コラム

「駆けぬける歓び」だけじゃない! BMWが日本で磨き続ける“ホスピタリティ”戦略【自動車業界の研究】

「FREUDE by BMW」外観と長谷川社長
7 Series〔BMW〕
8 Series The Final Edition〔BMW〕
BMW M340i xDrive 50th Anniversary Limited【国内限定 5台】〔BMW〕
BMW 青山スクエア〔BMW〕
「FREUDE by BMW」外観と長谷川社長
エクスクルーシブ・ラウンジ〔BMW〕
アトリエ〔BMW〕
CAFÉ & BAR B テイクアウト〔BMW〕
X7〔BMW〕
XM〔BMW〕
記者懇談会での長谷川社長
記者懇談会での巻波シニアマネージャー
日本料理レストラン「無題」〔BMW〕
ブランディング×マーケティング×セールス〔ABeam Consulting〕

世界一期待が高いとも言われる日本の自動車ユーザー

今回は「駆けぬける歓び」をスローガンに掲げ、走りの良さでトップレベルに位置するプレミアムブランド“BMW”の自動車(本体)そのものとは別のサービスや“ホスピタリティ”の面にフォーカス。世界でもユーザーからの期待(要求)が一番高いとも言われる日本において、どのように磨きをかけてラグジュアリー・クラスのユーザーも視野に入れてブランドの魅力や価値を高めているのか? などを中心に、その戦略や取り組みをBMWの日本法人によって開催された記者懇談会の模様も交えてご紹介します。

【画像15枚】BMWジャパンが掲げる世界一の”ホスピタリティ”とは?

BMW日本法人トップが語る“日本の良さ”

BMWの日本法人「ビー・エム・ダブリュー株式会社」の主催により、「長谷川 正敏 代表取締役社長」と「巻波 浩之 営業部 BMWラグジュアリー・クラス/BMW M シニアマネージャー」による記者懇談会(ラウンドテーブル)が開催されました。

兼ねてから、クルマの品質、特に耐久性やメンテフリー、各所の建て付け精度(ボディパネルや内装材の組み付け部分の隙間の大きさや間隔の均一さ等)、そして、サービスや“ホスピタリティ”に対する日本のユーザーの期待(要求)は世界一高いとも言われており、今回の記者懇談会では自動車(本体)そのものとは別のそういったところを軸に議論がなされました。

長谷川社長からも「日本のお客さまの期待はおそらく世界一、ドイツ本社(BMW AG)の社長会(各国法人の社長が集合)でも、お客さまへの代車提供に驚く国があったり、トラブルの際は謝罪にお伺するのが日本では常識ですが、キーホルダーを送って済む国もあったり、日本(法人)はそういった環境下でサービスを提供できているとはいうものの、お客さまにご満足いただけるようにまだまだ努力していかなければいけない」と話されます。

日本人は全般に几帳面で真面目で繊細だと言われ、自動車業界における一例として、クルマ造りにおける丁寧な造り込みから壊れづらい等の品質面でポジティブに作用しており、また、ユーザーであるお客さまへの対応ではきめ細やかな心配りや“おもてなし”の精神から真心の感じられるサービスや“ホスピタリティ”が提供されていて日本の良さを再認識することができます。

記者懇談会での長谷川社長

記者懇談会での長谷川社長

BMWはサービスの“質”の向上を戦略的に推進中

現在、自動車業界においてはデジタル化、さらにはDX(デジタル・トランスフォーメーション≒デジタル変革によって何かが良くなること)が進み、WEBから情報取得はもちろん、各種予約やオンライン販売を提供するブランドも存在しています。

そんな中、記者懇談会では長谷川社長が「ブランドとして、お客さまが期待されていること、特に各種サービスの“質”の向上を掲げ重点的に取り組んでおり、一人一人全てのお客さまにご満足いただける“質”の高いサービスを提供していきます」と方針を打ち出されていました。

さらに、巻波シニアマネージャーから「現在、どうやってBMWがプレミアムセグメントでNo.1になれるか? を考えていて、特に8シリーズ、7シリーズ、X7、XMといったラグジュアリー・クラスの戦略を中心に検討しています」とのことでした。

続けて、「ドイツ本社(BMW AG)のオリバー・ツィプセ取締役会会長からも『他社と比べて明らかに違う商品やサービスを提供し、それをお客様に感じ取っていただかなければならない』と言われており、“ホスピタリティ”を軸にファシリティの面では“リテール・ネクスト”、各種トレーニングの実施や役割毎の新しいユニフォームの開発も進めています」と話されていました。

現在、BMWでは販売店に「リテール・ネクスト」と称され、魅力的なショールーム体験をコンセプトに顧客のニーズや思考を第一に考える“カスタマー・セントリック(顧客中心主義)”をテーマとしてデジタルツールも活用する新店舗の導入が続いています。

