アストンマーティン

【海外試乗】ヴァンテージ史上最強スペック、いつでも非日常にスイッチオン!「アストン・マーティン・ヴァンテージ」

アストン・マーティン史上もっとも成功を収めた「ヴァンテージ」。このシリーズは同社がこれまで製造してきたスポーツカーのうち、1/3以上を占めており、歴史においても重要な役割を果たしている。今回は、スペイン・セビリア地方で行なわれた国際試乗会で新型ヴァンテージに乗った印象をリポートしよう。

ボディパネルはすべて刷新されている

その姿をひと目見ただけで「なんだ、2017年にデビューしたヴァンテージのマイナーチェンジ版か」と思われたとしたら、それは早とちりというものだ。なにしろ、新型ヴァンテージの開発を担当したシニア・ビークル・エンジニアリング・マネジャーのジェイムズ・オーウェンによれば、ボディパネルはすべて刷新されたとのこと。この結果、ボディ全幅は従来比で30mm増しとなったが、これを活用してトレッドを拡大し、シャシー性能を向上させることがその目的だったという。

力強く張り出したリアフェンダーが筋肉質なフォルムを形作る新型ヴァンテージのリアビュー。320km/hの最高速時にリアだけで75kgのダウンフォースを生み出すという。

ボディ構造も全般的に見直されて捻り剛性などが改善されたが、前出のオーウェンは「ボディ全体の剛性はもちろん必要に応じて強化するが、それとともに大切なのは局部剛性を高めることだ」と言明した。
この考え方に従い、リアサスペンションにもストラットタワーバーを追加したほか、サスペンション周辺のボディ板厚を増すことで剛性を改善。リア周りに限っていえば250%ものボディ剛性強化を実現したという。

トラクションコントロールを切ればコーナーでリアタイヤをブレイクさせるのは簡単。アジャスタブル・トラクション・コントロールを用いてドリフトの練習をするのもいいだろう。

一方のフロントサスペンションにはもともとストラットタワーバーが組み込まれているが、こちらもリア同様、ボディの板厚を増すことでさらなる剛性の向上を達成。より正確なハンドリングをもたらすとともに、クルマとの一体感がさらに強まったと説明する。

従来型と比べると、キャラクターラインのエッジがよりシャープになり、力強い印象を与える。

足回り関連でいえば、新たにビルシュタイン製DTXダンパーを採用したことも注目される。同じダンパーは昨年デビューしたDB12にも採用されたが、減衰力の幅広い可変幅を活用することで、よりフラットな姿勢を作り出し、タイヤのグリップ力をさらに引き出すことが可能になった模様だ。

テールゲートを開くと、新たに追加されたストラットタワーバーが見える。

パワートレインの強化も見逃すことができない。ベースエンジンがメルセデスAMG製の4L・V8ツインターボであることは従来どおりだが、アストン・マーティン社内のエンジン部門がこれを徹底的にチューニング。最高出力は155ps増しの665ps、最大トルクも115Nm上乗せされて800Nmと驚異的なパフォーマンスを発揮することになった。この結果、0→100km/h加速は従来型を0.1秒上回る3.5秒を達成。最高速度は325km/hを記録する。

タイヤは専用チューンのミシュラン・パイロットスポーツ5Sを装着。

この強大なパワーは、カーボン製プロペラシャフトを通じてリアアクスル上にマウントされたZF製8速ATに導かれ、E-Diffを経由して左右の後輪を駆動する。なお、トランスアクスル方式を駆使することで、前後の重量配分は50:50を実現したという。

リアディフューザーは幅が広がり、効率が向上した。

新型ヴァンテージはボディ剛性が高い

国際試乗会の舞台はスペイン・セビリア地方の一般道とモンテブランコ・サーキット。まずは一般道のテストに臨む。
走り始めてすぐに感じられるのはボディ剛性の高さだ。オーウェンの説明を聞く限り、サスペンションのスプリングレートはこれまでより高められた模様だが、セビリア地方の荒れた路面を走っても、決してイヤな感じはしない。おそらく、激しく上下するサスペンションの振動を強固なボディがしっかりと受け止めることで、不快な振動をドライバーに伝えないからだろう。

