入した、ボロボロの1958年型フューリー。しかし、“クリスティーン”の愛称を持つこのフューリーは、何か“邪悪なもの”がとり憑いた魔性の1台で、救い主アーニーへの愛情から、彼に害をなすものを血祭に上げていく――これが基本的なストーリーで、映画も小説も大きく異なってはいない。

主役のクリスティーンは一応フューリーとされるが、劇中車は「PLYMOUTH」のエンブレムこそ付くものの「Fury」ロゴはなく、その辺はぼかされている。この年までのフューリーは専用色としてアイボリーのみ用意されていたが、クリスティーンは特注で赤く仕上げられたという設定で、小説では詳述されているものの、映画では冒頭シーンの描写から、その設定が引き継がれていることが何となく窺える程度。

撮影には20数台のプリマスが全米からかき集められたが、フューリーは希少かつ貴重であったため、同じボディを持つベルベディア、サボイ、そして基本ボディは共通である1957年型がそれらの大半で、1958年型フューリー/ベルベディアのパーツを使って外観を統一したという(この2モデルは、カラーリングとロゴ以外のエクステリアは概ね共通)。このプリマスたちは、迫力ある走行シーンのため強力なエンジンを載せた仕様から、クラッシュのための“見た目だけ”仕様、そして隅々まで完璧な美しさを持つ仕様まで、様々にアレンジされたが、最終的には2台を残して全てが破壊されたそうだ。

もっとも、金にモノを言わせて現役車両を買い込みそれを片っ端から壊したということでもなく、廃車置き場から引き揚げてきた完全なジャンクなども多く含まれていて、何とか撮影可能な状態に修復し(でっち上げ)たということらしい。また、映画の見所のひとつであるのが、破壊されたクリスティーンが、傷ついた車体を自己修復させていくシーンだ。これは実は樹脂で複製したボディパネルを使用し、水圧を利用した機械で内側から吸い込み潰している映像を逆回転させたのだという。

アルミ箔以外のクラッシュ表現方法を模索して辿り着いたのは……?
1958年型プリマスのプラモ化としては、AMTが2002年に新金型キットとして1/25スケールモデルをリリースしている(No.31156)。1990年代後半の同社製新規キットの流れを汲んだ、フレームまで別体のフルディテールモデルで、佳作と言ってよい内容を持つ製品だが、その数年前までのキット(例えば1957年型クライスラー300C)と比べると、モールドはいささかシャープさに欠けるようだ。このキットがわざわざ新規金型でデビューしたのは、もちろん『クリスティーン』仕様を出すためで、AMTからは赤成型(801)と白成型(840)で劇中車仕様が発売されている。

ここでお目にかけているのは、このAMT製キットをベースに、劇中のワンシーンの再現を試みたものだ。使用キットはノーマルのベルベディアだが、キット内容にデカール以外の違いはなく、作例ではクリスティーン仕様のキットからナンバーのデカールのみ流用して仕上げている。また、フロントグリルなどには、MCG(モデルカーガレージ)製のエッチングを使用した。キットにはトランクの「PLYMOUTH」ロゴがモールドされていないので、ノーマルで作る場合にもこのエッチングはあった方が便利だ。

再現したのは、終盤のブルドーザーとの対決中にフォード・コルチナに突っ込むシーンでの、ボンネット先端がサメの歯のようになった状態である。クラッシュ状態の模型での再現は難しく、よくあるのはアルミ箔を使った作り方だが、皺の寄り方がクチャクチャになりすぎる感じなので、個人的にはこれは好きでない。薄い金属板を使うのがベストであろうと思うが、作業そのものがちょっと難しそうだ。

そこで採用したのはプラペーパー。実はかねがね、潰れた鉄板の皺の寄り方は、紙をクシャクシャにした時の感じに近いのでは? と思っていたのだ。プラにしてペーパーであるプラペーパー(素材的にプラ板と異なるものなのかは知らないが……)、結論としては、ベストな選択であったと思える。他にも、不良たちにメチャクチャに破壊されたシーン、火だるまになったシーンなど、作ってみたいクリスティーンは枚挙に暇がない。また折を見てチャレンジしてみたい。

作例制作・文章=秦 正史/フォト=服部佳洋 modelcars vol.284より再構成のうえ転載

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