「駆けぬける歓び」をスローガンに自動車業界を牽引するBMWは、2024年度上半期(2024年4月~9月)も17,490台を日本で販売しており(登録台数、日本自動車輸入組合 速報)、日系メーカー分を除けば輸入車全体の販売台数が前年比90.2%と減少する中でBMWは104.0%と堅調を維持しています。
BMWのブランドとしての魅力は、類稀なる軽快で意のままのハンドリングやシルキー6とも言われる直列6気筒エンジンなどの圧倒的に優れたプロダクトによる不変的な魅力、トヨタとの水素事業の協業といった新しい取り組みなど様々ですが、今回は主に企業としてのBMWの「Brand Originality(ブランドオリジナリティ)」がどこにあるのか? について、日本法人のリーダーである長谷川社長のインタビューを中心にご紹介します。
「ブランドオリジナリティ」の先駆者であるBMW
「Freude am Fahren(=駆けぬける歓び)」というBMWのスローガンは、自動車業界において最も知られているひとつで、自動車における「ブランドオリジナリティ」の先駆けといっても良いほどです。
1916年に設立したBMWの宣伝広告に「歓び」を意味する「Freude(フロイデ=ドイツ語で歓びを意味)」という言葉が初めて登場したのは1936年のBMW製の4輪車と2輪車(オートバイ)の広告看板で「Kraftfahren muss Freude bereiten!(ドライビングは歓びであるべき!)」というメッセージが掲げられていたそうです。
1936年(=昭和11年)といったら第二次世界大戦前で、トヨタ自動車(正確にはその前身であるトヨタ自動車工業株式会社)が設立される1937年の一年前ですから、そのBMWの歴史の長さとその伝統を積み重ねてきたブランドの重みを感じます。
「ブランドオリジナリティ」が確立されるためには方針が一貫していて、商品やサービスを磨き上げ続けることが必要ですが、そういった意味でBMWでは長きにわたってプロダクトを磨き上げてきたことで「キドニー・グリル」をアイデンティティに世界屈指の自動車ブランドが確立されたのだと思います。
フルラインアップを取り揃えるBMWの日本導入モデル
現在、日本に導入されているBMWのラインアップは、8シリーズ(クーペ、カブリオレ、グランクーペ)、7シリーズ(セダン)、5シリーズ(セダン、ツーリング)、4シリーズ(クーペ、カブリオレ、グランクーペ)、3シリーズ(セダン、ツーリング)、2シリーズ(クーペ、グランクーペ、アクティブツアラー)、1シリーズ(ハッチバック)、オープンモデルのZ4、SUVのX7、X6、X5、X4、X3、X2、X1などがベースモデルとしていて、さらに、スポーツモデルである「M」やBEV(Battery Electric Vehicle=バッテリー型電気自動車)の「i」が多くのモデルに設定(専用モデルも存在)、フルサイズからコンパクトまでのありとあらゆるモデルを取りそろえていると言えます。
いずれのモデルも、BMWの「ブランドオリジナリティ」そのものである「駆けぬける歓び」については徹底されていて、“BMWらしさ”という言葉が多くのユーザーから聞こえてくるのは“ブランドが既に確立されている”という証明であると思います。
BMWがカーボン・ニュートラル時代に掲げるビジョンと戦略
今回はBMWの日本法人である「ビー・エム・ダブリュー株式会社」の「長谷川 正敏 代表取締役社長」に様々な内容のインタビューにご協力いただき、BMWの今とこれからを中心にお話しを伺いたいと思います。
まずはBMWの「ブランドオリジナリティ」について長谷川社長に伺うと『BMWは飛行機のエンジンメーカーから始まり、創業以来「走る・曲がる・止まる」を徹底的に追求するという伝統を崩さずにポリシーを貫いてきたメーカーであり、例えば、ボディ剛性は(モノコックボディ)上側の作り込みによって変わりますが、Bピラーひとつをとっても設計思想として間隔を狭めるメーカーもあれば当社(BMW)のように間隔を大きくするメーカーもあり、そこが思想や味付けの違いですし、ユーザーが走行する際の環境も異なるので、結果的に要求される性能レベルも異なります。
わかりやすいところでは、日本の高速道路の最高制限速度は120km/hですが、ドイツのアウトバーンでは250km/hを出すことも可能です。
制限速度が異なれば動力性能のみならず制動距離も重要で、つまり、要求されるブレーキ性能も異なってくるので、言わばクルマが育った文化が違い味付けにも濃淡が出てきますので、BMWの車両が持つフルポテンシャルを日本では感じにくいのが実情です。
しかしながら、“その価値を見出してくださるお客さま”がいるからこそ、ビジネスが成り立っていると思うので、BMWはこれからも日本はもちろんのこと世界各国の市場に忠実に向き合っていきます。』と話されていました。
