フェラーリは今、地球規模で求められているカーボンニュートラルの実現に向けて、エンジンのダウンサイジング化や燃焼の効率化といった既存技術の磨き込みによる進化とバッテリーとモーターによる走行の電動化といった革新でパワートレインを進化させていて、さらには環境性能に優れた発電施設の導入を行うなど取組みを強化しています。
今回は、その中から次世代のスーパースポーツカーへのあらゆるリクエストに応えるべく、フェラーリのブランドとしては市販車初のV型6気筒エンジンをツインターボで過給、プラグインハイブリッドシステムが搭載されたオープントップモデルにサーキット・セッティングが施された「296 GTS Assetto Fiorano(アセット・フィオラノ) パッケージ」にフォーカスして、次世代のスーパースポーツカーに相応しい圧倒的パフォーマンスによる感動やオープントップによる優雅さなどの魅力、それらを生み出す伝統と技術、将来像を中心にコラムをお届けします。
現代におけるスーパースポーツカーの最適解
始めにフェラーリの車名について、296の29はエンジンの総排気量2992ccから、6は6気筒エンジン、GTとは「Gran Turismo(グラン・ツーリスモ)」で長距離を高速移動できる高性能車といった意味を持ち、「296 GTB」のBは「Berlinetta(ベルリネッタ)」でクーペを「296 GTS」のSは「Spider(スパイダー)」でオープンカーをそれぞれ意味しています。
フェラーリが2021年に発表した「296 GTB」、続いて2022年に発表した「296 GTS」は、カーボンニュートラル時代に適合したプラグインハイブリッドシステムとV型6気筒ツインターボエンジン、デジタルインターフェースといった先進の技術とスーパースポーツカーに相応しい伝統的なデザインのプロポーションとサイズ、軽量高剛性のボディ、パワートレインのミッドシップレイアウトといった次世代のスーパースポーツカーのリクエストに応えるあらゆる要素を兼ね備えています。
では、なぜそれらが次世代のスーパースポーツカーにとって重要であるのか? と言えば、先ずプラグインハイブリッドシステムは充電器から充電したバッテリーの電気のみで走ることができるため、温室効果ガスや大気汚染物質を排出しない「ゼロエミッションビークル」として、各国の排出ガス規制が強まる中、将来にわたって世界中のほとんどの地域で走行することができます。
次に、V型6気筒エンジンは自動車レースの最高峰であるF1(Fomula1)でも採用されているエンジンの気筒配列で、かつてはマルチシリンダー(多気筒)のエンジンで競われていたF1もカーボンニュートラルに向けた時代の流れから、ダウンサイジングとして直列4気筒の採用が検討されていたものの、やはりマルチシリンダーの音やステータスといった側面から6気筒が採用され、現在のF1はV型6気筒ターボエンジンによるハイブリッドシステム〔F1ではMGU-K(Motor Generator Unit Kinetic)+MGU-H(Motor Generator Unit Heat)〕で競われています。
ちなみに、それぞれの用途(回転数や出力、トルク)ごとにエンジンの1気筒あたりで効率の良い排気量があるので、エンジンのダウンサイジングと言えば気筒数を減らすことが常套手段として用いられています。
スーパースポーツカーにおいても、エンジンの効率化と高出力化の両立といった面で6気筒はバランスが取れていて、V型6気筒ツインターボエンジンにプラグインハイブリッドシステムというパワートレインの構成は、まさに現在のF1同様に次世代に向けた一手と言えるのではないでしょうか。
そして、デジタルインターフェースは高度で複雑化したパワートレインや車両の制御といった数多くの情報をインフォメーションする役割とインフォテインメント機能を充足、拡張するといった役割も担うため、今後はAI活用などによる相互方向のコミュニケーションやデータ分析といった機能の進化も含めて必要不可欠で急速に進化している次世代の領域です。
一方でスーパースポーツカーとして、デザインについては伝統的で魅力的なプロポーションと適度なサイズ、素性として旋回性能に優れるパワートレインの搭載レイアウトといったこともまた必要不可欠で、全体が上手くパッケージングされていることがとても重要です。
美しいボディデザインとパッケージの巧妙
「296 GTS Assetto Fioranoパッケージ」の流麗で美しいボディラインはエアロダイナミクスが突き詰められ、走行安定性に寄与するのはもちろんのこと、デザインには伝統も受け継がれています。
