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ロールス・ロイスらしからぬ前衛的な”顔立ち”が賛否両論!? ピニンファリーナとのコラボで創られた「ロールス・ロイス カマルグ」

1975年に発表された「カマルグ」は、伝説的なスタイリングハウス「ピニンファリーナ」のデザインで、最も認知度の高いモデルのひとつ

「このシリーズに登場するロールス・ロイスのモデルの中で、おそらく『カマルグ』ほど特徴的なモデルはないでしょうね。そのデザインは、発売から半世紀を経たいまもなお、自動車愛好家の間で活発な議論を呼んでいますが。その美学が個人の好みの問題であることに変わりはないですが、ロールス・ロイスの物語におけるカマルグの重要性と位置づけは議論の余地がないはずです。

伝説的なイタリアのメゾン『ピニンファリーナ』とのコラボレーションでデザインされたこのモデルは、エンジニアリング、テクノロジー、パフォーマンス、快適性のレベルにおいて、先代モデルから継続的に改善されてきたロールス・ロイスの長い伝統を受け継いでいます。また、ロールス・ロイスとして初めて、一から安全性を考慮して設計されたモデルでもあります。

大量に生産されることはありませんでしたが、輸出で大成功を収めました。今日、その希少性と1970年代のエッセンスを完璧に捉えたデザインは、多くの人にとって真のモダン・クラシックとなり、コレクターの間でますます望まれています」とは、ロールス・ロイス・モーター・カーズでコーポレート・リレーションズ&ヘリテージ責任者を務めるアンドリュー・ボール氏だ。

【写真4枚】性能、安全性、快適性を大幅に向上させたカマルグ 

1966年、ロールス・ロイスは社内のコーチビルダーである「マリナー・パーク・ウォード」が製作したシルバー・シャドーの2ドア・サルーン・バージョンを発表した。1969年になると、ロールス・ロイスはシルバー・シャドーの後継モデルについて考え始め、経営幹部は新しいデザインは既存の製品ラインナップとは「劇的に異なる」ものでなければならないと考えた。

その年の10月、マリナー・パークウォードのサルーンが伝説的なコーチビルダー、ピニンファリーナのトリノ本社に送られた。ロールス・ロイスのデザイン・チーム以外とのコラボレーションは、通常のプロセスとは異なる急進的なものだったが、両社は以前にもコラボレーションを行ったことがあった。

ピニンファリーナは車両を解体し、そのフロアパンを新モデルのベースとして使用した(結局、このモデルはマリナー・パーク・ワードに取って代わるのではなく、並行して生産されることになった)。ドライバーも、乗員も、見ている人も誰も気づかなかっただろうが、この新しいデザインは、ロールス・ロイス史上初めて、インペリアル・サイズではなく、完全にメートル法で製造されたという興味深い歴史的変節点を示している。

セルジオ・ピニンファリーナは、1967年の「フランクフルト・モーターショー」で発表したフェラーリのコンセプトカー「ディノ・ベルリネッタ・コンペティツィオーネ」を手がけたスタイリング・チーフ、パオロ・マーティンにこのプロジェクトを任せた。

うれしいことに後世に残された正確で詳細なブリーフの中で、マーティンと彼のチームは「エレガンスと洗練というロールス・ロイスの伝統的な特徴を維持しつつ、オーナードライバーのためのモダンでスタイリッシュなモーターカー」を作ることを命じられた。

主なスタイリングの特徴は、ロールス・ロイスのラジエーターのクラシカルな形状によくマッチした、シャープなエッジ面を持つロングラインの形状である。シルバー・シャドーよりも全高を低くし、全幅を拡大したこと、非常に傾斜したウィンドスクリーン、大きな面積のガラス、ロールス・ロイスで初めて採用されたカーブド・サイドウィンドウなどである。

「ピニンファリーナはロールス・ロイスのデザイナーと緊密に協力しながら、既成概念にとらわれないデザインを完成させた。クロームメッキの装飾を施すのではなく、パネルを注意深く成形することで、軽さと細身の印象を実現した」と彼らは説明している。

外部トリミングと照明ユニットはシンプルなデザインで、寸法も控えめ。インテリア・コンセプトは非常にモダンで、航空機のコックピットのように機能的で、高精度の計器類がいくつか装備されている。スイッチやコントロールの位置は、見つけやすく、特徴的で、正確に使用できるように設計されている。

モダンなデザインと機能性という2つの目的は、最も伝統的で特徴的なロールス・ロイスのアイテムを手放すことなく達成された。これらのアイテムにはパンテオン・グリルも含まれる。パンテオン・グリルは従来の形を踏襲しながらも、上端を大胆にも4度前方に傾けたのだ。この微妙な、しかし人目を引く垂直方向からの逸脱は、工場で生産されたロールス・ロイス史上唯一のものであった。