続いて長谷川社長は『現在、自動車業界では競争が激化していて、特に中国メーカーの新規参入が各地域で進み、BMWも競争を避けては通れない情勢にあるので、そういった時代の移り変わりを商品やサービスに反映させていかないといけないと考えていて、(BMW AGの)オリバー・ツィプセ取締役会会長ともよく話しをしていますが、我々はカーボン・ニュートラル時代に向けて360度方位で攻めていくというモットーを持ち、各パワートレインの開発はやめないと当初から一貫して言ってきた数少ないメーカーのひとつですので、ガソリンやディーゼルのエンジン開発は今後も続けていく方針ですし、一方でプラグインハイブリッド車(PHEV=Plug-in Hybrid Electric Vehicle)やマイルドハイブリッド車、もちろんBEVも開発していて、さらには次世代を見据えて水素を使う燃料電池車(FCEV=Fuel Cell Electric Vehicle)にも力を入れており、およそ全てのパワートレインを持つメーカーですので、各国の需要に合わせてパワートレインを供給するために将来を見据えて投資を行い、未来に向けて開発した技術はグループ内(BMW、MINI、ロールス・ロイス)で展開することで収益化を図ります。
例えば、MINI(親しみやすいコンパクト&ゴーカート・フィーリング)やロールス・ロイス(ハイエンド・ラグジュアリー)も含めて共有できる部品は共有化したり、見た目(エクステリア)は異なっても同じプラットフォームを使ったりなどです。
もちろん、それぞれのブランドは特徴や味付けも全く異なるので、サスペンションの違いなど、異なる仕様を採用することでブランドに合った味付けを行っています。
また、合理化といった意味ではエンジン用とBEV用でプラットフォームを分けていましたが、これから導入予定の新型BMW X3を最後に今後はエンジン車もBEVも共通のプラットフォームに移行していきます。
贅沢な悩みなのかもしれませんが、このようにBMWのラインアップやパワートレインはとても多くて、今後はさらに種類が増えるとなると販売店の皆さんは相当勉強しないといけないので大変だと感じており、この点は課題として捉えています。』と話されていました。
今回のインタビューから、BMWグループのドイツ本社と日本法人では、想像していた以上に密に連携が図られており、世界のBMWとして統一されたビジョンを元に戦略を着実に進めていることを確認できました。
やはり、長谷川社長が話されていたようにユーザーであるコアなお客さま(ファン)がBMWの「ブランドオリジナリティ」である「走る・曲がる・止まる」のポテンシャルをわかっているからこそブランドが確立されていて、さらにユーザー視点ではカーボン・ニュートラル時代に向けてパワートレインの選択肢が多いのはとても嬉しいですし、BMWと言えばエンジン! といったところで今後も新開発のエンジンが出て来ることにとても期待が持てます。
トヨタ自動車との水素社会実現に向けた協力関係の強化
BMWは日本のトヨタ自動車と水素社会の実現に向けて協業することを発表しており、今回、その目指すところを長谷川社長に伺うと『BMWとして様々なパワートレインで環境に優しい自動車を作っていく上では、水素を使う燃料電池車はこれまでも選択肢のひとつとして存在していたのと、トヨタさんとはこれまでにも共同開発等々で関係があったことも後押しして(トヨタの「スープラ」とBMWの「Z4」の共同開発等)、今後は本格的に水素社会の実現に向けて協力していきましょう! ということで協業関係の合意に至っています。
そして、実際に双方のモデルに乗ってみるとわかるように「スープラ」と「Z4」では味付けが全く違っていて、それと同様にブランドごとの味付けを尊重しあいながら水素社会を実現するという目標に向かう形を目指していますので、2028年に生産開始予定のBMW初となる燃料電池車の量産モデルにご期待ください!』と話されていました。
水素を使う燃料電池車の普及、さらには水素社会の実現に向けては他にもメルセデス・ベンツ、ホンダやGM、現代なども取り組んでいますが、根本的な課題として、それらが実現されるためには水素生成からの供給網や水素ステーションといったインフラ、各諸制度が整備されていく必要があるので、各国の政府や中央省庁、自治体といったところが企業と足並みをそろえて推進されていかなければならないと感じます。
日本法人の中長期戦略と長谷川社長の想い
BMWの世界共通項にここまではフォーカスしてきましたが、続いて日本における中長期戦略などを長谷川社長に伺ってみると『これまで日本法人の社長は(ドイツ本社の)ヘッドクォーターから赴任し、着任後数年程度で次の社長へと変わるため、その度に方針も変わり日本法人(会社)としての軸が定まらないことにより販売やサービスの現場で混乱が起きることがありました。
現在は、会社の持続的な成長を促すためにできるだけローカルの代表を置くという考え方に切り替わっていて、日本においても2023年1月に私が社長に就任してからは、日本に合うやり方を模索しながら少しずつ施策を打っており、短期では昨年(2023年)から今年(2024年)にかけて、すぐにできることから着手して、中期では来年(2025年)から再来年(2026年)あたりで、それらの施策を慣らし運転レベルまで引き上げ、2027年以降は、さらに施策を高回転レベルまでもっていきたいと考えております。』と話されていました。
