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アルピーヌ初のフルEVモデルが登場!「アルピーヌ A290」

先月のル・マン24時間を機に、“ドリームガレージ”コンセプトのBEV第1弾として市販版が発表された「アルピーヌA290」。往年のルノー5アルピーヌを彷彿させつつも、やはりレトロに終わらない斬り口で、アルピーヌの未来をあれこれ予感させるのだった。

まさに小さな爆弾が現代版として復活

ル・マン24時間レース会場で、アルピーヌ初の電動モデル、A290が発表された。アルピーヌを特徴付けるパフォーマンス、敏捷性、ライトウェイトの3つの要素を備えた電動スポーツモデルとして、アルピーヌ・ジャポンでは、日本導入を検討中だという。

気になるのは、先に発表されたAmpRプラットフォームを共有する、ルノー5E-テックの存在。52kWhというLFPバッテリーの容量も同じであり、ここでは両者の違いをはっきりさせておこう。

AmpRプラットフォームをワイドトレッド化し、バッテリーを前後輪の間に最適化配置することで、FFにも関わらず前後重量配分は57 :43を実現。ハイグレードの“ GTプレミアム”と“ GTS ”はトランク容量が300Lとなる。リアのマルチリンク式サスも新機軸。

まず、最大航続距離は前者380km vs後者410kmと、マイナス10%もひけをとらない。なのに最大トルク&出力は、300Nm/220ps(GTS仕様)vs245Nm /150psと、プラス20〜40%以上も開きがある。単純なパフォーマンスでいうと、0→100km/h加速は、6.4秒vs 8秒となっている。

ワイドなフェンダーが際立つリアビュー。5ドアであること、日常的な使い勝手を確保した上で走りを磨いた点では、従来のルノー・スポールR.S.の系譜を受け継ぐ一方、Z世代的な若い層にもアピールするという。

両ドアミラーを含めた全幅2020mmは同じながら、全幅は1820mm vs 1774mmで+46mmもワイド。トレッドは無論、装着タイヤ次第だが、A290はミシュランと専用タイヤを冬タイヤ含め3種類も開発している。しかもサスペンションにはダンパー・イン・ダンパーやリアにマルチリンク式が奢られる。つまりA290はBEVの時代にも、アルピーヌらしい走りの楽しさを究めることを明確にカタチにした、「Bombinette(ボンビネット=小さな爆弾、A110のベルリネットに対し5ターボなどに用いられた呼称)」の現代版なのだ。

10.25インチのセンターディスプレイはドライバー側にチルトし、メーターパネルは2連ダイヤル表示が標準。2ペダルの加速&制動フィールは徹底して自然な反応であるようチューニングしたとか。センターコンソール上、シフトセレクタはA110と共通しつつスノーフレーク模様をあしらう。

気になる重量は1479kgで、5E-テック比でプラス30kg。おもにフェンダーや19インチのタイヤ&ホイールだが、特筆すべきはフランスの音響メーカー、ドゥヴィアレによる、9個のスピーカー&サブウーファーで構成されるオーディオシステム。これは音楽をいい音で楽しむだけでなく走行中に電動モーターの駆動音を拾って、そのピッチやトーンを増幅して独特の走行音に変換再生する。約15年の共同開発の末に250件以上もの特許を取得した独自アプローチで「アルピーヌ・ドライブ・サウンド」と名づけられている。

それもこれもエキゾーストノートに代わるリアルな走行音がドライビングプレジャーに不可欠だが、フェイクのICE排気音では満足できない、という根本認識がある。ジェットタービンのようで決して高周波ノイズではないその音は、大人し目の“オルタナティブ”と低くドスのある“アルピーヌ”の2モードが選べる。

ステアリングホイール上、右親指位置にOV(オーバーテイク)ボタンがあり、長押しすると10秒間、出力を最大化する。

他にもユニークな機能はデジタル面。まるでeスポーツかゲームのように、ドライビングスキルを磨くチャレンジや各種エクササイズがテレメトリーやインフォテイメントに含まれ、クローズドコース専用の高度なメニューもある。要は物理的な重さを伴わないでドライビングプレジャーを増幅させるための仕掛けを、アルピーヌは徹底して厭わないということだ。

4灯マスクはA110と共通。Xのモチーフは往年のラリーカーが灯火類にテープを貼っていたことに着想を得たという。

4灯マスクはA110と共通。Xのモチーフは往年のラリーカーが灯火類にテープを貼っていたことに着想を得たという。

アルピーヌらしい深いブルーをあしらったレザーを張ったスポーツシートならびにドアパネルやアームレストは、Bセグ・プレミアムとして傑出した高級感。GTらしさを演出している。

Q.それでもルノー5E-テックに似ていますよね?
A.意外と違うんですけどね(苦笑)

同じ車台でもA290は極限までトレッドを広げ低重心化した「スケートボード・プラットフォーム」。5はよりクロスオーバー風で、写真の通りプジョーのお株を奪うローラン・ギャロス版も登場している。意外とガタイごと違うのだ。

フォト=アルピーヌ・カーズ ル・ボラン2024年9月号より転載

この記事を書いた人

南陽一浩

1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。ネコ・パブリッシング勤務を経てフリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の男性誌や専門誌へ寄稿し、企業や美術館のリサーチやコーディネイト通訳も手がける。2014年に帰国して活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体に試乗記やコラム、紀行文等を寄稿中。2020年よりAJAJの新米会員。

南陽一浩

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