フェラーリのデザイン部門を率いるフラビオ・マンツォーニ氏によると、1960年代のロマンティックなデザイン、特に「250 LM」という12気筒エンジンをミッドシップに搭載した初のフェラーリでプロトタイプ「250 P」のベルリネッタ版として登場したモデルの影響を受けているとのことで、往年のフェラーリを知る方にはどことなく懐かしさも感じさせるのではないでしょうか。
スーパースポーツカーとして適度な大きさのボディを身に纏い、扱いやすさと走行性能を両立させているパッケージングは絶妙で、コーナリングを安定させるトレッドの幅(フロント=1665mm、リア=1632mm)とタイヤ及びホイールのサイズ(フロント=245/35ZR20 9.0J、リア=305/35ZR20 11.0J)から1958mmという全幅はドライバーのステアリングやペダルのレイアウト、周辺スペースを鑑みてもバランスが取れていて、全長も4565mmとV型6気筒エンジンを搭載することで(V型8気筒エンジン以上のマルチシリンダー搭載に比較して)短くできるレイアウトの自由度を活かして2600mmのホイールベース、1191mmの全高と相まってプロポーションは端正です。
フェラーリのデザイン力はさすが秀逸でパワートレインという重量物をコーナリング時の旋回性能に優れたミッドシップにレイアウトして、見事に1960年代の傑作デザインにインスパイアされたという古き良き時代のテイストを活かしつつ流麗でエアロダイナミクスに優れた次世代のデザインがアーティスティックに実現されています。
また、「296 GTS Assetto Fioranoパッケージ」にはカーボンファイバーも多用する専用のエアロパーツが装着され、ダウンフォースは250km/hで360kgfにも上ります。
さらに、イギリスのフェラーリ販売店でレースにも出場していた「マラネロコンセッショネアーズ」チームのカラーリングをモチーフにした「250 Le Mans」をインスピレーションとするリバリーデザインの専用カラーリングをオーダーすることもできるため、非常にスペシャル感の高いフェラーリならではのオリジナル仕様に仕立てることが可能です。
F1で鍛えられた世界最高峰の技術によって生み出された珠玉のパワートレイン
「296 GTS Assetto Fioranoパッケージ」のパワートレインにはプラグインハイブリッドシステムが搭載されており、エンジンとモーターがTMA(トランジション・マネージャー・アクチュエーター)によって電子制御で迅速且つ極めてスムースで効率的に連携され、エンジン~ハイブリッド~モーターによる走行が電子制御で的確にコントロールされます。
エンジン型式「F163」と称されるV型6気筒ツインターボエンジンには高回転型エンジンに適したショートストローク〔ボア(88mm)×ストローク(82mm)〕とエンジンの高さと重心を低くすることができシリンダーバンク内にターボ等の配置がしやすいバンク角120°、走行時に発生するG(車体にかかる重力加速度)の影響を受けづらく、安定してエンジン内にオイルが供給できるドライサンプ方式が採用され、市販車としては世界トップレベルの1リッターあたり221psにも上る最高出力663ps(488kW)/8000rpm、最大トルク740N・m(75.5kgf・m)/6250rpmを誇ります。
プラグインハイブリッドシステムのモーターはF1同様にMGU-K(Motor Generator Unit Kinetic)と称され、最高出力167ps(122kW)、最大トルク315N・m(32.1kgf・m)、ハイブリッドやBEV(Battery Electric Vehicle=バッテリー型電気自動車)としての電動走行によってカーボンニュートラルに向けて環境負荷を低減、eDriveモードでは電気のみで最高速135 km/h、容量7.45 kWhの高電圧バッテリーでおよそ25 km走行できるので近距離のドライブであればエンジンを使用せずに済みます。
そして、ハイブリッドシステムはモーターによる電動走行を実現すると同時にもちろんパワーを増強させる機能としての役割も果たしていて、システム最高出力は何と830psという途方もないパワーを発揮、0-100 km/hを2.9秒、0-200km/hを7.6秒、最高速330km/hオーバーを実現しています。
フェラーリが次世代に向けて開発した「F163」 V型6気筒ツインターボエンジンの設計技巧
「F163」エンジン最大の特徴とも言えるV型6気筒でシリンダーバンク角120°というのは、ターボ等のバンク内搭載による吸気経路の最適化、等間隔燃焼とクランクシャフトの高強度化などスーパースポーツカー用のV型6気筒エンジンを設計する場合において、最も適したバンク角と言えます。