続けて『人材戦略を例に、私の考えや短期的に取り組む施策の具体例を交えてご紹介すると、先日、インターン生と直接話す機会があり、その際にインターン生から「経営者になるには何をしていけばいいか?」という質問を受けました。
私自身、経営者になるための教科書はないという考えを持っているため、「自分の持ち味を大事にして磨いてほしい、会社は生き物のため、その時の状況にあったリーダーを据えれば会社は良いので、自分自身を何かの型にはめようとしなくて良い」ということを伝えました。
やはり、自分たちが経験したことや感じたことを大事にして成長していってもらいたいと思っています。
また、これまで弊社は新入社員を入社後すぐに各部門へ配属していましたが、今後は入社後の教育制度を変えて「BMWとは?」や「BMWに属する以上は最低限知っておいてもらいたいこと(コンプライアンス、ブランド、商品、税務や経理等々)」といった座学とその後の各現場での研修を経験した後に部署へ配属するようにしようと考えています。』とのことでした。
さらに『それらの背景として、様々なビジネスの要素がどのような過程を経て現状に至っているのか? など、オフィスに居るだけでは現場の辛さがわからないですし、現場の大変さや苦労を理解してパッションを持たないといけないと思うので、まずは直営の正規販売店でセールスや(アフター)サービスの業務を研修してもらい、その際にできれば一番厳しいと言われている人の下について現場の厳しさを知ってほしいと思います。
例えば、サービスの人たちは危険を伴う仕事のために厳しく指導されるのがあたり前であったり、暑くても寒くても日々、服を汚しながら一生懸命働いていたり、セールスがどれだけ苦労してクルマを売っているのか? やどれだけ精神的な苦労をしているか? などを知ってもらうことが重要だと考えていて、様々な現場を知った人は必ずコミットメントが高いと考えています。』と新入社員をとても大事に考えている長谷川社長の想いが言葉から伝わってきました。
それから、もうひとつの人材戦略のポイントとして『就任した時から推進していて、最近は社内に浸透してきていることのひとつに“いろいろな部門で様々な仕事の経験をする”という考え方があります。
例えば、入社以来マーケティングだけやっていれば、その領域のスペシャリストにはなれるかもしれませんが、将来のプランで経営層を目指したいのであれば様々な領域を経験した方が良いと思いますし、そうであるのならジョブローテーションについて本人とキャリアパスの相談をしながら積極的に会社としてもサポートしていきたいので、会社として社員がチャレンジする背中を押すようなことをしていかなければならないと思います。』と日本法人の中長期的な人材戦略についてもお話しを伺うことができました。
そして、さらに『BMWにとって日本は非常に重要な市場ですので、2024年後半も10月から月に一回ほどの非常にテンポの速いペースで既に新型モデルを2つ(M5と1シリーズ)を発表していて、近日中にもう1モデルも発表予定です。』と期待が膨らむお話しもいただきました。
「FREUDE by BMW」について
東京の麻布台ヒルズにあるブランド・ストア「FREUDE by BMW(フロイデ・バイ・ビーエムダブリュー)」ついて長谷川社長に伺うと『お客さまとの密な接点を作りたい! ブランドを体験してもらいたい! というのが狙いで、特定の層を狙うというよりは、できるだけ多くのお客さまに来ていただいてBMWを知ってもらうことが目的です。
例えば、おすすめの日本料理レストラン「無題」は、おかげ様で数ヶ月先まで予約がいっぱいですし、その他にもカフェなどの様々なエリアがあって、各所でお客さまからいただいたご意見やフィードバックは我々(経営層)にも伝わるようになっています。
ぜひ!ブランド・ストア「FREUDE by BMW」へ気軽に立ち寄っていただきBMWの世界観を感じていただけたら嬉しいです。』とのことでしたので、早速、実際に行ってみました。
「FREUDE by BMW」の1階にはBMWのモデル(当日は世界にひとつだけのBMWアート・カー)が展示され、市販されているBMWモデルの試乗体験も行われていました。
訪問時には、ちょうどドライビング・シミュレーターが設置してあり、来場された多くのお客さまは夢中になって場内は賑わいをみせておりました。
1階にある「CAFÉ & BAR B」の店内は、白基調で明るくエレガントさも備える雰囲気で、各種フードとドリンクを提供していて、来店時におすすめと聞いた“山梨県産のぶどうジュース”を注文しようとしたところ、ワインのように白と赤の2種類があり、白を選んで飲んでみると白ワインのような色、見た目をしていて、すっぱさがほぼ無く甘い独特の深い味わいでおいしくて! 白ワインをワインとせずジュースにするとこういった味になるのか⁉ と思いました。
