
ハイブリッド化によって実現したAWDシステムの効果は絶大!
これまでスーパースポーツカーを所有してきたベテランオーナーはもちろん、ヤングカスタマーと呼ばれる比較的若い層にとって、昨今における排気音をどう思っているのだろうか? この手のスポーツモデルに乗る機会が多い筆者は、正直“やかましい”と感じている。特に21世紀に入った頃からスーパースポーツ市場は活性化され、各ブランドがその演出にこだわり、当たり前のようにエンジンスタート時に爆音を放つように設定されるようになった。欧州やアメリカ市場ではそれでもいいかもしれないが、日本の住宅事情を考慮すれば、これほど迷惑なものはない。
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その点、このコルベットE-Rayは、そうした爆音を避けることができる。ただ、デフォルトのツアーモードでエンジンをかけてしまうと、通常通り、V8 OHVユニットの洗礼を受けてしまうから、エンジンスタートボタンを押す前にドライブモードセレクターを操作し、「ステルス」モードを選択する必要がある。何故、このような設定にしたのか正直疑問に思う部分があるものの、なにはともあれ、ほぼ無音状態でスタートできるのは歓迎すべきことだ。

ミッドに搭載されるのは502ps/637Nmを発揮する6.2LのV8OHVユニット。センタートンネル内の1.9kWhのリチウムイオンバッテリーを介して前輪モーター駆動し、162ps/165Nmを発揮する。
このようにコルベットE-Rayは、シリーズ初のハイブリッドモデルであり、初のAWDモデルである。先に触れたように、ベーシックモデルのコルベットにも搭載される伝統を今に受け継ぐ、502ps&637Nmを誇る6.2L自然吸気V8“LT2”ユニットはそのままに、フロント側に162ps&165Nmを出力する電気モーターを組み合わせ、AWDのスーパースポーツとしてラインナップに加えられた。ミッドシップのハイブリッド車は他社にも存在するが、コルベットの場合、その割り切り方が潔く、リチウムイオンバッテリーはセンタートンネル内に配置し、容量は1.9kWhと控えめ。EV走行は最大でも6.4kmという数字にも示される通り、あくまでもご近所対策だと受け止めるのが正解だろう。
というのは、実のところ本題はその先にあるからだ。ハイブリッド化によって実現したAWDシステムによる、ある狙いこそコルベットE-Rayの特筆すべき点。EV走行はそれによって可能になった副産物的な利用法だと思えるほど、その効果は絶大だ。それを思い知らされるのが、「レーストラック」モードでのコーナー脱出時。コーナリングの進入時は瞬間的に、旋回中はわずかにフロント側のモーターによってトルクがかけられるものの、出口付近からアクセルを開けていくとトルクが増幅し、素早く次のストレートへと導く。それを証拠に、0→60mph(0→96km/h)加速は2.5秒と、シリーズ最強を誇るZ06を上回る。

タイヤは前:275/30R20、後:345/25R21サイズのミシュランパイロットスポーツ4Sを装着。前後ブレーキはカーボンセラミックタイプが装備される。
しかも、E-Rayのボディはワイド化されたZ06譲り。トレッドが広げられた効果も相まってその安定性と俊敏性はベーシックモデルの比ではない。それに、この電動化によるフロント側のトルクは、路面の状況はもちろん、舵角によっても変わるから、ウエット時ではより効果的に働くことも明白だろう。なにしろ、リアタイヤのサイズは345/25ZR21。ハイブリッドAWDの美点を余すことなくパフォーマンスに活かすために極太タイヤを装着しているから、その制御も状況に応じて綿密に行われるため、結果的には安心感すら覚えてしまう。

右ハンドルモデルが選べるのもベースモデルと同様。シートはホールド性の高いセミバケットタイプを採用している。
その一方、ハイブリッド化で懸念されるのが重量の増加。E-Rayはベーシックモデルと比較して140kgほど増しているのも事実だが、それを帳消しにするほど、その安定感から得られる快適性が確保されているとあって体感的にも不快感なし。E-Ray専用にセットアップされたマグネティックセレクティブライドコントロールの緻密さもさることながら、元からWECやIMSAといった耐久レースでの使用を前提とした設計に加え、低重心化に貢献するOHVユニットの恩恵が重なったことで、自重を感じる前に、その安定性に感銘を受ける。それにE-Rayはカーボンセラミックブレーキが標準。巨大なローター径による制動力も魅力だが、バネ下荷重の軽減効果も功を奏しているのも確かである。

100%モーターのみで走行できる「ステルスモード」は始動時のみ使用可能。センターディスプレイでエネルギーフローをリアルタイムで確認することができる。シフト下には走行中のバッテリー残量を一定値以上に保つチャージモードのスイッチが備わっている。
ちなみに、参考までにお伝えしたいのが、走行モードの選択肢。特にワインディングでスポーツ走行を試みる際、多くのオーナーが「スポーツ」モードを選ぶ傾向があるようだが、そこは遠慮なく「レーストラック」モードを選ぶべきだ。というのも、E-Rayの安定性はこのレーストラックモードでも維持され、しかも想像するよりも硬さを思わせないうえ、何よりもバッテリーの充電が常に繰り返されるだけに瞬く間に満充電になるから尚さらだ。この事実からもわかるようにレーストラックモードでこそ、フロントモーターが最大限に活かされるという証しだろう。
その一方、ノーマルのツアーモードでは、高速道など巡航状態での走行中はモーターがアシストするため、気筒休止システムが拡大し、4気筒での走行が続くことも相まり、燃料消費量を抑えるだけでなく、CO2排出量の低減にもつながるから言うことなし、だ。
ハイブリッドとはいえ、あくまでも主役はエンジン。電動アシストはサポートに終止するというコルベットE-Rayは、今後の行く末を担う重要な1台であることも強調しておきたい。ここまで出来るということは、もしかしたら将来的にはPHEVにも発展する可能性もあるし、フル電動化も示唆していると思う。ただ、まだまだ内燃エンジン車に未練が残る今だからこそ、控えめなハイブリッドにしたように思えてならない。コルベットフリークならずとも、一度は試す価値がある1台だ。無音でスタートするコルベットに未来を感じるのは間違いないのだから……。
【Specification】シボレー・コルベットE-Ray クーペ3LZ
■車両本体価格(税込)=23,500,000円
■全長×全幅×全高=4685×2025×1225mm
■ホイールベース=2725mm
■トレッド=前:1675、後:1620mm
■車両重量=1810kg
■エンジン型式/種類=LT2 / V8OHV16V
■内径×行程=103.2×92.0mm
■総排気量=6156cc
■最高出力=502ps(369kW)/6450rpm
■最大トルク=637Nm(65.0kg-m)/5150rpm
■モーター形式/種類=HP1/交流同期電動機
■モーター最高出力=162kW(199ps)/9000rpm
■モーター最大トルク=165Nm(16.8kg-m)/0-4000rpm
■燃料タンク容量=70L(プレミアム)
■燃費(WLTC)=23.8km/L
■トランスミッション形式=8速DCT
■サスペンション形式=前後:Wウイッシュボーン/コイル
■ブレーキ=Vディスク
■タイヤ=前:275/30R20、後:345/25R21