記者懇談会での巻波シニアマネージャー

記者懇談会での巻波シニアマネージャー

BMWで世界一大きいブランド・ストア「FREUDE by BMW」

東京のランドマークのひとつでもある“麻布台ヒルズ”の一画にBMWにおいて世界で一番大きいブランド・ストアの「FREUDE by BMW(フロイデ・バイ・ビー・エム・ダブリュー)」はあって、世界で一番大きいことは今回の記者懇談会で長谷川社長が話されて知ったところですが、“世界一”であることは日本にとって誇らしいと感じます。

記者懇談会においては長谷川社長から「おかげさまで『FREUDE by BMW』はオープンから1年以上が経過し、目標を上回る7万人以上のご来客をいただきました」と話され、「FREUDE by BMW」はブランディング拠点として順調にその役割を担っていると考えられます。

“麻布台ヒルズ”は、日本一高いビルを有し、東京において“六本木ヒルズ”や“虎ノ門ヒルズ”、あるいは“東京ミッドタウン”などと同様に数多くのオフィスや商業施設が入居する人気スポットでもあるため、プレミアムブランドのブランド・ストアが存在するには、とても相性が良いと考えられます。

「FREUDE by BMW」の1階にはBMWの最新モデルなどが展示されていて、商品説明専任スタッフの“BMWジーニアス”がわかりやすく初歩的なところから専門的なところまで、さらには展示されていないモデルまで懇切丁寧にわかりやすく説明してくれるので気軽に訪れ質問することができます。

「FREUDE by BMW」のホームページから試乗可能なモデルを確認して予約すれば、BMWの最新モデルに無料で試乗することもでき、専門スタッフのサポートのもとで運転試乗、助手席や後部座席での試乗体験、つまり、スタッフに運転してもらう同乗試乗も可能であるため、BMWを気軽に知りたい方や触れたい方にはうってつけだと思います。

店内のカフェ「CAFÉ & BAR B」はエレガントかつ明るい雰囲気で、“麻布台ヒルズ”というエリアであることを鑑みれば、ドリンクやフードがリーズナブルな価格で提供されていてテイクアウトすることもでき、また、季節限定メニューがあるのもリピーターにとって魅力的なのではないでしょうか。

CAFÉ & BAR B〔BMW〕

2階には、限られた方のみが利用できる「エクスクルーシブ・ラウンジ」やオーダーメイド・プログラムのBMW Individual(インディビジュアル)のカラーやレザーのサンプルを実際に見たり手にしたりできる「アトリエ」、さらに数ヶ月先まで予約がいっぱいという人気の日本料理レストラン「無題」では、有名店で研鑽を積んだシェフがその日その日で厳選された食材を用いた絶品料理を提供してくれるそうです。

「FREUDE by BMW」の営業時間はAM11時~PM10時で、「CAFÉ & BAR B」はランチがAM11時~PM2時、カフェタイムがPM2時~PM5時、バータイムがPM5時~PM10時、ラストオーダーはクローズの30分前となっており、「エクスクルーシブ・ラウンジ」はAM11時~PM8時(貸切時除く)となりますが、不定休のため注意が必要です。

アトリエ〔BMW〕

アトリエ〔BMW〕

プレミアムブランドBMWのラグジュアリー・クラス

BMWには世界的にも名声の高い8シリーズや7シリーズ、X7、XMといった同ブランドにおける最高級ラグジュアリーに分類されるクラス(モデル)があります。

いずれもBMWの最高峰に位置するクラス(モデル)で、8シリーズはクーペやカブリオレとグランクーペ、7シリーズはセダン、X7やXMはSUVといった具合にボディタイプ毎にそれぞれがラインアップされています。

8シリーズは、BMW最高峰のスペシャリティモデルで、(2025年8月)現在 “THE FINAL EDITION(ファイナル・エディション)”が同社のホームページでも紹介されていて、今のところ次期モデルの情報は無く、新車で8シリーズを手に入れられる機会は今を逃すと今後はそうそうないかもしれません。

ボディサイズ(全長×全幅×全高)は、クーペとカブリオレが4855×1900×1345mm、グランクーペが5085×1930×1405mmで、いずれにも4394ccのV型8気筒ツインターボエンジン(最高出力530ps)と2997ccの直列6気筒ターボエンジン(最高出力340ps)、グランクーペには加えて2992ccの直列6気筒ディーゼルターボエンジン(最高出力320ps)が搭載されています。

8 Series The Final Edition〔BMW〕

8 Series The Final Edition〔BMW〕

7シリーズは、言わずと知れたBMW最高峰のセダンで、長年に渡ってメルセデス・ベンツのSクラスやアウディのA8、レクサスのLSといった各ブランドを代表するモデルと競い合うことで自動車の進化に貢献、その実力は折り紙つきです。

