





























ミドルクラスのベンチマーク、3シリーズの歴史を振り返る
BMW「3シリーズ」は1975年の登場以来、半世紀にわたりミドルサイズクラスの絶対的な指標として君臨してきた。その歴史は、単なる1台の自動車の変遷に留まらず、スポーツセダンの概念を確立しプレミアムセグメントを牽引してきた。その3シリーズの輝かしい成功の物語を振り返る。第6回目は、5代目(E90型)3シリーズにスポット当てて紹介する。
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スポーツセダンとしての完成度をより高めた5代目
2005年のジュネーブ国際モーターショーにおいて、世界の自動車シーンに新たなベンチマークが提示された。BMWがワールドプレミアの舞台で披露した第5世代3シリーズ(E90)である。その幕開けは、モデルレンジ発売の定例に倣い、まず4ドアセダンからであった。短いボディオーバーハング、躍動感あふれるダイナミックなライン、そして先進性を感じさせるデザイン言語は、この新型3シリーズに紛れもない個性と存在感を与えた。
数々の革新的な技術と装備をまとったこのモデルは、瞬く間に世界中のドライバーから熱狂的な支持を集めることになる。その広々としたボディは、卓越したねじり剛性と特徴的なBMWデザインを見事に両立させていた。そして、心臓部にはパワフルかつ高効率なエンジンを搭載し、ダイナミックでありながらも洗練された走行特性を実現したのである。その総合的な完成度の高さは、発売後わずか1年でニューヨークにおいて「ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー」の栄冠を授与されたことからも明らかである。
第5世代3シリーズが放つ、先代モデルとは比較にならないほど堂々としてパワフルなオーラは、そのデザインと拡大されたボディサイズに起因するものであった。具体的には、全長で49mm、全幅で78mm、そして全高で10mm、それぞれサイズアップが図られている。この成長は、単なる外観上の変化にとどまらず、乗員の快適性向上と安全性の確保に直接的に貢献した。特筆すべきは、ここまでボディサイズと装備が充実したにもかかわらず、車両重量の増加が抑制されていた点である。これは「駆けぬける歓び」を、より少ない重量と低い燃料消費で実現するという、BMWの哲学を体現するものであった。
この思想は、セダンに続いて登場した他のボディバリエーションにも貫かれている。第5世代3シリーズは、ボディタイプを問わず、スペース、快適性、安全性、そしてダイナミクスと効率性という、相反しがちな要素を比類なきレベルで融合させていた。セダンと同じ2005年に発表された新しい3シリーズ「ツーリング」は、多くの面で先代を凌駕し、そのセグメントの頂点へと駆け上がった。全長は42mm、全幅は78mm、全高は9mm拡大され、ホイールベースも35mm延長された。これにより、乗員の快適性と積載能力が向上しただけでなく、車両の振動が低減され、走行特性にも一層の磨きがかかったのである。
2006年には、これまで以上に個性を際立たせた「クーペ」が導入された。その独立したキャラクターは、細部に至るまで完全に新設計されたボディが描く、伸びやかでスポーティなラインによって一目で明らかであった。もちろん、スタイリングの進化だけでなく、先代モデルよりも広い室内空間を提供することで、実用性も高められていた。
さらに2007年3月には、BMWとして初のリトラクタブルハードトップを備えた新しい「コンバーチブル」が登場する。この新しいルーフ構造は、高速走行時においても比類のない遮音性を実現。並外れたねじり剛性を誇るボディは、印象的な俊敏性とダイナミックな走りのための理想的なプラットフォームとなった。ルーフを閉じれば、大きなガラスエリアと完全なルーフライニングがもたらす優れた視界と明るく高級な雰囲気を、ルーフを開ければ、低いウエストラインがもたらす最高の開放感を味わうことができた。