特にエンジンの高回転高出力化の際に重要となるクランクシャフトの設計における効果は大きく、等間隔燃焼を実現するためにクランクピンのオフセットを設けなければならないバンク角60°や90°等とは異なり、オフセットを設けずとも良いため、設計ポイントであるクランクシャフトの高強度、高剛性、軽量といった点で優れており、さらに走行性能に大きな影響を与える低重心化といった面でも効果的ですが、120°バンク角のV型6気筒エンジンは全幅(クランクシャフトの回転方向の幅)が広いため市販車のフロントへの搭載が難しいことから稀有な存在です。
フェラーリにはフロントへのエンジン搭載と比較して適したスペースが確保できるミッドシップレイアウトを採用するモデルが存在することと、やはり、スーパースポーツカーを追求するフェラーリだからこそ実現したのではないでしょうか。
また、V型6気筒エンジンは、V型8気筒以上のマルチシリンダーエンジンに比較して、軽量コンパクトで気筒数が少ないことからトータルのフリクションも少なく高効率ですが、シリンダー数が少ないので原則的に総排気量が小さく燃焼圧力の総和によって決まるトルクが細く、出力も低いのがセオリーです。
しかし、「F163」エンジンは、吸入空気量が多く燃焼圧力を高めやすいロングストローク(ストロークが長いので高回転化に難)を採用せずとも、ショートストロークのエンジンにツインターボで過給(吸入空気量増)することで極めて高い燃焼圧力を実現、両立が難しい高燃焼圧と高回転を実現させて、エンジン単体で最高出力663psという圧倒的なパワーを成立させています。
これには、高回転域で太いトルクが発生するエンジンに仕立てた場合に課題となる低中回転域のトルクの細さをMGU-Kが補うハイブリッドシステムの存在はあるものの、何と言っても「フェラーリが誇る高回転域での熱流体力学に基づいた燃焼制御技術やバンク角が広いことで課題となるエンジンブロックの剛性確保などの様々な課題を解決する構造設計のノウハウ」、最大噴射圧が35MPaにも上るインジェクション・システム、18万rpmもの最高回転数を誇り、コンプレッサーやタービンのホイール小径化による慣性質量の低減でターボラグも抑制する世界最高レベルの日本が誇る「IHI製のターボチャージャー」といった、それら数々の世界最高峰の技術によって、他に類を見ないスーパースペックのエンジンが実現されています。
さらに、フェラーリが特許を取得した排気共鳴を活用してエキゾーストノートを奏でる「ホットチューブ」によって、あたかもV型12気筒エンジンの如きハーモニーからエキゾーストノートは「ピッコロ(ミニ)V12」の愛称で呼称されていますが、「296 GTB」用の「ホットチューブ」からオープントップの「296 GTS」用に再設計されているというのもフェラーリだからこそ、そこまでやると思います。
高度な技術と優れたパッケージング、電子制御デバイスが生み出す高性能
「296 GTS Assetto Fioranoパッケージ」は、パワートレインをフェラーリが得意とするミッドシップに縦置き(クランクシャフト軸方向が車両前後)に搭載され、ほぼフロント40%リア60%という理想的な重量配分を実現しています。
フロントがダブルウィッシュボーン、リアがマルチリンクの定評あるサスペンションには最高峰のレーシング・ダンパーをF1に供給するマルチマチック社製の「アジャスタブル・マルチマチック・ショックアブソーバー」が装着され、さらに専用のエアロパーツやドアパネル等の再設計で8㎏ほど軽量化されたことなども相まって圧倒的な走行パフォーマンスを実現しています。
また、ハイブリッドシステムからの最大830psものパワーを伝達する8速F1 DCT(トランスミッション)は高度な協調制御で素早くスムースに変速が行われ、車両にも指定タイヤとして明記されるハイグリップでコントローラブルと定評あるブリヂストンの「ポテンザスポーツ(フロント=245/35 ZR 20、リア=305/35 ZR 20)」が着実に路面をグリップ、高いトラクションを得て圧倒的パワーによる加速や大径の高性能カーボンセラミック・ブレーキ(フロント=398 x 223 x 38 mm、リア=360 x 233 x 32 mm)による高い制動力での減速、極めて限界の高いコーナリングを成立させています。
