
ドリフト走行中にヘッドライトLEDやインテリア照明が「バラ色」に染まる!
2年半ほど前、パリサロンで発表された「5ターボ3Eプロトタイプ」の時は、サイドウィンドウに「LA VIE EN ROSE(バラ色の人生)」と記されていたのを覚えているだろうか。コロナ禍がようやく収束しかけたあの頃、未来はBEV化へ一辺倒という空気感だった。「車を操る歓び」がこの先、果たして得られるのか? そんな閉塞感への回答が、ドリフトモードでドリフト走行を始めるとヘッドライトLEDやインテリア照明がリンクして「バラ色」に切り替わるBEVスーパーカー、それが3代目5ターボのコンセプトだった訳だ。
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BEVの強大なトルクによる激しいドリフト走行をエディット・ピアフのスローにして甘美なシャンソンに結びつけるという、いわば「フレンチ・ジョーク」だった訳だが、それがまさか市販車になるなんて。パリ近郊のフラン工場で市販版が発表されると聞いても、まだ正直、半信半疑で向かった。
通常はルノー・ヒストリックのコレクションの一部が並べられたフロアの奥に、黒い仕切りが囲われた特設会場で、最初に目にしたのはマルチェロ・ガンディーニが内装を手がけアルミボディをまとったターボ1、そしてより量産モデルらしくスチールボディ採用などで生産性を考慮したターボ2だった。さらには歴代のグループBワークスカーやスーパープロダクションが置かれていた。この系譜の直系に、ルノー5ターボ3Eはあるのだ。ちなみに当初のターボ1の最高出力は、1.4Lパワーユニットをターボ武装したとはいえ160㎰。それが最後期のマキシ・ターボでは350㎰、スーパープロダクション仕様では370㎰にまで高められたという。
続いて例のラ・ヴィ・アン・ローズ仕様、すでにグッドウッドなどでデモ走行を経て、パリサロンでの発表時からから3度もボディとカラーリングを変えたという5ターボ3Eプロトタイプがあった。380hp(約385㎰)いう当初の発表値は、30年近いブランクを経て、まるでターボ2マキシの頃のスペックを受け継いだかのように見える。しかしプロトタイプならではの荒々しさはところどころにある。例えばタイヤのトレッド面を隠し切らないフェンダー処理や、いかにもメガーヌE-テック辺りから受け継いで、極太の高効率ケーブルをかましたであろうパワーユニット&インバーターがリア背後を占め、超大型のリアウイングを背負うなど、”ロードカー”らしさは皆無なのだ。
だから市販版の5ターボ3Eの前に通され、レーザービームの幕が開いた時は、少し面食らった。大きく張り出したフェンダー武装は歴代5ターボそのものでありながら、プロトタイプのような粗削りなラインではなく、20インチの大径タイヤをそれなりにキチンと覆っている。リアウイングもなく、LEDヘッドランプやウィンカー、ミラーなども常識的な保安部品になったとはいえ、5ターボ3Eとしても禍々しさは何も失われていない。全幅2.03mで、全長は4.08ⅿ、全高1.38mは、プロポーションとしてロー&ワイドなのはいわずもがなだが、異様だ。5という大衆車をベースに、今回は5E-テックという純BEVながら、ほとんどドーピングでビルドアップしてスーパーカー化してしまう手法は、まったく変わっていないのだ。
この「下町のスーパーカー」の感覚に、「Je suis le plus beau du cartier(邦題は”注目の的”、直訳は”この辺りでいちばんカッコいいのは俺”)」という曲をつい、思い出した。カーラ・ブルーニがサルコジ前々大統領と結婚する前、歌手活動していた時の曲で、気になる人は音楽配信サービスなどで調べてみて欲しい。いってみればそう、5ターボ3Eの市販版は、どうだカッコいいだろうとゴリゴリに迫っては巻き込んでくる半端ないオーラを発していながら、どこかコケティッシュでテクニカルで、気が利いている。イエロー&ブラックで往時のツール・ド・コルス仕様にもとったカラーリングのせいもあるが、スーパーなだけのスーパーカーにはない小洒落た雰囲気があるのだ。
それが、シトロエンからプジョーを経由してルノーのチーフデザインを務めるジル・ヴィダルの手腕の冴えでもあり現時点で集大成でもある。個人的には、オリジナルの5ターボではグリルだったリアフェンダー手前のダクトが、NACAダクトを再解釈したような意匠になっている点に円熟味すら感じられ、気に入った。
ちなみに今回発表されたのは外装デザインとしてバリデーションの下されたデザインモックで、インテリアはまだ予想イラスト画像のみだった。そちらはグレーのアルカンターラにチェック柄を巡らせ、外装と同じくイエローのアクセントが散りばめられているが、バケットシートにはアルピーヌA110Rと同様、サベルト製のモノコックにパッドを敷き詰めたタイプが奢られている。手元に伸びるのはフロアシフトではなく、サイドブレーキだ。
それにしても5ターボ3Eを”ターボ”たらしめるのは、その動力性能を創り出すパワートレインだ。これはプロトタイプ時とはまったく別物のようで、なんとホイール・イン・モーターを後輪左右に収めている。1輪あたりの最高出力は270hp・2400Nm、つまり両輪での総計は540hp(545ps)・4800Nmにまで達する。最初はゼロがひとつ多過ぎたのかと思ったが、通常のトランスミッションが作り出す減速比や変速比を挟まないで、モーターの出力軸から直接に駆動軸を採り出す直結だからこそ、それが可能だというのだ。
当然、電気信号である以上、ミリセコンド単位で駆動その他の制御は実行でき、爆発的なトルクを瞬時に後輪に伝えることはできる。おそらくタイヤのトレッドやホイールが破壊されないよう、トルク漸次的に段階を切って上げていく/下げていく制御の方が必要なぐらいだ。
「トランスミッションやリデューサーギアによるラグやロスがない分、セッティングする側としてはやりやすいんですよ。それに、2.57mとホイールベースは相対的に短くてスクエアに近いジオメトリーなので、前後にも左右にもよく進みますよ」とは、車両開発を担当するアルピーヌのエンジニア、フレデリック・ロラン氏の弁だ。
ところでアルピーヌがA290というホットハッチBEVを市販したばかりだというのに、1980台限定とはいえルノーの看板で5ターボ3Eが2027年から市販車として発売されることは、グループ内で相討ちを生じさせないか? その疑問にルノーの商品企画担当であるミカエル・グロージャン氏は次のように整理してくれた。
「R5のヘリテージを考えた時、素のR5から派生した5E-テックがポピュラー・アイコンだとすれば、アルピーヌA290はR5アルピーヌに相当するスポーティ・アイコン。5ターボ1~2から始まるリアル・ホットハッチの系譜は、5ターボ3Eが受け継ぐものなんですよ」
だから新しいジャンルを創ったどころか、むしろ元通りのラインナップだというのだ!
2027年からデリバリー開始とのことだが、オーダー受注はすでに開始されており、日本でもルノー・ジャポンが取扱いを公式に発表している。今回、披露されたイエロー&ブラックだけではなく、ボディカラーのカラーリングや仕着せはかなりパーソナライズが施せるという。価格はA110Rウルティムの26万5000ユーロ(約4300万円)ほどではないが、A110Rチュリニに近い15万ユーロ(約2430万円)前後がエントリー帯であると本国ルノーは認めており、最終的にオプション諸々を含めて20万ユーロ(約3240万円)辺りに落ち着くのではないだろうか。