BMW

【Tipo】70’sグランドツーリングカーの夜明け。それまでにない優雅さと高性能を持ち合わせた『BMW 3.0CS』編

スパルタンでストイックなスポーツカーが主役だった1960年代が終わると、高性能でありながら長距離も快適に運転できる、グランドツーリングカーの時代がやってきた。その黎明期を飾った、対照的な2台とは?

スポーツカーが快適さを身に着けた

1960年代まで、スポーツカーと言えば基本的に2シーターの高性能なクルマのことを意味していた。リアにシートを持つ2+2のグランドツーリングカーも存在したが、こうしたモデルは、アストン・マーティンDB系に代表されるような、超富裕層向けの高価なものが多かった。

もちろんそこまで高級でない、例えばアルファ・ロメオ・ジュリアGTのようなモデルも少なくなかったが、もう少し上のクラスで、高性能かつ豪華、そして快適に運転を楽しめる2+2グランドツーリングカーを求める声が高まったのが1970年代初頭だった。

1972年12月発行の、カーグラフィック臨時増刊「73国産・輸入乗用車」(二玄社)によれば、日本に於ける輸入車の当時の販売価格は、アストン・マーティンDBSが1250万円、アルファ・ロメオ2000GTVが281万円で、ポルシェ911は435~665万円だった。注目すべきは、911と同程度の600万円前後の価格帯に、新しい2+2スポーツカーが目立ち始めたことだ。ジャガーEタイプ・シリーズⅢ(V12エンジン)クーペが623~690万円、ランボルギーニ・ウラッコが654万円、そして今回紹介するBMW 3.0CSが520(CSIが554)万円、シトロエンSMが568万円といった具合だ。

1970年代初頭に萌芽した、この手の高性能2+2グランドツーリングカーは、オイルショックを乗り越え、1970年代後半更に車種を拡大していく。ここではその代表車をご覧にいれよう。

余裕ある走りと高い安心感

まずご紹介するのは、BMW 3.0CSだ。筆者の世代はこのボディのBMWを見ると、1976年のメイクス選手権でポルシェ935と熾烈な戦いを演じた、グループ5の3.5CSLをつい思い浮かべてしまうのだが、元になった3.0CSは、それまでにない優雅で高性能なグランドツーリングカーだった。

【写真24枚】余裕ある走りと高い安心感、BMW 3.0CSの詳細を写真で見る

戦後のBMWは、イセッタや700などの大衆車が人気を得たが、北米市場を狙ったV8エンジンの高級車シリーズは商業的に失敗で、同社の経営を圧迫していた。そのV8搭載車の最後を飾るモデルとして1962年に誕生したのが、ベルトーネ(ジウジアーロ)がデザインした美しい2ドアクーペの3200CSだったが、これも販売面は決して芳しくなかった。

ところが、1961年登場のノイエクラッセと呼ばれる1.5~2Lのセダンは、当時としては非常に高い基本性能を持つクルマで、大変なヒット作となり、同社の業績を一気に回復させた。そしてこの傑作車を元に、様々なバリエーションが誕生したのだった。

1965年に発表された2000C/CSはその一つで、ノイエクラッセのシャシーに、3200CSを近代化したようなデザインのクーペボディを載せ、2Lの直4SOHCエンジンを搭載したものだ。そしてこの2000C/CSを元に、BMWが新開発した2.8L直6 SOHCエンジンを搭載し、フロント周りを大きく変更したものが、1968年誕生の2800CSだった。更にその排気量を3Lに拡大して1971年に発表されたのが、3.0CSだったのである。

その後電子制御燃料噴射装備の3.0CSIや、ホモロゲモデルの3.0CSL、廉価版の2.5CSを追加しながら、1978年まで生産された。

今回お借りしたのは1972年式3.0CSで、新車で日本に輸入されたディーラー車を、美しくレストアしたもの。エンジンは2基のキャブレターを持つ直6 SOHC 2985ccで、180PSと26.0kg-mを発揮する。

大きなドアを開け乗り込むと、黒い革張りのシートが意外にもソフトな座り心地なのに驚かされる。エンジンをかけ、マニュアルシフトを操作して走り出す。まず感じられるのは、エンジンがスムーズかつダイレクトに吹け上がること。同時代の直6 SOHCであるニッサンL型は、アクセルを踏むとワンテンポ遅れてトルクが立ち上がる感じだが、こちらはアクセルの動きに即座に反応して太いトルクを立ち上げ、5000rpmくらいまで一気に回る印象だ。その際嫌な振動がほとんど感じられず、実に気持ちいい。

足周りは、思ったより柔らかめなのだが、ダンパーが効いているのか、動きがカッチリしている。また油圧のパワーステアリングのフィールが凄く自然で、やや重めながら、全く違和感なくステアリング操作が行えた。

今回は街中を少し走っただけだが、現代の路上でも十分以上の加速を見せてくれたし、ブレーキやミッションにも不安はなかった。これなら長距離でも疲れ知らずに運転できるはずだ。

(後編に続く)

【Specifications】BMW 3.0CS
■全長×全幅×全高:4660×1670×1370mm
■ホイールベース:2625mm
■トレッド(F/R):1446/1402mm
■エンジン形式:直列6気筒SOHC+2キャブレター
■総排気量:2985cc
■最高出力:180PS/6000rpm
■最大トルク:26.0kg-m/3700rpm
■車両重量:1400㎏
■サスペンション(F/R):ストラット/セミトレーリングアーム
■ブレーキ(F&R):ディスク
■タイヤ(F&R):195/70R14

文:中島秀之 撮影:奥村純一 協力:WANNA DRIVE ティーポ366号より転載
Tipo編集部

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