BMW

SUV、電動化……いまとこれからのトップエンドを考察するシン・フラッグシップ論「メルセデスベンツ・EQS SUV vs BMW X7 vs アウディ・Q8 e-tron」

かつてはセダン一択だったが、いまや旗艦に位置付けられるモデルも多様化。近年では伝統的な旗艦の称号を戴くSUVも目立つ。では、なぜSUVなのか?ここでは旗艦ナンバーを冠したそれぞれの最新モデルを通じてその理由を探ってみる。

新たなSUVの旗艦誕生は必然の流れ?

まずは乗用車での旗艦、フラッグシップに求められる要素を整理してみよう。言葉通り、ブランドを代表するモデルとなるだけにクルマとしての能力はハード、ソフトの両面で頂点レベルにあることが必須となる。具体的には速さに代表される十分な走行性能と、ショーファードリブンにも対応できる快適性と室内の広さ。そして、フォーマルでいながら衆目を集める“華”をも兼ね備える、といったあたりになるだろうか。また、世界的に見れば近年は色々と物騒なだけに外界から乗員を守る性能を容易に付加できること。さらに付け加えるなら、電動化に代表される時代を象徴した新しさの表現も必要となるはずだ。

MERCEDES-BENZ EQS 580 4MATIC SUV SPORTS/日本仕様はベーシックな450と今回の580の2グレードで構成。580では自慢のMBUXハイパースクリーンも標準で備わる。小さいながらも3列目シートも用意され、乗車定員は7名。室内は上質ながら電気駆動モデルらしい新しさを強調する仕立て。

──と、このような視点で眺めると“現代の”旗艦を具現化する上でSUV、特にアッパークラスは実に都合が良い。走る場面を選ばない万能性やセダンと肩を並べられる快適性の高さと速さ。ちょっとしたストレッチリムジン並みの広さを確保できる室内。そして、プレミアムなBEVに欠かせない大容量バッテリーの搭載が比較的容易なことまで含めれば、総合的な適応力の高さはもはやセダンなど比較にならない。また、背の高い大柄な体躯は存在感の強さに加え、色々な意味での安全性を高める強みにもなる。唯一、昔ながらのフォーマル性の演出こそ容易とは言えないが、それとてモノに対する価値観が多様化している現代では大した欠点になり得ない。となれば、近年名の通ったブランドがこぞってプレミアムSUV市場に参入している流れは必然の結果と言うことができそうだ。

MERCEDES-BENZ EQS 580 4MATIC SUV SPORTS

さて、前置きが長くなって恐縮だがドイツ3強はSUVの旗艦作りにも早くから着手。すでにSと7、8というセダンで培われた由緒ある旗艦の称号をSUVモデルに与えている。しかし、最新作のキャラクター作りに関して言えばそれぞれに“原典”とは異なる味付けであることが興味深い。
例えばEQSの場合、先に登場したファストバック版ともども、伝統的なSクラスとは別モノの風情が際立つ。もちろん、これにはEQというメルセデスの新しい電気駆動ブランドの旗艦であること、そしてSUVについてはGLS(と、そのマイバッハ版)がすでに存在していることも大きく影響しているだろう。だが、全長が5mを超える体躯をまるで意識させない佇まいは、「メルセデスのS」に思い入れがある人ほど拒否反応を示すであろう仕立てで良く言えばフレンドリー、悪く言えば威厳の類は最低限だ。しかし、だからこそ“新しい何か”を感じさせるのもまた事実で、電気仕掛けが強調される室内回りともども新鮮味という点では今回の3台でもEQSは頭抜けている。

BMW X7 xDrive40d EXCELLENCE/最新仕様では、フロントマスクが7シリーズセダンに通じる押し出しの強い造形に。室内では、メーター回りにカーブドディスプレイが新採用された。シートは3列が基本で、2列目は左右が独立したキャプテンシートと3人掛けの一体型が用意。

一方、SUV版EQSで面白いのはライド感に往年のメルセデスらしさが垣間見えること。ファストバック版は車重を意識させない、良くも悪くも軽さが印象的な味付けだったが、SUVは重厚。そこに質感に溢れた滑らかさが加わって日常域では高級な走りが堪能できる。積極的に操ると2.8トン超えとなる車重を強く意識させられるが、見ためと走りのギャップの大きさは伝統的Sクラスにはない新種の旗艦を意識させるものと言ってもいいかもしれない。

ブランド固有の持ち味が息づくX7とQ8

そんなEQSと比較すると、まさにアッパークラスのSUVらしい押しの強さが印象的なのがX7。ピラー類を立て、たっぷりとしたグラスエリアを確保する標準的なSUVのプロポーションとあって、絶対的なマスの大きさに裏打ちされる存在感の強さは旗艦を名乗るのに相応しい仕上がり。どちらかといえばサイズ以上にスポーティな風情、あるいは端正な佇まいを旨としてきた往年の7シリーズセダンと比較すれば、こちらも旗艦らしさの演出手法は従来のBMWと一線を画している。