ボディサイズ(全長×全幅×全高)は、5390×1950×1545mmで、マイルド・ハイブリッド・テクノロジーを用いた2997ccの直列6気筒ターボエンジン(システム・トータル最高出力381ps)と同じく2992ccの直列6気筒ディーゼルターボエンジン(システム・トータル最高出力299ps)、BEV(バッテリー型電気自動車)のi7はシステム・トータル最高出力違いの2モデル(659ps、544ps)がラインアップされています。

7 Series〔BMW〕

7 Series〔BMW〕

X7は、BMW最高峰のSUVで7シリーズ同様にメルセデス・ベンツのGLSやアウディのQ8、レクサスのLXと、こちらも競い合い切磋琢磨してきたハイエンドモデルのひとつで、さらにはランドローバーのレンジローバーやキャデラックのエスカレードといったSUV界の雄と言える競合モデルも存在していて、近年のSUV人気もあってブランド間の競合は激しさを増しています。

ボディサイズ(全長×全幅×全高)は、5170×2000×1835mmで、マイルド・ハイブリッド・テクノロジーを用いた4394ccのV型8気筒ターボエンジン(システム・トータル最高出力530ps)と2992ccの直列6気筒ディーゼルターボエンジン(システム・トータル最高出力352ps)が搭載されています。

X7〔BMW〕

BMW X7 NISHIKI LOUNGE カスタムオーダー・サービス【限定5台】〔BMW〕

XMは、ハイ・パフォーマンス・モデルの代名詞とも言えるBMW Mの専用モデルとして、オンロード走行性能を高めた“スポーツ・アクティビティ・ビークル”という革新的コンセプトの元に造り込まれ、サーキット走行を念頭において開発されたM ハイ・パフォーマンス・モデルのひとつです。

ボディサイズ(全長×全幅×全高)は、5110×2005×1755mmで、マイルド・ハイブリッド・テクノロジーを用いた4394ccのV型8気筒ターボエンジン(システム・トータル最高出力748psと653psの2タイプ)が搭載されています。

XM〔BMW〕

XM〔BMW〕

いずれのモデルもBMWにおける最高峰のモデルで走りや快適性の評価はとても高く、今後、BMWの日本法人が進めるラグジュアリー・クラス強化の取り組みとして、どういった“ホスピタリティ”の向上やマーケティング活動やプロモーションが行われるのか? が注目されます。

日本で磨き上げるBMWの“ホスピタリティ”

BMWでは、ユーザーから一番近いところのひとつに“セールス・コンサルタント”がおり、「BMWへの愛着はもとより、お客さまとの信頼関係の構築が何よりも大切で、時にはプライベートな話し相手にもなれるほど親密な関係を築き、プレミアムブランドに相応しい行動で長期的な信頼関係の維持に務める」行動を基本とするようです。

“セールス・コンサルタント”はお客さまから「あなただから買ったんだよ」と言われることを“最上の歓び”としていて、やはり、人間関係においては双方がWin. Win.で嬉しい!ことが肝要であって、その連鎖が人と人とのつながりにおいては重要であると考えます。

記者懇談会では、世界でも一番期待が高いとされる日本マーケットについての議論がなされ、巻波シニアマネージャーは「今、最も重要だと考えているのが“ホスピタリティ”・トレーニングで、2024年の11月からディーラーとフェイス・トゥー・フェイスで進めており、次のステップではラグジュアリー・セグメントに相応しいトレーニングを実施していきます」とのことでした。

続けて、「私たちの最終的な目標というのは、セールスやサービスのアドバイザーがコンシェルジュのようになってもらいたい。お客様にとって何でも相談していただけるような体制も整えていきたい。その体制実現に向けて、BMWに携わるもの全員をワンチームとして目標のレベルに到達できるように、日本法人の社員にもトレーニングを行っています」とおっしゃられていました。

最高の“ホスピタリティ”を実現するために、BMWの日本法人と販売会社や関係会社が連携して日々研鑽を積みサービスを磨き上げていることは、日本にとっては誇らしく、日本発で世界へ広がって行くのであれば素晴らしいです。

BMW 青山スクエア〔BMW〕

BMW 青山スクエア〔BMW〕

BMWの日本におけるビジネス戦略

今回の記者懇談会では、長谷川社長から前述のサービスの“質”や“ホスピタリティ”強化以外のビジネス戦略についての議論も実施され、パワートレインの方針やファシリティとして整備を進める「リテール・ネクスト」の具体的な推進なども知ることができました。