また、いわゆるビークルダイナミクスの電子制御機能も最先端でフェラーリの誇るeSSC(サイド・スリップ・コントロール)はeTC(トラクションコントロール)とeDiff(電子制御デフ)、EPS(電動パワーステアリング)を協調制御していて、先進の6w-CDS(6ウェイ・シャシー・ダイナミック・センサー)による高度なセンシング機能によってABS Evo(進化型制御モジュールによるアンチロックブレーキシステム)、エネルギー回生機能付き高性能ABS/EBD(分配装置)、さらにアルゴリズムに基づいてヨー・モーメントを予測して各ホイールに必要なブレーキ圧を制御するFDE(フェラーリ・ダイナミック・エンハンサー)はFDE 2.0として進化したバージョンが搭載され、圧倒的に高いパワーやコーナリングの限界性能がスムース且つコントローラブルに電子制御されます。
次世代のスーパースポーツカーに相応しいデジタルインターフェースと機能的で高品位なインテリア
「296 GTS Assetto Fioranoパッケージ」は、高度に電子制御される各機能を的確にインフォメーションとして伝えるフルデジタルのインターフェースを中心に構成され、メーターパネル内にはナビゲーションも装備、その多くはタッチパネルによる操作でステアリングにほとんどが集約されています。
高品位なレザーで設えられたインテリアは、スポーツ走行に適したレザーシートと相まって、いわゆるコックピットと呼ぶに相応しい機能的でドライビングに専念できる空間が提供されます。
このレザーシートには軽量カーボンファイバー製のシートシェルが採用され、手動で前後と背もたれの角度、電動でシートの上下(斜め方向)が細やかに調整できるため、ドライビングポジションの調整や走行時のホールド性といった高機能とデザインとしての機能美を持ち合わせています。
操作系は、握った際にフィットして手触りも良いレザーの表皮で覆われるステアリングとドライビングポジションを取った際に自然に足を動かせる場所に設置され操作のしやすいアクセルとブレーキのペダル、ステアリングにはフェラーリの特徴とも言えるパワートレインのスタートスイッチや方向指示器などが備えられ、中央右下にトラクションコントロール系の制御を選択する「マネッティーノ」と中央左下にハイブリッドシステム系の制御を選択する「eマネッティーノ」が配置されています。
イタリア語で手元スイッチを意味して、今や伝統的でもある「マネッティーノ」はロータリー式の物理的スイッチによって選択が可能で、下から順に最も安全志向の「WET」モード、スポーツ走行に適した「SPORTS」モード、サーキットでの走行に適した「RACE」モード、トラクションコントロールをカットしてホイールスピンを許容する「CT OFF」モード、横滑り抑制制御もカットする「ESC OFF」モードの5つの選択が可能です。
また、パワートレインをコントロールする「eマネッティーノ」には4つのモードが用意されていて、下から順にエンジンを使わずに電動走行する「eDrive」モード、始動時のデフォルトモードでエンジンとモーターを効率的にハイブリッド運転する「Hybrid」モード、エンジンを常に稼働させてバッテリーの効率を維持、いつでもパワーが出せる「Performance」モード、バッテリーの再充電を抑え、最大のパワーを発揮する「Qualify」モードはタッチパネルで選択が可能です。
さらに、走行していてもスイッチひとつで45km/hまでであれば、14秒ほどで開閉できるリトラクタブル・ハードトップによってルーフのクローズとオープンのどちらも優雅に楽しめるといった至れり尽くせりの装備を備えています。
「296 GTS Assetto Fioranoパッケージ」の走行インプレッション
フェラーリでは、運転する楽しさを5つの指標で測定しているそうで、いわゆる開発要件が存在しています。
『5つの指標』
① 横方向:ステアリングの操作に対する反応、ステアリング操作に対するリアアクスルの素早い反応、楽しいハンドリング
② 縦方向:アクセルペダルに対するレスポンスの速さとなめらかさ
③ シフトチェンジ:シフト時間、シフトアップやシフトダウン時の手応え
④ ブレーキ:制動距離と応答性に関するブレーキペダルの感触
⑤ サウンド:キャビン内のサウンドの大きさと品質、回転数が上昇するにつれてのエンジン音の響き
「296 GTS Assetto Fioranoパッケージ」を実際に運転してみるとそれら『5つの指標』が高いレベルで達成されていると感じます。
もちろんプロレーサーによるサーキットでの限界走行ではなく、一般道や高速道路での通常走行のため確認できる範囲は限定的ですが、逆に言えば街乗りでも十分にそれらの指標に対する卓越したフィールは伺い知ることができます。
「296 GTS Assetto Fioranoパッケージ」の『5つの指標』フィーリング
① 横方向:唯一無二と言っても過言ではないオンザレールのハンドリングを街中でゆったり走っている時でも体感することができ、特にわかりやすいのは「eDrive」モードです。
