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メルセデス・ベンツ「ELF」が探るEV充電の最前線。メガワット級充電とロボット化は実現するのか

超高速・双方向・ワイヤレス、すべての充電技術をこの一台に

メルセデス・ベンツは2025年10月9日、電気自動車(EV)の充電に関する革新的な未来技術を一台に凝縮した実験車両「ELF」を発表した。この車両は、単なる未来のEVのプロトタイプではなく、充電インフラとの連携までをも視野に入れた、包括的な研究開発を行うための「走る実験室」である。ELFはドイツ語の「Experimental-Lade-Fahrzeug(実験用充電車両)」の頭文字をとった愛称であり、超高速充電、双方向充電、さらにはワイヤレス充電といった最先端技術を統合し、EVの利便性と持続可能性を飛躍的に高めることを目指す。

【画像35枚】メガワット級ポートから「置くだけ充電」まで。実験車両ELFの先進装備を徹底チェック

電動化社会への移行が加速する中、メルセデス・ベンツはローカルなCO2フリー走行の実現だけでなく、充電プロセスそのものの効率化、知能化、そして持続可能性を追求している。ELFは、そうした同社の強い意志を象徴する存在であり、車両と充電インフラを一体で開発する包括的なアプローチによって、EV充電の新たな時代を切り拓こうとしている。

100kWh10分で。900kW急速充電の実力

ELFの最大の特徴の一つは、その驚異的な急速充電能力である。この実験車両には、用途の異なる2つの急速充電システム、MCS(メガワット充電システム)とCCS(複合充電システム)が搭載されている。MCSはもともと大型トラックなどの商用車向けに開発された規格で、メガワット級の大電力充電を可能にする。ELFでは、このMCSを用いて高電圧バッテリーやパワーエレクトロニクスといったコンポーネントの熱耐性や性能限界を極限状況下でテストし、将来の長距離走行EVやフリートソリューション開発に知見を活かすことを目的としている。

一方、乗用車の標準規格であるCCSにおいても、技術的な限界を押し上げる挑戦が行われている。ELFはCCS接続で最大900kWという充電能力を達成しており、これは100kWhのバッテリーをわずか10分で充電できる計算になる。ここで使用されるバッテリーや充電制御システムなどのコンポーネントは、すでに量産化に近いレベルにあり、将来のメルセデス・ベンツ市販モデルに順次組み込まれていく予定である。

こうした研究の成果は、すでに技術プログラム「CONCEPT AMG GT XX」に活かされている。このコンセプトカーは、5分間の充電で約400km(WLTP)の航続距離分を充電できる性能を持ち、記録走行では最大1041kWのピーク充電出力を達成した。この実現には、充電器メーカーAlpitronic社との協力により、従来比2倍となる最大1000Aの電流をCCSケーブルで流せるプロトタイプの充電ステーションを開発したことが大きく貢献している。これらの知見は、メルセデス・ベンツが展開する独自の充電パークに設置される次世代の高性能充電器の開発に直接反映され、将来的にはガソリン車の給油時間と遜色のない充電体験の提供を目指す。

クルマが蓄電池になる未来「双方向充電」

ELFが探求するもう一つの重要なテーマが「双方向充電」である。これはEVを単なる移動手段としてだけでなく、電力網と連携する「移動可能な蓄電池」として活用する技術だ。ELFは、AC(交流)とDC(直流)の両方で双方向充電のテストを行っている。

具体的には、EVから家庭へ電力を供給する「Vehicle-to-Home(V2H)」、電力網へ売電する「Vehicle-to-Grid(V2G)」、そして電化製品へ直接電力を供給する「Vehicle-to-Load(V2L)」といった様々な活用ケースを想定している。

例えば、70~100kWhのバッテリーを搭載した一般的なメルセデス・ベンツのEVは、停電時に平均的な一戸建て家庭の電力を2~4日間にわたって供給する能力を持つ(V2H)。また、太陽光発電システムと組み合わせれば、余剰電力をEVに蓄え、夜間や必要な時に家庭で使用することで、CO2排出量を削減し、エネルギーコストを大幅に引き下げることが可能だ。試算によれば、年間約500ユーロの節約に繋がるケースもあるという。

メルセデス・ベンツは、日本ではすでにCHAdeMO規格で双方向充電を導入している実績があり、欧州などで主流のCCS規格においても、2026年からドイツ、フランス、イギリスで関連サービスの提供を開始する予定である。

ケーブルの煩わしさから解放される新技術

さらにELFは、ケーブルを使わない未来の充電方法もテストしている。その一つが、地面に埋め込まれた充電システムから磁気共鳴の原理を利用して非接触で充電する「誘導充電(インダクティブ充電)」である。現在の充電出力は一般的な家庭用ウォールボックスと同等の11kW(AC)だが、ケーブルの抜き差しが不要なため利便性が高く、特に家庭用やフリート車両向けのソリューションとして大きな可能性を秘めている。

もう一つは、車両のフロア下にあるコネクタを介して物理的に接続する「伝導充電(コンダクティブ充電)」である。こちらも充電プレートの上に車両を正しく駐車させるだけで自動的に充電が開始されるため、ユーザーはケーブルに触れる必要がない。これらの技術は、バリアフリー対応や狭い駐車スペースでの利便性向上に貢献すると期待されている。

加えて、メルセデス・ベンツはロボット技術を用いた充電プロセスの完全自動化も研究している。特に大電流を扱う急速充電では、太く重いケーブルの取り扱いが課題となるが、ロボットが接続作業を代行することで、安全性と快適性を両立させることができる。

ELFによって示されたこれらの先進的な充電ソリューションは、メルセデス・ベンツが目指す、利便性と持続可能性を高いレベルで両立させた未来の電動モビリティ社会の姿を明確に描き出している。

【画像35枚】メガワット級ポートから「置くだけ充電」まで。実験車両ELFの先進装備を徹底チェック

※この記事は、一部でAI(人工知能)を資料の翻訳・整理、および作文の補助として活用し、当編集部が独自の視点と経験に基づき加筆・修正したものです。最終的な編集責任は当編集部にあります。

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