1階には他にも、国内で唯一ここだけしか販売していない「BMW Studio」というライフスタイルコレクション(アパレル等)の販売も行われていて、BMWのオリジナルウェアなどが販売されています。
今回は「FREUDE by BMW」の2階も見学させてもらうことができ、説明担当のスタッフさんに懇切丁寧に各エリアをご紹介いただきました。
螺旋階段を上るとBMW MOTORRADの車両(BMW R12 nineT)やBMWの日本での歴史を掲示しているパネルなどがあり、限られたBMWオーナーのみが利用できるという「エクスクルーシブ・ラウンジ」は、BMWの世界観を演出しているというアートや高級感のあるインテリアがその名に相応しい設えを持ち、各種交流を深める場としての活用もできるとのことですので、これはオーナーにとって大変嬉しいサービスであると思いました。
また、2階の「アトリエ」ではオーダーメイド・プログラムの「BMW Individual(インディビジュアル)」のカラーやレザーのサンプルを見たり手にしたりしながらスタッフによるサービスを体感できる特別感のあるエリアとなっています。
さらに、2階には他に、東京のミシュラン三ツ星店や完全紹介制の有名店で研鑽を積んだシェフが絶品料理を提供してくれる日本料理レストラン「無題(完全予約制で8席のみの隠れ家的レストラン、おまかせコースはお一人様が44,000円~で別途サービス料5%)」もあります。
総じて「FREUDE by BMW」はエレガントとカジュアルを兼ね備えた空間を持っていて魅力的ですので、BMWユーザーやファンのみならず気軽に訪れ、その世界観を実際に体感してみることをおすすめします。
クルマ好きが高じてドリームストーリーを歩む長谷川社長
最後に長谷川社長の人物像について伺うと『アメリカ在住時には大型2輪車に乗っていて、日本に帰ってきてから中型2輪車に乗っていましたがBMWグループへの入社が決まってから急いで2輪車免許の限定を解除して、今は大型2輪車でツーリングを自ら運転して楽しんでいます。
秘書にもよく怒られてしまうのですが、やはり、実際に乗ったことがない人の言葉には説得力がないと思っており、BMWグループには2輪車ブランドの「BMW MOTORRAD」もあるので実際に運転することは重要だと捉えています。
また、私にとってBMWは自分自身が一番好きな自動車ブランドであったため、自分のプロフェッショナルライフのファイナルステージとして「BMWで引退まで全力でやり遂げたい!」と考えています。
しかし、その一方で個人的には、自分も永遠には走り続けられないので、日本人社長が会社を引っ張っていくという全体方針の中で、若いメンバーにバトンタッチしていけるようにしなければならないですし、人材戦略のところでもお話ししたように、日本によりフィットした企業にしていきたい! 日本流のよりよいサービスやお客さまとの接点の持ち方を強化していきたい! そして、今後、日本法人の設立50年、60年と伝統を繋げていきたい! と思っています。』と力強くお話しされていらっしゃいました。
今回、長時間にわたりインタビューにご協力いただいた長谷川社長の印象は、経営の要である「人」をとても大事にすることに重きをおかれていて、そのお人柄は気さくでクルマへの熱い想いがひしひしと伝わってきました。
長谷川社長のドリームストーリーは、BMWの日本法人のリーダーに就任するところではなく、経営者としてその先の企業が目標とする姿を着実に捉え実現していくことにあり、これからもリーダーシップを発揮されて強力に施策を推進されると思いますので、今後もブランドとして「駆けぬける歓び」を提唱するBMWに期待は膨らみます!
参考リンク)
BMW Japan公式サイト
https://www.bmw.co.jp/ja/index.html
BMWプレスリリース
https://www.bmw.co.jp/ja/topics/brand-and-technology/news/press.html
BMW GROUP PRESSCLUB JAPAN
https://www.press.bmwgroup.com/japan/
FREUDE by BMW
https://www.bmw.com/ja/freude-by-bmw.html
駆けぬける歓び
https://www.bmw.com/ja/automotive-life/the-history-of-the-bmw-slogan.html
BMWヘッドクォーター
https://www.bmwgroup.com/en/general/approach-headquarters.html
日本自動車輸入組合
https://www.jaia-jp.org/
麻布台ヒルズ
https://www.azabudai-hills.com/index.html
この記事を書いた人
自動車4社を経てアビームコンサルティング。企画業務を中心にCASE、DX×CX、セールス&マーケティング、広報、渉外、認証、R&D、工場管理、生産技術、製造等、自動車産業の幅広い経験をベースに現在は業界研究を中心に活動。特にCASEとエンジンが専門で日本車とドイツ車が得意領域。