マリナー・パークウォードにとって、この新モデルは重要なテストだった。1971年にロールス・ロイスが自動車部門と航空宇宙部門に分割されて以来、初の完全な新型生産モデルであり、その実力を証明することに躍起になっていたのは当然のことだった。

コードネーム「デルタ」と呼ばれた最初のプロトタイプは、1972年7月までに市販され、約3年の開発期間を経て、1975年3月に新型モーターカーが世界に向けて発表された。

「コリント」と「カマルグ」という2つの候補の中から、同社は賢明にも後者を選んだ。カマルグという名前は、同モデルの「コーニッシュ (“コーンウォールの”を意味する英形容詞)」と同様、1917年から1933年に亡くなるまで、ヘンリー・ロイス卿が毎年避暑していた、南仏との長年のつながりにインスパイアされたものである。

カマルグとは、地中海とローヌ川デルタの2つの支流に挟まれた広大な海岸平野のことで、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホとポール・ゴーギャンが1888年に「黄色い家」にアトリエを構えたアルルの南に位置する。葦原と湿地帯に囲まれた大きな海水の潟(エタン)で構成されるこの地域は、鳥類の生息地として、また白い(正しくは灰色と呼ばれる)「カマルグ馬」とそのカラフルな乗り手である「ガルディアン」で世界的に有名である。

シチリアのカターニアで開催されたカマルグのプレス発表会のために、ロールス・ロイスは9台のモーターカーを製作した。この個体は、1975年9月までロールス・ロイスのマーケティング部門で使用され、その後、ロンドンのディーラー、ジャック・バークレーを通じて個人顧客に売却された。

カマルグのドラマチックかつエレガントなデザインは、販売用パンフレットによれば「2ドア車では通常不可能な乗り降りのしやすさ」を実現したワイドドアと、「ボタンひとつで前席の背もたれのロックが電動で解除され、抜群の快適さと幅を誇るシートで優れた視界を確保するリアコンパートメントにアクセスできる」ものであった。

インテリアは特に印象的で、「ヌエラ」と呼ばれる新開発の超ソフトレザーが初めて採用された。ピニンファリーナの「航空機のコックピット」というコンセプトに従い、フェイシアには、マットブラックの長方形の枠に収められたスイッチ類や円形の計器ダイヤルが配され、航空宇宙を思わせるスマートな外観を演出している。

プリーツ加工されたルーフライニングと、シルバーシャドーよりも低い位置に設置されたシートは、優れたヘッドルームを実現し、後席のレッグルームは2ドアクーペとしては広大なものであった。すべての乗員は、ロールス・ロイスの自動車に初めて搭載された包括的なデュアルレベル・エアコンディショニングシステムの恩恵を受けた。

すべてのロールス・ロイスの新型車と同様、カマルグは当時の最先端の自動車工学を代表するモデルであり、ヘンリー・ロイス自身によって確立された絶え間ない洗練というロールス・ロイスのポリシーの産物であった。

動力源はアルミニウム製6.75L V8エンジンと3速オートマチック・トランスミッションで、完全独立サスペンションと自動車高調整機構を備えたシャシーは、ロールス・ロイスの伝説的なマジック・カーペット・ライドを保証した。そのため、パフォーマンス、安全性、快適性が大幅に向上し、シルバーシャドウの2倍近い価格となった。

ピニンファリーナはカマルグに「類まれな優雅さと美しさ」を与えたが、そのスタイルの下には大きな実質があった。このクルマは、当時世界的に導入されつつあった厳格な安全基準を最初から満たすように設計された最初のロールス・ロイスであり、衝突時の変形回復力の強化、エネルギーを吸収する内装材、4席すべてのシートベルトなどが採用された。

ボディシェルの強度は非常に高く、アメリカでは側面衝突、後面衝突、ルーフ衝突、時速30マイルでの前面衝突の安全テストがすべて同じクルマで実施され、合格している。

最初の3年間、カマルグはロンドン北部、ウィレスデンのハイス・ロードにあるマリナー・パーク・ウォード工場で生産されたが、1978年に生産はクルーにあるロールス・ロイス工場に移され、1987年まで続けられた。12年間でわずか529台しか販売されなかったカマルグは、エクスクルーシブの証であり、その希少性から今日でもコレクターの間で人気の高い宝物となっている。生涯販売台数の75%近くを占めたアメリカでの販売が最も顕著であった。

マーケティング畑出身のマネージング・ディレクター、デイヴィッド・プラストー氏は、モーターカーを「刺激的でドラマチックな買い物であり、それを買った人の人柄を物語るもの」と考えていた。独特のスタイリングを持つカマルグは、確かにオーナーが大胆な主張をすることを可能にした。

その美学は今日でも鋭く議論されているが、ロールス・ロイスの中でも最も一目でそれとわかるモデルのひとつであり、最初にこのクルマを知った世代には愛され、コレクターやエンスージアストの間ではますますほしくなるモダン・クラシックとなっている。

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