BMW X7 xDrive40d EXCELLENCE

標準的、と言えばX7は室内空間の作り方も大柄なSUVの王道を行っている。仕立てそのものは極めて上質、高級感も申し分ないのだが、それ以上に印象的なのは空間的なゆとり。その広さをもってすれば、例えば3列目シートを排除して2列目をリムジン風に作るというアプローチも旗艦としてはあり得たはず。しかし、そこを手堅く6/7シーターとしている点は新世代BMWの旗艦だと思うとむしろ新鮮な部分でもある。

AUDI Q8 55 e-tron quattro S LINE/標準仕様でも十分にスポーティだが、ボディはクーペ色を一層強めるスポーツバックも選択可能。タッチパネル主体のインパネは、上級のアウディに共通する作り。Sライン仕様のインテリアは、上質でいながらスポーティなテイストを強調する。

だが、いざ走らせればX7にはしっかりとBMWらしさも存在する。それは、大柄なSUVらしからぬドライバーズカー資質の高さだ。試乗車の場合、純粋な高級車だと思うと路面からの入力は多少だが大きめだし電動の2モデルに対して車内に入るノイズも大きい。だが、その巨体を思えばスポーティとさえ思えるライド感はBMWの一員に相応しい仕上がりであることもまた事実なのだ。
さて、残るはQ8 e-tronだが、「8」とは言いつつこのモデルもA8との関連性は薄い。外観はいまどきのクーペ風SUVで、フォーマルな風情は期待できない。現行の日本仕様は名前の通りBEV一択。元々、内燃機関仕様もあるだけにBEVらしさの演出はむしろ控え目で、その点での新鮮味も薄い。しかし、旗艦という存在にスタイリッシュな味わいを求めたいユーザーには安心して勧められる出来映えなのは確かだ。

AUDI Q8 55 e-tron quattro S LINE

また、今回のQ8で再認識させられたのは繊細かつ先進的というアウディのイメージを電気駆動が一層際立たせていることだ。電気モーターならではの静粛性や滑らかな加速は、多少無機的でもあるアウディ本来の性格にピッタリで、新しさの演出度合いではEQSに勝るとも劣らない。そして、さらに付け加えるなら試乗車では総電力量114kWhという大容量バッテリーを搭載しながら、積極的に走らせてもBEV特有の重さをさほど意識させなかったのは新しいQ8独自の魅力と言えそうだ。
と、いずれも新時代の旗艦らしさを垣間見せる今回の3車。その一方、長年培われた独自の強みも随所に継承している点はプレミアム3強の作らしい興味深い共通項と言えるかもしれない。

【PERSONAL CHOICE】

BMW X7
いずれも“原典”とは異なる性格で新時代の旗艦を主張するが、今回の3台から選ぶならX7。特に魅力を感じたのは、高級感を兼ね備える直6ディーゼルターボの息吹やサイズや重さを意識させない操縦性。また、良質な内燃機関を愉しめるのは今のうち、という意識もあるので。

【SPECIFICATION】MERCEDES-BENZ EQS 580 4MATIC SUV SPORTS
■車両本体価格(税込)=19,990,000円
■全長×全幅×全高=5135×2035×1725mm
■ホイールベース=3210mm
■車両重量=2880kg
■モーター種類=交流同期電動機×2
■最高出力(システム)=544ps(400kW)
■最大トルク(システム)=858Nm(87.5kg-m)
■バッテリー総電力量:107.8kWh
■一充電航続可能距離(WLTC)=589km
■サスペンション=前後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前後:275/45R21

問い合わせ先=メルセデス・ベンツ日本 TEL0120-190-610

【SPECIFICATION】BMW X7 xDrive40d EXCELLENCE
■車両本体価格(税込)=13,900,000円
■全長×全幅×全高=5170×2000×1835mm
■ホイールベース=3105mm
■車両重量=2560kg
■エンジン種類/排気量=直6DOHC24Vディーゼル+ターボ+電気モーター/2992cc
■最高出力=340[352]ps(250[259]kW)/4400〜rpm
■最大トルク=700[720]Nm(71.4[73.4]kg-m)/1750〜2250rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション=前:Wウイッシュボーン、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:275/40R22、後:315/35R22
※[ ]内はシステムトータルの数値

問い合わせ先=BMWジャパン TEL0120-269-437

【SPECIFICATION】AUDI Q8 55 e-tron quattro S LINE
■車両本体価格(税込)=12,750,000円
■全長×全幅×全高=4915×1935×1635mm
■ホイールベース=2930mm
■車両重量=2600kg
■モーター種類=交流同期電動機×2
■最高出力=408ps(300kW)
■最大トルク=664Nm(67.7kg-m)
■バッテリー総電力量=114kWh
■一充電航続可能距離(WLTC)=501km
■サスペンション=前後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前後:255/50R20

アウディジャパン TEL0120-598-106

フォト=岡村昌宏(CROSSOVER) ルボラン2024年2月号より転載
小野泰治

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