エンジンはアストン・マーティン自身の手で大幅なパワーアップを果たしている。

それとともに印象的だったのが、ロードインフォメーションが豊富なことで、それこそタイヤが小石に乗り上げたことやトレッドブロックがかすかによれた感触がはっきりと認められる。こうしたインフォメーションは、限界的なドライビングを試すときに大きなアドバンテージとなるものだが、ヴァンテージが履くミシュラン・パイロットスポーツ5Sのグリップ力が高すぎるため、公道でその限界を試すのはあまりにもリスキー。その意味でいえば、新型ヴァンテージの本領が発揮されるのは間違いなくサーキットだといえる。

ダッシュボード周りのデザインはDB12に準じる。

そんな期待どおり、モンテブランコ・サーキットでは新型ヴァンテージのポテンシャルをフルに体感することができた。
意外だったのは、公道ではあれほど頼もしく思えたパイロットスポーツ5Sが、サーキットではあっさりとグリップ限界を迎えてしまうこと。もっとも、グリップ限界に近づいたことを早めに知らせてくれるのはミシュランタイヤに共通する美点で、ドライバーはいち早くタイヤのスライドに備えられるので安心かつ安全といえる。

タコメーターは8000rpm、スピードメーターは360km/hまで刻まれる。

とはいえ、ヴァンテージはパワフルなリアドライブスポーツカー。せっかくタイヤが限界を迎えたのなら、そこからさらにスロットルペダルを踏み込んでオーバーステアに持ち込みたいところだが、トラクションコントロールが効いて思いどおりにならない。しかし、こんなシーンでもどかしいと感じるドライバーのために、新型ヴァンテージには新兵器が装備されている。それが、アジャスタブル・トラクション・コントロールだ。

セレクターレバーの上に見えるのがアジャスタブル・トラクション・コントロールの設定にも用いる大型ダイヤル。

これはセンターコンソール上の大型ダイヤルを通じ、トラクションコントロールの利きを8段階で調整できるというもの。ちなみにTC1はコントロールが完全に動作している状態で、TC8ではシステムがオフとなる。
アストン・マーティンでは初の機能となるため、TC1、TC2と慎重に試していったところ、TC3を選ぶとそれなりのテールスライドを許容してくれることが判明した。しかも、多少乱暴なアクセルワークをしてもスピンする気配は見られない。これなら、オーバーステアにあまり慣れていないドライバーでも安心して馴染むことができるだろう。

8ウェイ電動シートは掛け心地も上々。

一方でTC4から上では、よりていねいな操作が求められる。とりわけ、ステアリングを切ったままスロットルペダルを踏み込んだり、乱暴なスロットルワークをすることは禁物。基本的には、ステアリングを戻しながらスロットルペダルをジワリと踏み込めばコントロールを失うことはないはずだが、こちらもスキルにあせてダイヤルを回せば、ハイパワーFRスポーツカーの扱い方を安全に習得することができるはず。その意味でいえば、新型ヴァンテージはドリフトコントロールを学ぶうえで絶好の教科書といえる。

【SPECIFICATION】アストン・マーティン・ヴァンテージ
■車両本体価格(税込)=26,900,000円
■全長×全幅×全高=4495×1980×1275mm
■ホイールベース=2705mm
■トレッド=前:1665、後1655mm
■車両重量=1745kg
■エンジン形式/種類=ー/V8DOHC32V+ツインターボ
■圧縮比=8.6
■総排気量=3982cc
■最高出力=665ps(489kW)/6000rpm
■最大トルク=800Nm(81.6kg-m)/2000-5000rpm
■燃料タンク容量=73L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速AT
■サスペンション形式=前:Wウイッシュボーン/コイル、後:マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前:275/35ZR21、後:325/30ZR21

問い合わせ先=アストンマーティン ジャパン TEL03-5797-7281

フォト=アストンマーティン ジャパン ル・ボラン2024年7月号より転載

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