原因は急ハンドルでバランスを崩したからなのか?
夏休みの後半、悲しい事故が起こった。長野県の上信越道・上り線で、キャンピングカーが横転乗っていた家族5人のうち、8歳の男の子が死亡し、70代の祖父母が重軽傷を負った。
運転していたのは男の子の父親(48歳)で、クルマはレンタカー。夏休みのレジャーの帰り、都内へ戻る途中だった。
事故発生地点は、上田菅平インターチェンジの近くで緩やかなカーブ。時刻は午前11時頃で、緊急車両が到着した時点では雨は降っていない。
報道で公開されている画像や映像を見ると、右前タイヤがバーストしているように見える。前バンパーに大きな損傷はなく、ガードレールに激しくぶつかったような痕跡も見えない。
ハイエースのバンコン(バンコンバージョン)であるコンちゃんと一緒に各地を巡っている身としては、こうしたキャンピングカーの事故は他人事には思えない。
事故の速報時点で、筆者はYahooエキスパートとして投稿している。その時点では、事故に関する情報が限定的だったため、事故原因の可能性については大きく3点あるのではないかと予測した。
3点とは、過積載で何らかの状況で急ハンドルを切った、居眠り運転、そしてタイヤのバーストだ。
続報では、警察は事故原因について「急ハンドルを切ってクルマがバランスを崩して横転した」と見ているとのことだ。
事故現場の手前には、キャンピングカーが大きく蛇行した奇跡が、タイヤマークとして残っているという。
また、右の前輪がパンクしているが、それは急ハンドルの影響と報じられている。タイヤがパーストという表現は使っていない。
こうした情報を踏まえて、報道の速報時に筆者が予測した3点について深掘りしてみたい。
最初は、過積載についてだ。荷物を積み過ぎることを指す。積み過ぎの基準は、車両それぞれが型式指定を受ける際に規定した最大積載量となる。
トラックの場合、空荷の状態ならば当然、荷室や荷台はからっぽ。それが、キャンピングカーとなると、ベース車両に対して車体や車内を改良するために、荷物がない状態でもフルフラットシートや棚、または室内利用向けの組込み式バッテリーなどが荷物としての重量となる。
そこに、キャンプグッズや飲み物、ポータブルバッテリーなどを積み、そして家族全員で移動となると、知らない間に過積載になることも考えられる。
過積載のラインを超えないまでも、荷物や人がいない状態に比べてキャンプに出かける際にはかなり重いクルマを運転することになるのは、間違いない。
では、過積載になるとクルマはどのような動きになるのか。あくまでも一般論として、農家が稲刈りなどで苗や機材を満載する軽トラックや、古紙収集業者で大量の新聞紙や雑誌を積んだ軽トラックによる事例を紹介したい。
過積載のラインに近づくにつれて、リアの動きがフワフワしたような感じになる。タイヤは上から押しつぶされたようになり、タイヤのサイドウォールが機能しなくなってくるからだ。
その上で、ハンドル操作に対してクルマの動きは「ヨーがたつ」感じになる。クルマの基本的な動きは、「ロール」(左右の傾き)、「ピッチ」(前後の傾き)、そして「ヨー」(平行方向の動き)の3要素で構成されているが、バネ上の重量が重くなることでロールやピッチが少なくなり、ヨーが目立つようになるのだ。
その昔、完全歩合制で働く古紙収集業者が「クルマがフワフワと、きょうの出来高(儲け)が同期する」と表現していたことを思い出す。
話をキャンピングカーに戻すと、過積載では搭載する荷物の位置によって、転倒の危険性が高まることは、一般ドライバーでも連想しやすいと思う。
だが、「動く家」のような感覚でキャンピングカーを使っていると、できるだけ低い位置に物を置くことを軽視してしまうこともあるだろう。
今回の事故は、画像を見る限り、マツダ「ボンゴ」をベースとしたキャブコン(キャブコンバージョン)。そのため、運転席の上部にも寝室や荷室で使えるスペースがある。家族5人での乗車となると、車室を少しでも広く使いたいと考えて、走行中にこうした地上から高い位置にあるスペースに荷物を積むことも考えられる。
次に、居眠り運転だ。近年、乗用車では高度ドライバー運転支援システム(ADAS)が標準装備されており、その中にはドライバーの顔の向きやまぶたの状態を検知することで、脇見や居眠りによる前方不注意に対するアラートと表示が出る。
本来、長距離移動が多いと考えられるキャンピングカーには、最新ADASの装着がのぞまれるところだ。
しかし、実際には多くのベース車両が商用車であるため、衝突被害軽減ブレーキ機能はなっても、前方不注意へのアラート機能を備えているモデルは少ないのが現状だ。
そして、タイヤのバーストについてだ。夏場にキャンピングカーのタイヤバースト事故が頻繁に発生している。
タイヤメーカー関係者によれば、積載量が多くなりがちなキャンピングカーの場合、適切な空気圧を維持することが安全運転における基本という。
乗用車でも、タイヤ空気圧の管理は必然なのだが、キャンピングカーでタイヤの重要性を認識している人は意外と少ないというのだ。
ハイエースのコンちゃんでは、タイヤ空気圧のモニタリング機能を装備していており、設定した空気圧の範囲を超えるとスマートフォンのアプリを介して注意喚起が来る仕組みだ。
ちなみに、ハイエースの標準空気圧は、積載量が少ない時は前輪325kPa、後輪425kPa。積載量を多い場合、前輪350kPaとなり後輪は425kPaで変わらず。いずれにしても、乗用車と比べると基本設定値がかなり高い。
その上で、コンちゃんで高速走行すると、特に夏場は空気圧が上昇が大きいことがデータ上よく分かる。
もうひとつ、大事なことはシートベルトの着用だ。今回の事故では、8歳の男の子はクルマの後部にいたとの報道だが、シートベルトをしていなかった可能性がある。家の中にいるような気持ちで走行中のキャンピングカー車内を動き回ることは、道路交通法の違反であり、危険行為である。
キャンピングカーの利用は、利用回数が多い人が慣れっこ感覚になってもいけないし、また今回の事故のようにレンタカーでの利用ではなおさら慎重に扱うことが必要だ。
この記事を書いた人
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、自動運転、EV等の車両電動化、情報通信のテレマティクス、そして高齢ドライバー問題や公共交通再編など。