理由は、強烈なエンジンの魅力まで入ってくると人間の五感がキャパオーバーするためで、エンジンの音や振動が無い「eDrive」モードであればステアリングに対するソリッドで精度の高い追従性を体感しやすいです。
② 縦方向:エンジンとモーターによるトルク感が心地良く、切り替わりがスムースで、右足からタイヤまでつながったような感覚と応答の良さを持っています。
③ シフトチェンジ:エンジンによる加速の際にDCTが的確にシフトしてパワーを路面に伝え、速度がリニアに上昇するフィーリングを持ちます。
④ ブレーキ:制動の感覚を一度つかんでしまえば、思った通りの減速感でピタリと狙った位置で車両を停止することができます。
⑤ サウンド:「ホットチューブ」による極めて官能的でV型6気筒エンジンとしては世界一?と思えるほどの素敵なエキゾーストノートが聞こえ、さらにオープントップの状態ではマフラーエンドからエンジンがなめらかに回転していると思える柔らかくも刺激的で良い音が響いてきます。
いずれもフェラーリの5つの開発要件は高く設定されていて、「296 GTS Assetto Fioranoパッケージ」は指標としての基準を確実にクリアしていると感じます。
運転していて最も感動的で魅力的であると思ったのは動力面、つまり、パワートレインでV型6気筒ツインターボエンジンを中心としたハイブリッドシステムの完成度の高さは830psという圧倒的パフォーマンスを発揮する一方で、エンジンとモーターの走行の切り替わりやハイブリッド運転が本当にスムースで違和感が一切ないところが驚異的で、極めて緻密に各所が制御されている素晴らしいパワートレインです。
最大のパフォーマンスを発揮する「Qualify」モードのフルスロットルではレブリミットの8500rpm付近までコントローラブルに鋭く吹け上がり、ワープする感覚と言っても良い異次元の速さで、「Hybrid」モードでもスロットルを開けば高速道路で加速が必要といった時でさえもすぐにアクセルを戻してブレーキングが必要であるほど驚異的に加速するにもかかわらず、ゆったりと走る際にはアクセルワークに気を使わず優雅に乗りこなせるハイブリッドシステムのコントローラブルな仕上がりは秀逸です。
120°バンク角のV型6気筒ツインターボエンジンの振動は小さくスムースで低回転域から高回転域までストレス無く回り、ハイブリッドによるモーターのアシストもあるとは思いますが、ターボラグを感じさせることのない扱いやすさでトルクフルに高回転までふけあがるエンジンは世界最高峰と凄みを感じます。
また、エンジン始動時には動力伝達がカットされるのでフィーリング面でも全く違和感がなく、走りへの影響も無いため運転がしやすく、シフトアップもダウンも8速のF1 DCTとハイブリッド協調制御が実に卓越していてスムースで違和感のない操作性と快適性を持ちあわせています。
微妙なフィーリングといったところでは、チャージモード(発電している)時と走行モード(動力伝達している時)ではエンジンへの抵抗が異なるので、腰元付近に感じる振動が異なることを気にしていると感じます。
走りと乗り心地の面では、サーキット向けにセッティングされているサスペンションは硬く、橋梁の継ぎ目の段差等では突き上げ感はあるものの、街乗りにおいても許容できるレベルで、スタビリティの高さやハンドリングの良さといった感動からすると相殺して許せるものと思えます。
使い勝手の面では、最低地上高の低さや低偏平タイヤ、後退時の視界といったあたりに非常に気を使うものの街乗りは十分に可能で、そこはスーパースポーツカー、通常のセダンやミニバンに比較すれば使い勝手や使用における範囲の制限は存在していて、逆にそれこそが特別感と緊張感であって魅力と思えるのではないでしょうか。
装備面では、シートの上下(斜め方向)以外の調整が手動であるため、通常はコストダウンとも思えるところですが、シートシェルがカーボンファイバー製ということもあって、これは軽量化が図られていて好ましいと思えるのもスーパースポーツカーだからこそです。
また、オープントップならではの魅力である解放感、爽快感は格別で60km/hぐらいまでの走行においては車内への風邪の巻き込みも少なく、ルーフの開閉も早くてスムースで優雅にゆったりとエキゾーストノートを堪能できることも大きな魅力だと感じます。
では、リクエストはもうないのか?と問われれば、エンジンだけを体感したい!と思った場合に意図的にエンジンだけで走行できるモードが欲しい!と思うのは贅沢の極みでしょうか。
