今、自動車業界は100年に一度の変革期と言われ、新領域CASEを始めカーボンニュートラルやSDGs、更にはコロナ禍やウクライナ危機に翻弄され半導体不足といった多くの課題を抱え大変な状況です。
今回は、その中でも業界変革の中心で提唱されてから6年以上が経過したCASEを中心に現在からその先の未来を予測してコラムをお届けします。
CASEとは?
CASEとはメルセデス・ベンツ(当時のダイムラー社)が2016年に発表して掲げた4つのテーマ「Connected / Autonomous / Sheared & Services / Electric」の頭文字による造語で、現在は自動車の関係業界に留まらず、各国の政府や当局、経済界でも使用され一般用語化していて、自動車業界の現在を象徴して「CASE時代」とも称されます。
では現在、どのようなCASEの機能やサービスが実現されているかの代表例をご紹介します。
〔Connected/コネクティッド〕
事故等緊急時の通報(新型車では義務化され認証項目に)、スマホ連動(車両状態の確認や駐車の遠隔操作等)、車車間及び路車間通信による予防安全機能、OTA(Over The Air)通信による各種機能のアップデート、クラウド連携による車載器機能の強化やAI連動、オペレーターサービス(ナビ設定やホテル予約等)
〔Autonomous/自動運転〕
レベル1~2の運転支援からレベル3~5の自動運転までに区分され、現在はレベル2の運転支援(衝突被害軽減ブレーキ、前走車追従型の加減速及び車線維持機能等)が大半、一部ではレベル3の条件付き自動運転(ホンダの高速道路渋滞時等)やレベル4の限定領域における自動運転(メルセデス・ベンツ×ボッシュのドイツ、シュツットガルト空港における無人バレーパーキング等)
〔Sheared & Services/シェア&サービス〕
カーシェアサービスが中心(日本ではタイムズカー、カレコ、オリックスカーシェア等を中心にステーション数は2万を超える)、広義の概念ではレンタカーや非保有型販売の自動車(残価設定クレジットやサブスク等)も含まれる
〔Electric/電気自動車〕
BEV(Battery Electric Vehicle=バッテリーで走行する電気自動車)やFCEV(Fuel Cell Electric Vehicle=水素を電気に変える燃料電池によって走る電気自動車)といった走行中にCO2を出さない自動車、状況によってBEVとして使用できるPHEV(Plug in Hybrid Vehicle=プラグインハイブリッド自動車)やHEV(Hybrid Vehicle=ハイブリッド自動車)
CASEの本質とそれぞれの関係性
CASEは元々メルセデス・ベンツの戦略で「富裕層」「高級車」「厚利少売」を基本とするプレミアムブランドのビジネスを前提とした機能やサービスであると捉えることができます。
背景には社会情勢やメガトレンドを鑑みGAFAMに代表される巨大IT産業や新進気鋭の急成長業界に対する自動車業界からの対抗策として企画された? と想定され、企業においてはIndustory4.0~5.0(産業革命)に大きく関わる次世代の投資領域として株価影響も大きいと考えられます。
CASEの各々の関係性は、コネクティッド(C)が自動運転(A)を実現するための車/路車間通信による安全予測やシェア&サービス(S)の予約・配車、電気自動車(E)による給電サポート(計画)をインターネットでつないで支え、更に電気自動車は制御の精緻化で自動運転を支えている構図です。
そしてCASEは従来からの自動車本体にも多大な影響を与えます。
更に関係性を紐解いていくと、初めにコネクティッドはWEBや販売店、テレマティクスサービスといった機能も連携させるハブ(HUB)の役割も果たし非常に広範囲で多岐に渡る顧客接点のプラットフォームも担うCASEの中核領域と捉えられます。
次に自動運転は自動車業界の責務でもある安全機能の延長線上にあり、特にメルセデス・ベンツは安全について「自動車を発明した会社としての責任」を掲げているため安全の重要性について改めて定義する意図もあったのではないか? とも思えます。
自動運転は研究開発において新機能の検討から信頼性の担保に至るまで様々な分野において幅広い研究と開発が必要で大規模投資が可能な資金力が相応になければ実現できず、また法の整備や当局、業界団体との調整といった渉外活動への労力も必要で特に企業の実力が問われる領域と言えます。
続いてシェア&サービス(S)は、シェアカーサービスを中心とした各種付帯サービスですが広義にはMaaSやモビリティサービス(オンデマンド交通等)、ユーザー非保有型の販売(残価設定型ローンやサブスク等)といった乗り方も概念には含まれ、特にサービスといった面で鑑みると従来の自動車ビジネスとはかけ離れた新規事業(会員制のコミュニティ等、各種有料サービス)についても示唆されている領域です。
最後に電気自動車(E)は、前述のBEVやFCEV、PHEVを軸に電動パワートレイン(電気モーターで走行)によって走行中のCO2低減を図ることでカーボンニュートラルに貢献、またエンジンに比較してモーターは細かい制御が可能であるため緻密な制御で自動運転を支えます。
更にはV2H(ビークルトゥホーム)による家屋(ソーラーパネルからの給電が代表例)や家庭生活との連携や融合によってエコで効率的な生活を人々に提供することにも寄与、自動車の多角化と未来の可能性を膨らませます。