そして2007年、3シリーズの頂点に君臨する新しい「M3」が発表された。クーペをベースとしたこの高性能スポーツカーは、高度な運動能力を全身から醸し出す独特のデザインをまとい、心臓部には新開発の最高出力420psを発生するV8エンジンを搭載した。この組み合わせは、最新のM3をトップクラスのプレミアムスポーツカーという排他的な領域において、際立った地位へと押し上げた。その人気に応えるように、2008年春にはクーペ、コンバーチブル、そしてセダンという3つのボディバリエーションが揃い、ドライバーはそれぞれのライフスタイルに合わせて究極のパフォーマンスを選択できるようになった。
より進化したエンジン技術で高出力高効率を実現
第5世代3シリーズの成功を語る上で、エンジン技術の飛躍的な進化は欠かせない。開発されたエンジン群には、「駆けぬける歓び」と効率性を同時に向上させるための革新が惜しみなく投入された。例えば「320d」に搭載された4気筒ディーゼルエンジンは、第2世代コモンレール噴射と可変タービンジオメトリー付きターボチャージャーにより、163psの出力と340Nmのトルクを達成した。
一方、ガソリンエンジンでは、4気筒と2種類の6気筒ユニットに「VALVETRONIC」が装備された。「330i」は3リッターから258psを、「325i」は2.5リッターから218psを発生させ、BMW伝統の6気筒エンジンが持つ威風堂々としたダイナミクスを提供した。さらに、これらの6気筒エンジンは、量産エンジンとして世界で初めてマグネシウム・アルミニウム複合クランクケースを採用するという技術的なイノベーションもある。
エンジン技術の革新はさらに続く。3シリーズクーペの発売と同時に登場した直列6気筒ツインターボエンジンは大きな話題を呼んだ。ツインターボ技術、高精度インジェクション、そしてオールアルミニウムクランクケースを組み合わせたこの3リッターユニットは「335iクーペ」に搭載され、306psという最高出力を発生。この出力クラスでは他に類を見ないレベルの効率性と融合させ、ダイナミックな走りを新たな次元へと引き上げた。
翌年には、ディーゼルエンジンのフラッグシップとして「335d」の3リッターエンジンが登場。可変ツインターボ技術と第3世代コモンレール直噴のユニークな組み合わせにより、最高出力286ps、最大トルク580Nmという圧倒的なパフォーマンスを実現した。
こうした高性能エンジンに加え、特に4気筒モデルには「BMW EfficientDynamics」が広範に適用された。ブレーキエネルギー回生、オートスタートストップ機能、最適ギアシフトインジケーター、補助ユニットのオンデマンド操作といった機能群が、競合モデルにはない卓越した性能と燃費のバランスをもたらしたのである。BMWで最も重要なモデルシリーズへのこの技術の導入は、社会全体の燃料消費と排出ガスの削減に極めて効果的な貢献を果たした。
卓越した走行性能は、シャシー技術の進化によっても支えられていた。フロントアクスルには、5シリーズで採用された原理を再現したダブルジョイント・タイバー・スプリングストラット・アクスルを導入。トルクストラットやコントロールアームなど主要部品にアルミニウムを使用し、俊敏性を向上させた。リアアクスルも全く新しい5リンク式となり、極めてダイナミックなハンドリングの完璧な基盤を形成した。また、ダイナミック・スタビリティ・コントロール(DSC)も大幅に機能が向上し、ダイナミック・トラクション・コントロール(DTC)モードをはじめ、コーナリング・ブレーキ・コントロール(CBC)やスタートオフ・アシスタントなど、数多くの支援機能が統合された。
デザイン、ボディバリエーション、エンジン、シャシーの全てにおいて革新を遂げた第5世代BMW 3シリーズは、世界中で目覚ましい成功を収めた。セダン、ツーリング、クーペ、コンバーチブルを合わせた総販売台数は3,102,345台という記録的な数字に達した。これは、卓越した効率性と妥協なき「駆けぬける歓び」をかつてない次元で両立させた、BMWのエンジニアリングの勝利の証と言えるだろう。
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