ボクらのヤングタイマー列伝

ボクらのヤングタイマー列伝:第8回『キャデラック・アランテ』世界で一番長い生産ライン誇った!? 米伊合作のエキゾチックカー

遠藤イヅルが自身のイラストともに1980年代以降の趣味車、いわゆる”ヤングタイマー”なクルマを振り返るという、かつて小社WEBサイトでひっそり!? 連載していた伝説の連載、その進化版がこの『ボクらのヤングタイマー列伝』です。第8回は、まだ登場していなかったアメリカ車の中から、キャデラック・アランテをピックアップ。はい、ドゥビルでもエルドラドでもなく、アランテですよ!

ボクらのヤングタイマー列伝第7回『ボルボ480』の記事はコチラから

ピニンファリーナのデザインでエキゾチックさとアメリカ車らしさを見事に両立

100年以上の歴史を誇り、現在もなお世界有数の高級車ブランドとして、そしてアメリカを代表するメーカーとして君臨するキャデラック。同社は伝統的に2ドアモデル(クーペやコンバーチブル)をラインナップに設定して来ましたが、1980年代頃のアメリカでの同セグメントの市場では、メルセデス・ベンツSLをはじめとした欧州車が高い人気を持っていたのです。そこで、キャデラックもそのクラスに対抗出来うるクルマを用意することにしました。それが、1986年に登場した『アランテ』です。

すでにキャデラックには『エルドラド』という高級パーソナルクーペがありましたが、アランテはさらにその上をゆく超高級車として開発されました。そのためにも、アランテには既存車との大きな差別化が必要でした。そこで、キャデラックは、デザインをイタリアのカロッツェリア、ピニンファリーナに依頼しました。同社はアランテにアメリカ車然とした造形を与えず、それでいてキャデラックとわかるフェイスと派手目なテールエンドの採用によって、エキゾチックさとアメリカ車らしさを見事に両立、超高級車にふさわしい品格を与えることに成功したのです。

アランテが凄かったのは、なんと生産の大部分がイタリアのピニンファリーナ工場で行われたことでした。アメリカでシャシー、ドライブトレーンなどの走り関係を、イタリアでボディ内外装が組み立てられ、それを合体していたのですが、アメリカとイタリアを行き来する生産中のアランテを運ぶ航空機も専用機が充てられていたというのですから驚きです。ですがそれゆえに販売価格は高騰し、エルドラドの2倍以上の約5.5万ドルという高価格車になってしまいました。この価格が販売の低迷を呼び、イタリアとの混血車として華々しく登場したアランテの首を絞めるという、なんとも皮肉な結果を招いてしまったのです。

日本でもアランテは当時、ヤナセが1200万円くらいで販売していました。あの頃の1200万円といえば、マセラティ・シャマル、BMW M5、タイプ964のポルシェ911カレラ4とほぼ同価格。免許を取るか取らないかの若きボクは、こうした高級エキゾチックカーにも強い憧れを持っていたのですが、その中にちゃんとアランテも入っていました。デザインの好みがピニンファリーナ派だったこともあって、アランテの姿の美しさにノックアウトされたのです。買える訳などないのに、空輸して作る手間を考えると、アランテは決して割高なクルマじゃないよね、なんて生意気にも思っていましたっけ(笑)。ちなみに1990年頃のエルドラドは約680万円で、メルセデス・ベンツの560SELが1600万円超だったことを考えると、これも決して高過ぎるような気はしませんよね。

この連載らしく、最後にあまり知られていない豆知識で締めましょう(笑)。アランテにも『ノーススター』エンジンの搭載車があったのです。意外! ということで、また次回!

カー・マガジン463号より転載

この記事を書いた人

遠藤イヅル

1971年生まれ。東京都在住。小さい頃からカーデザイナーに憧れ、文系大学を卒業するもカーデザイン専門学校に再入学。自動車メーカー系レース部門の会社でカーデザイナー/モデラーとして勤務。その後数社でデザイナー/ディレクターとして働き、独立してイラストレーター/ライターとなった。現在自動車雑誌、男性誌などで多数連載を持つ。イラストは基本的にアナログで、デザイナー時代に愛用したコピックマーカーを用いる。自動車全般に膨大な知識を持つが、中でも大衆車、実用車、商用車を好み、フランス車には特に詳しい。

遠藤イヅル

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