電気自動車について少し深堀すると、いま世界的に叫ばれているカーボンニュートラルやSDGsにおいて、特に都市部の排出ガス公害が問題になっている地域への対策としては明らかに有効ではあるものの、同時に課題も存在しておりBEVの利便性を高め無給電走行距離を伸ばそうとすればするほど走行用のバッテリー重量が重くなってしまいます。
では重いと何が課題か? ですが、重量が重いとブレーキの制動距離(ブレーキを踏んでから停止するまでの距離)が重量に乗数(※かけ算で)比例して止まるまで距離が伸び、コーナリングも同様の理由で絶対性能が低下して安全面でマイナスです。
そして加速する際にも重いと大きなエネルギーが必要となり、更にはタイヤや道路も傷めることから走行距離に応じた税の導入も検討されています。
つまり、重いことは安全やエネルギーの面でマイナスであるので長年にわたって自動車の軽量化が追求され続けてきた理由がココにあります。
[※補足 ニュートンの運動方程式:F=m×α(F=外力=自動車を停止するために必要な力=(マイナス)ブレーキ力、m=質点の質量=自動車の重量、α=(マイナス)加速度=減速度)
→ブレーキ力(厳密にはタイヤを止める力)を一定とすると、重量が増加した分がかけ算で減速できず止まるまでの距離が延びるメカニズム]
更にはバッテリーを造るのに必要なレアアース(貴金属:リチウム、コバルト、ニッケル、グラファイト等)が、世界の全ての自動車を走らせるだけ確保する見通しが立っていないことやバッテリー製造時に必要とされるエネルギー、発電リソース(特に火力発電ではCO2が発生)や送電ロスといった課題も抱えているためバッテリーが小さくて済むFCEVや走行用バッテリーを用いずともCO2を排出しないエンジン用の代替燃料や水素エンジンも将来に向けて開発が続けられています。
増加するCASE開発費と企業の負担
CASEは自動車本体の開発に加えて新たな領域の開発であるため大規模な研究開発費(グローバルに俯瞰すると年間1兆円程度必要か?)を投資できる企業でなければ業界をリードしていくのは難しく、現在は企業間のアライアンスやM&A(合併買収)も活発になっています。
ユーザーにとっては、より高度な機能やサービスが廉価に手に入るのであれば良いと思えると同時に「同じ技術やサービスを各ブランドが使うことで違いが無くなってしまうさみしさ」も感じるかもしれません。
安全に関わる協調領域とサービスの付加価値(検索機能やオペレーターサービス等)に関わる競争領域の双方で業界が上手く廻ることを願います。
CASE時代の未来にある『Brand Originality』時代
提唱後、6年の経過からCASEの未来を予測すると、コネクティッドを軸に発展して安全や安心に関わる緊急通報が進化して、個人の健康状態や診断履歴も含む病院連携を実現、自動運転の高度化に影響の大きい車/路車間通信(Car to X)機能が進化して、人間が運転する「認知」「判断」「操作」を上回る『事前の安全確認』によって高速道路等での自動運転が進展すると推定されます。
一方、より便利で楽しい情報検索やエンターテイメントといった分野のコネクティッドサービスも今後は拡充が予測され、車外(スマホ等)利用と車内(モニターやステレオ)利用の2軸でユーザーが有償選択できる新しい形のサービスが増えていくと思われます。
シェア&サービスもコネクティッドと連携して、今後は増加が見込まれる団塊の世代を中心とした免許返納層向けのオンデマンド交通(MaaS)や電車やバスといった他の交通機関と連携された広域の移動サービスがリリースされると考えられます。
電気自動車は、静粛性や重量、絶対数やコストといった面で相性の良いプレミアムブランドを中心にBEVやPHEVを中心に割合が増加していき、それ以外のブランドでは補助金制度の限界やユーザーコストの観点から環境性能の高い(CO2排出の少ない)エンジンが搭載されたHEVを中心に引き続きカーボンニュートラルの実現に向けた主力として推移することが予測されます。
これは世界的にBEV化が推進され仮にレアアース確保のメドが立ったとしても日本やアジア、アフリカ、南米といった全ての地域にBEVを走らせるだけの全体予算が世界レベルでは無いことからです。
例えば、中古車50万円+年間維持費20万円で自動車に乗っているユーザーへ補助金無しで中古車100万円以上するBEVに乗るように! や無給電で500km以上走る必要性があるユーザーへBEVに乗るように!という推奨は非現実的です。
従って従来から欧州ブランドが高いシェアを持つプレミアムブランドはBEV、日本ブランドが高いシェアを持つそれ以外のブランドはHEV中心という状況が今後も想定され、そういった意味では日本の自動車メーカーがBEVで出遅れたと言われるのは必然で、むしろグローバルでどういった役割を日本の国や自動車メーカー、サプライヤー等が担うかを整理、戦略立てすることが重要ではないかと考えます。
今後、自動車業界は「CASE」時代によってもたらされた「走行性能以外の魅力」への変革によって、高度自動運転やコンシェルジュレベルにサービスを広げた「エクスクルーシブ」なブランドや体験型の各種機能を備えた「移動ラウンジ」を提供するブランド、走行に特化した「移動コストパフォーマンス」のブランド、或いはカーシェアを中心とした「シェアカー」のブランドといった具合に『Brand Originality』の時代へ移り変わると予測しています。
この記事を書いた人
自動車4社を経てアビームコンサルティング。企画業務を中心にCASE、DX×CX、セールス&マーケティング、広報、渉外、認証、R&D、工場管理、生産技術、製造等、自動車産業の幅広い経験をベースに現在は業界研究を中心に活動。特にCASEとエンジンが専門で日本車とドイツ車が得意領域。