結論として、「296 GTS Assetto Fioranoパッケージ」は次世代に向けたスーパースポーツカーとしてあらゆる面で世界をリードする存在であると思います。
カーボンニュートラル実現に向けたフェラーリのアプローチ
ユーザーや社会からの自動車産業へのリクエストは様々ですが、その中核のひとつが地球温暖化を抑制するためのカーボンニュートラル対応で、それはスーパースポーツカーにおいても同様です。
カーボンニュートラル対応では、ライフサイクルアセスメント(Life Cycles Assessment)として製品やサービスにおけるライフサイクル全体(資源の採掘から、製造、使用、廃棄、リサイクル、他に至るまでの全て)の環境負荷を定量的に評価することが求められていて、フェラーリは2030年までにカーボンニュートラルを実現するための取り組みを進めています。
パワートレインの電動化について2026年までに販売する自動車の約60%を電動車(ハイブリッド車を含む)にする見通しを立てており、電気モーターやバッテリーパック、パワーインバーターといった電動化によって必要とされる製造工程のための新しい建屋の建設も進められています。
また、イタリア、マラネッロの本社敷地内にはセラミックスで構成される燃料電池システム「固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell )プラント」がUSAのカリフォルニアを拠点とする「Bloom Energy(ブルーム・エナジー)」社によって設置され、その燃料電池システムはコンパクトかつ低コストで1メガワットクラスの発電規模を誇り、高い発電効率と環境性能を両立してフェラーリの生産に必要とされるエネルギーの5%を供給することで化石燃料の消費量とCO2の排出量を大幅に削減して環境負荷を低減、カーボンニュートラルに貢献しています。
さらに、この燃料電池システムは燃料として水素だけでなく、天然ガスやバイオメタン、そして複数の燃料を組み合わせて活用できることも大きなメリットです。
さらに、フェラーリはイタリアのエネルギー企業エネルエックス社と太陽光発電所を設置しており、フィオラノ・サーキット(フェラーリのテストコース)に隣接したフェラーリが所有する約10,000平方メートルの遊休地に20年もの間、年間平均1,500 MWhの「フィオラノ・太陽光発電所」の稼働も進めてサスティナブル時代へと向かって邁進しています。
スーパースポーツカーの将来像
「296 GTS Assetto Fiorano パッケージ」は、将来のスーパースポーツカーがどうあるべきか?に向けて、現在、考えうる全てが詰め込まれ、あらゆることを満たすポテンシャルを持っていると言っても過言ではありません。
「296 GTS Assetto Fiorano パッケージ」の価格はベースの「296 GTS」が4319万円でパッケージ等の各種オプションも含めるとおよそ5000万円とまさにスーパースポーツカーで超高級車ですが、トップブランドのフェラーリが現代における理想を追求して将来に向けた一手として世に送り出したこの存在によって、当面はスーパースポーツカーが存続することを世に提示しているモデルであると言えます。
日本でのおおよその納期は2年とのことで注文してもすぐには手に入りませんが、そういった意味でも「自動車への夢を体現」しているスーパースポーツカーとして価格以上の価値を確実に持っていて、中古車市場においてプレミアモデルであることもそれを証明しています。
今後、プレミアムブランドでは自動車の保有、投資といった側面がよりいっそう強まり、一方でスタンダードブランドではシェアカー等の非保有利用がよりいっそう増えていくといった2極化が進んでいくと想定されますが、「296 GTS Assetto Fiorano パッケージ」の存在が、世に提示した感動や魅力、そして、価値は「ゼロエミッションビークル」が提唱されている現代の自動車業界にとって最も大きいひとつであると言えるのではないでしょうか。
参考リンク)
オフィシャル・フェラーリ・ウェブサイト
https://www.ferrari.com
296 GTS
https://www.ferrari.com/ja-JP/auto/296-gts
IHIターボチャージャー
https://www.ihi.co.jp/turbocharger/
この記事を書いた人
自動車4社を経てアビームコンサルティング。企画業務を中心にCASE、DX×CX、セールス&マーケティング、広報、渉外、認証、R&D、工場管理、生産技術、製造等、自動車産業の幅広い経験をベースに現在は業界研究を中心に活動。特にCASEとエンジンが専門で日本車とドイツ車が得意領域。