国内試乗

【最新モデル10番勝負!:JUDGE 01】オープンエアを手に入れた新作トライデントの第一印象とは!?【MC20チェロ×SL63】

マセラティMC20のオープントップ版であるMC20チェロをいち早く日本の公道でテストする機会を得た。直接のライバルとは言えないが、大変革のアップデートを遂げたメルセデスAMG SL63を同条件で試乗し、最新オープントップモデルがもたらすファン・トゥ・ドライブについて考察を行なった。

乗り心地は同モデルのクーペよりも勝るMC20

ひと口にスポーツモデルといっても、そのアプローチはメーカーによって様々。それが高性能であれば尚さら違いが現れ、ブランドによっては運動性能に対する考え方や手法がそれぞれ異なるから面白い。伝統のフロントエンジン&リアドライブ、あるいはミッドシップといったレイアウトのほか、搭載するエンジンやギアボックス、さらにドライブモードの設定など電子制御技術を活かした演出も含めて、〝如何にしてドライバーを夢中にさせようか〞と、巧みな戦略や戦術が見え隠れする。特にここで取り上げる今年注目の高性能オープンスポーツモデル、マセラティMC20チェロとメルセデスAMG SL63 4マチック+の2台は、各々の主義主張が正反対とはいえ、いずれも目指しているのは〝ファン・トゥ・ドライブ〞といったピュアイズム。今後、内燃エンジンの生産が厳しくなるであろう昨今の事情と重ね合わせれば、ドライビングの楽しさを今一度考察するには絶好の2台だと思う。

【画像16枚】マセラティ MC20&メルセデス SL63の詳細を見る

ただし、両車ともその生い立ちはもちろん、コンセプト自体が異なるのは言うまでもない。MC20はカーボンモノコック構造を採るミッドシップスポーツ、SL63は古くからFRレイアウトを受け継いできたラグジャリースポーツモデルとして造られている。しかし、昨今の著しい電子制御技術によって、例えコンペティションマシンと同時に開発が進められたミッドシップスポーツであっても快適性を重視するようになり、一方のFR車は大パワーを活かせるほどの優れた旋回性能を実現するなど、かつてネガティブだった要素をほぼ克服しているから、悩ましく思えることが時々ある。

クーペと比べ重量の増加はわずか65kg:リアのエンジンカバーにはオプションで特大トライデントを入れることもできる。スパイダー(オープントップ)となっても重量の増加は65㎏に抑えられ、ボディのねじれ剛性強化や重量配分の最適化 によってハンドリングやパフォーマンス性能はむしろ向上している。

そのミッドシップカーの中でもマセラティMC20は多くのライバル勢とはひと味違い、カーボンモノコックを使用しつつも高い快適性を実現しているのが最大の特徴。一見すると他社でも似たようなモデルもあると感じられるかもしれないが、搭載されるエンジンが要。何しろ、MC20に積まれるそれは、ネットゥーノと呼ばれるF1由来の副燃焼室、プレチャンバーシステムを導入した、3L 90度V型6気筒ツインターボユニット。630㎰ & 730Nmという大パワー&トルクを出力するだけでなく、燃費性能にも貢献する高効率な一面を併せ持ち、低回転域から扱いやすさが際立つ。

だからゴー&ストップを繰り返すような街中でも乗りやすく、躊躇することなく移動の足としても使いたくなるのだが、これがワインディングでも高い快適性を維持していたのには舌を巻いた。それもそのはず。実のところMC20は、クーペとオープントップのチェロとでは、カーボンモノコックの炭素繊維の層の分布を変えて、ねじれ剛性に対応している影響からか、乗り心地はクーペよりも優れている。しかもスポーツモードや、もっともハードなコルサを選択しても、ほとんど不快感なし。マセラティは特に足回りの設定についてアナウンスしていないし、クーペ比で65kgほど重くなった影響もあるのかもしれないが、以前乗ったクーペとはだいぶ印象が違ったのは事実だ。無論、コーナリング性能や加速など性能的には申し分ないどころか、期待を超える一面も見られるが、何よりもエモーショナルなエンジン特性がマセラティらしく、現代流の官能性があって惹かれてしまう。とはいえ、基本的には実直。さすがGT2マシンが用意されているだけのことはあると、納得の完成度を誇る。

一得一失なところがいまのメルセデスらしい

その点、SL63は想像通り、”豪快なグランドツーリングカー”といった印象だ。4気筒エンジンを搭載するSL43がひと足先にリリースされ、やや物足りなさを感じていたから、ようやく〝本命〞が上陸したことに期待が膨らんだのは筆者だけではないだろう。R232と呼ばれる今作では、ソフトトップへと回帰したと同時に+2シートも復活するなど、昭和世代にとっては”これぞSL!”と歓んでいるに違いない。特に585㎰&800Nmを発揮するAMG製4L V8ツインターボエンジンもさることながら、SL史上初の4WDシステムとリアアクスルステアを搭載するとあって、実際のフィーリングが如何なるものか気になって仕方がなかった。

しかし、実際に走り始めると、それ以前にまず剛性の高さに度肝を抜かれた。アルミとスチール、さらにマグネシウムとカーボンを組み合わせたというこのアーキテクチャのねじれ剛性は先代比で18%、横方向はAMG GTロードスターから50%、前後方向でも40%増ということもあって、とにかく強靭。それを油圧によってロール量を補正するAMGアクティブ・ライドコントロールの効果が重なる影響からか、豪快な加速を味わえる一方で”乗せられている”感が非常に強い。即ち、ドライバーとの一体感とは程遠く、とにかくV8ツインターボの主張に圧倒されるばかりだった。

中でもワインディングでは、コーナーとコーナーをつなぐ直進時における中間加速は9速スピードシフトMCTによる効果も相まって想像を超える速さを実感したゆえ、あなどると痛い目に合いそうな気さえするほどの大トルクに見舞われるが、旋回時は思った以上にノーズがインを突くうえ、電子制御LSDとリア側のダンパー制御が優れていることから、その安定感とコントロール性は見事。4WD制御と後輪操舵による効果もあってのこととはいえ、最新技術のオンパレードに感謝しつつ、AMGの底力を見せつけられる。

当然、乗り心地は良い。例えスポーツ+モードやレースモードでも、硬さを感じさせないよう巧みな制御によって抑えてこんでいるのはさすがメルセデスだと唸らせるが、豪快さが際立つ反面、あまりスポーティだとは思えないのが本音。欲を言えば、ほぼ同じコンセプトをもつベントレーのように、もう少し体感的なライド感が欲しいところだが、2シーターのGTロードスターをラインナップするメルセデスAMGにとっては、これはこれで正解だろう。技術の叡智が結集されているからこそ味わえるAMG流のファン・トゥ・ドライブがそこにはあり、いま超高性能をFRで安定させるには理想的な仕上がりなのも確かである。

 

フォト=篠原晃一 ルボラン2023年9月号より転載

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

野口優

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