パワートレインについては、「これまで通り360度方位(内燃機関、ハイブリッド、BEV、燃料電池)で提供していく方針に変わりはなく、また、世界各地で起こっているBEVの過度な価格競争には参入しません」とBMWとしての戦略を論じられていました。

「リテール・ネクスト」については、「直近で大阪の新梅田や札幌の月寒、東京の江東などで導入され、今後は名古屋などでも立ち上がっていく予定ですが、進捗が遅いと(BMW)ドイツ本社の社長会で話題にあがった際には、日本は店舗数が世界でも圧倒的に多いと説明していて(笑)、それでも2028年末には導入を完了させる予定です」と裏話も伺うことができました。

また、カスタマーターゲットについては、「BMWは決して富裕層だけを狙ってビジネスをしているのではなく、あくまでも富裕層のお客さまにもご満足いただけることを目指していて、BMWのすべてのお客さま一人一人に同じサービス、“おもてなし”をしていきます」と説明されていました。

さらに、ビジネス戦略については、「1シリーズや3シリーズといったコンパクトなセグメントの販売に力を入れないというわけではなく、さらに、ラグジュアリー・クラスにおける販売も上乗せしていくことによって、しっかりと販売も増やし、収益性も高めていきたいと考えています」と述べられていました。

BMWという世界屈指の走りのブランドが力を入れるラグジュアリー・クラスのユーザーは、“ホスピタリティ”への期待を始めさまざまなことを牽引する役割も担うと考えられ、そこで磨き上げられたことがすべてのBMWユーザーに展開され、さらには自動車業界全体にも波及して相乗効果が期待できるのは嬉しいことだと思いました。

BMW M340i xDrive 50th Anniversary Limited【国内限定 5台】〔BMW〕

BMW M340i xDrive 50th Anniversary Limited【国内限定 5台】〔BMW〕

“ホスピタリティ”と自動車のブランディング×マーケティング×セールス

今回、BMWの記者懇談会の全体を通して特に有意義であったのは、“ホスピタリティ”という有形無形を超越したところの価値や創造について、製造業や販売業を基本とする自動車ブランドが将来を見据え、どのように事業展開するのか? が議論された点です。

具体的には、製品(プロダクト)、ブランディング×マーケティング×セールスと各プロモーション、それらのかけ合わせが結果として販売に結びついているとビジネス側面では捉えられ、また、プレミアムブランド、ましてやそのラグジュアリー・クラスにおいては“ホスピタリティ”はより重視される傾向にあり、結果としてユーザーであるお客さまの満足度が高まらなければブランドとしての価値も高まらないと考えられます。

つまり、自動車(本体)そのものがどんなに優れていても接客や各種サービス対応がダメだったり、ニーズにマッチングしていなかったりと、どこかひとつが欠ければユーザーは満足できず、さらに、対価といった観点からプレミアムブランドでは製品同様により一層に期待が高いといったところです。

そういった中で、“ホスピタリティ”を高めるために“掛け声”だけではなく、各所でトレーニングを進めるBMWの事業推進は理にかなっていて、“ホスピタリティ”を高める具体施策は千差万別で正解はひとつではないため、トレーニングを実施することで議論が交わされ、マニュアル通りに進まないケースの対処や意識改革にもつながっていくといった相乗効果も期待できます。

「駆けぬける歓び」のスローガン通り、走りにおいてトップレベルに位置してきたBMWというブランドが、さらに “ホスピタリティ”においてもより高みに到達した時、ブランドの位置づけや販売状況がどうなるか? 注目されます。

世界でも稀有で素敵な“おもてなし”といった心や文化を持つ日本において、時間やお金を費やしてBMWが“ホスピタリティ”を磨き上げることは、日本のマーケット、そして、ユーザーを大事にしている表れであると捉えられるので、今後もBMWが日本に導入するモデルやサービスなどに期待が持てます!

ブランディング×マーケティング×セールス〔ABeam Consulting〕

ブランディング×マーケティング×セールス〔ABeam Consulting〕

■参考リンク
BMWホームページ
https://www.bmw.co.jp/ja/index.html
FREUDE by BMW
https://www.bmw.com/ja/freude-by-bmw.html
BMW青山スクエア〔BMW〕
https://bmw-tokyo.bmw.jp/ja/aoyama
おもてなしの心〔BMW〕
https://www.bmw.com/ja/automotive-life/hospitality9.html

【画像15枚】BMWジャパンが掲げる世界一の”ホスピタリティ”とは?

橋爪一仁

AUTHOR

自動車4社を経てアビームコンサルティング。企画業務を中心にCASE、DX×CX、セールス&マーケティング、広報、渉外、認証、R&D、工場管理、生産技術、製造等、自動車産業の幅広い経験をベースに現在は業界研究を中心に活動。特にCASEとエンジンが専門で日本車とドイツ車が得意領域。

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