
























































着想元は「ブルートレイン」
ベントレーは2025年7月8日、新設されたデザインスタジオで、ブランドの未来を示すデザインコンセプト「EXP 15」を発表した。これは、同ブランドの伝統を現代的な解釈で再構築したものであり、これがそのまま市販へと結びつくわけではないというが、2026年発表予定のベントレー初の完全電気自動車(BEV)におけるデザインの方向性を示唆するもの、とも言われている。
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エクステリア:伝統の再解釈と5つのデザイン原則
EXP 15のデザインは、伝説的な1930年式ベントレー・スピードシックス・ガーニー・ナッティング・スポーツマン・クーペ(通称「ブルートレイン」として知られる、当時のベントレー会長ウルフ・バーナート所有の車両)から大きなインスピレーションを得ているとされる。ベントレーはこのEXP 15を通じて、将来の量産車にも反映されるであろう5つのデザイン原則を提示した。以下、これについて説明していこう。
①アップライト・エレガンス
ベントレーのフロントデザインは、シルエットにおいて、サラブレッドの馬が前進し力強く停止した直後の上半身を思わせる、非常に緩やかな曲線を描く垂直ラインを採るべき、という考え方だという。
②アイコニックグリル
内燃エンジンのフロントグリルは内部に空気を送り込み、ラジエターを介してエンジンを冷却するためのものであった。動力が電気へと変わればその事情にも変化が及ぶわけだが、ベントレーでは、電動化時代においてもフロントグリルがブランドの象徴であり続けるとする。照明技術の進歩によって、グリルは「デジタルアートを創造する場」になるというのである。
③エンドレス・ボンネット・ライン
過去の大型エンジン搭載車の伝統を反映した、ロングノーズ・デザイン。ボンネット下には当然エンジンはないのだが、その空間は収納スペースとして活用の場を見出された。収納へのアクセスは、クラシカルなピアノスタイルのヒンジ式カバーを開けて行われる。
④安らぎの野獣
力強いエネルギーを表現するリア・ハンチ(hunch=こぶ、隆起)と、水平姿勢の組み合わせ。最良のベントレーはいつでも、後輪の上方で車体から外側に張り出したリアハンチを特徴としたものだとされる。これは、大型ネコ科動物の曲げられた大腿部の丸みを帯びた形状のように力強いエネルギーを感じさせるが、その一方で車両全体はリラックスした水平スタイルを採る必要があるのだという。また、ウェストラインの上と下は1:2のバランスをキープする。
⑤プレステージアス・シールド
リアは大きくすっきりした面とする考え方。「ブルートレイン」の時代ではここはボディとは別体のトランクだったが、EXP 15ではダイヤモンドパターンのリアライトに囲まれた新しいウィングドBエンブレムが配置されている。
そしてボディの表面仕上げにはさらに、「モノリシックな存在感」「マッスルフォーム」「彫刻された精密さ」の3つのテーマが反映されている。ヘッドライトは4本の極細ストリップで構成され、これに挟まれるフロントグリルは、ベントレーの象徴的なダイヤモンドキルトシートデザインを水平に解釈したもので、現代的なLEDライトで表現された。
ボディカラーの「パラスゴールド」は、よく見るとゴールドホワイトのハイライトが散りばめられたものだが、これも1930年式から着想を得た(そのニッケルパーツがインスパイア元)というもの。現代的なサテン仕上げだが、これを可能にしたのは極薄のアルミニウム顔料の使用であるという。
インテリア:革新的な3シーター
キャビンは3人乗りレイアウトを採用しているのが最大の特徴だが、これも着想の元は「ブルートレイン」こと、ウルフ・バーナートの1930年式スピードシックスである。同車では、前向きのフロントシート2席に加え、横向きのリアシートが1席設けられていたのだ。
EXP 15では、フロントシートは運転席のみ、リアは左右に1席ずつという配置となる。ただしレイアウトは3つのモードを採ることが可能で、左側の席を前へ動かしドライバーの横とする「コ・パイロット」モード、後方にスライドする「スタンダード」モード、そしてリクラインさせた状態などの「リラックス」モードの3つの設定とされている。
また、ドアは運転席側にはシングル、助手席側にはツインコーチドアとなる。そして助手席側はパノラミックルーフの一部が上方に開き乗降性を高め、左側シートそのものも45度回転し、スムーズに乗り降りすることができるという。なお、左側を1席として確保された分の広いスペースは、ペットや手荷物などのために活用できるとのこと。
内装のデザインにも5つのテーマ
インテリアデザインにもベントレー独自の5つの原則がある。これには、長年の定番である「ウィング・ジェスチャー」(エンブレムの翼のように左右に広がったダッシュボード)のほか、「大胆な威厳」(ウッドや金属などの高級素材を大きな空間に豊穣に使うこと)、「繭の安息」(包み込むようなパッセンジャー側シート)、「象徴的なディテール」(ブルズアイ型のエアベントやローレット加工のスイッチ類など)が挙げられる。
そして5つ目となるのが、新たに設定された「マジカルフュージョン」だ。これは物理的なスイッチ類とデジタルインターフェースを融合させる試みとされる。すでに採用されているロテーティング・ダッシュボードもこの原則に基づくものと言えそうだが、EXP 15の場合は幅いっぱいのダッシュボードが全面的なデジタルインターフェースとして機能する一方、オフにするとガラスに覆われた化粧板へ姿を変えるのだ。
もう一例は、ダッシュボード中央に配された時計のような装置で、これは「メカニカルマーベル」と名付けられている。これは、クルマの進行方向や充電状態などを示すものであるが、ただ眺めているだけでも楽しい存在だというのである。素材の面でも伝統と現代性の融合が考えられており、キャビン後部は上質なシルクジャカード織物の使用が想定されている。
電動化の未来とコンセプトカーの意義
パワートレインは、全電動の四輪駆動を想定しており、持続可能なグランドツアーの未来を定義することを目指すというが、具体的な技術仕様は公開されていない。ベントレーのデザインディレクター、ロビン・ペイジ氏は「コンセプトカーの真価は、新しいデザイン言語を訴求するだけでなく、市場の動向を探ることにある」と語り、特に変化の激しいセダン市場において、顧客と対話する絶好の機会だと位置付けている。
EXP 15は市販モデルの直接的な予告ではないが、そのデザイン、革新的なレイアウト、そしてテクノロジーのアイデアは、間違いなく未来のベントレーの姿を指し示していると言えるだろう。
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