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戦後復興を担った白洲次郎は、ランドローバーとレンジローバーの本邦初のオーナーだった。彼が愛した英国流SUVの魂は、最新のレンジローバー スポーツSV エディションTWOにどう受け継がれているのか。彼の足跡が残る東北の道を巡る旅に出た。
【画像40枚】ローズウッドとエボニーが織りなす“誂え”の空間。「レンジローバー スポーツSV」の気品ある内外装をチェック
レンジローバー最新の快速マシーンは異端か否か
初代の誕生から今年で55年を数えるラグジュアリーSUVの元祖であるレンジローバー。今回の主役であるレンジローバー スポーツSV エディションTWO P635はしかし、SUV界のスーパースポーツカーのような1台であり、紳士的なアーカイブに当てはめてみると「異端」のような存在にも思えてくる。
そんな考えが頭をよぎったのは、小雨の降る東北道で少し強めにスロットルを踏み込んだ時だった。もの凄い加速Gと雷鳴のような排気音が瞬時に立ち上がり、一気呵成にスピードメーターの数字が跳ねあがる。
不思議なのは加速に際しリアがあまり沈み込まないまま、まるでラグビーのスクラムがはじまった瞬間のようにパワーが推進力に変わること。635psという最高出力の持ち主なので加速が強烈なのは当然だろう。腑に落ちないのは、車体の側がひどく落ち着き払っている点である。
レンジローバー スポーツSVエディションTWOにはこれまで何度か触れているが、今回のように1000km以上も走るのは初めてのこと。「レンジローバーファミリーきっての快速マシーンは異端か否か」という個人的な疑問の答えを急ぐ必要はなさそうだ。
日本初のオーナー、白洲次郎。戦後復興を支えた英国製SUVの軌跡
我々は東北道を下ることにした。その理由は以前目にした古い写真がきっかけとなっている。日本に最初に輸入されたランドローバー・シリーズ1。スーツ姿でそのステアリングを握る彫りの深い男性の名は白洲次郎である。彼はアメリカ軍の占領下にあった戦後の日本を背負って立ち、GHQから「従順ならざる唯一の日本人」と言われた人物である。
実業家としても優れていた白洲次郎は、電力再編によって誕生した東北電力の初代会長を1951年から1959年まで務めている。そして只見川流域のダム建設の現場を視察した彼の目に留まったのは、雪深い悪路で立ち往生するクルマだった。そこで彼はデビューして間もないランドローバーを英国から取り寄せる指示を出したのだという。日本にランドローバーを広めた人物もまた白洲次郎だったのである。

白洲次郎は1951年に東北電力の初代会長に就任し、只見川流域のダム開発を指揮した際にはランドローバー・シリーズ1を英国から取り寄せて、現地視察の足として愛用したという。写真は秩父宮妃殿下を乗せ運転する白洲次郎。写真提供:旧白洲邸武相荘。
一方1970年にデビューした初代レンジローバーも白洲次郎とは縁が深い。彼は日本に輸入された最初の3台のうちの1台のオーナーだった。また、その中の1台を西武鉄道グループの元オーナーである堤義明氏が所有しており、プリンスホテルをはじめとする様々な商業施設の建設現場を視察していたというエピソードもある。戦後復興にはじまる右肩上がりの日本という国を、ランドローバーとそこから派生したレンジローバーが下支えしていたのだ。
白洲次郎が辿った時代とは道路もクルマの性能も大きく異なっている。それでも偉大なる先達の足跡を最新のレンジローバー スポーツSV エディションTWOで辿ることに意味はあるはず。それともうひとつ、今回の我々には訪ねてみたい宿があった。奥只見ダムから西へ向かった新潟、南魚沼にあるミシュランの星を持つ「里山十帖」がそれである。
最高峰の名「SV」が体現するもの
さて、レンジローバーをよりスポーティにした派生モデルがレンジローバー スポーツである、という部分をあらためて説明する必要はないだろう。だが車名の中で異彩を放つSVのアルファベットはどうか? これはスペシャルビークルの頭文字であり、ジャガーランドローバー内において特装車の製作やパーソナライゼーションを担当する部門、SVO(スペシャルビークルオペレーションズ)によって仕立てられたモデルであることを表している。2025年モデルのレンジローバー スポーツSV エディションTWOは日本市場にはわずか95台が割り振られるという、最高峰にして貴重なモデルだ。
走りはじめてみると、レンジローバー一族としては異端ではないか? という疑問のことはひとまず忘れてしまった。何しろレンジローバー スポーツSV エディションTWOの仕上がりはそれほど凄まじかったのだ。
驚愕のスピードを意識させない、乗り心地のよさ
高速道路で驚愕するほど速い、というとパワーに比例するような硬い乗り心地を想像するかもしれないが、違うのだ。実際はスピードのことを意識させないくらい乗り心地がいい。その部分こそ、先代(レンジローバー スポーツSVR)と比較した場合のトピックなのだと断言できる。
レンジローバー伝統のテレインレスポンスにはダイナミックやコンフォート、オート、オフロードといった標準的なドライビングモードの他に、オンロード最強のSVモードやドライバーの好みの設定が可能なコンフィギュラブルモードも用意されている。だが走行シーンに合わせてテレインレスポンスをあれこれ悩むくらいなら、「オート」を選んでおけば間違いがない。

レンジローバー スポーツSV エディションTWO:テレインレスポンスにはダイナミックやコンフォート、オート、オフロードといった標準的なドライビングモードの他に、オンロード最強のSVモードやドライバーの好みの設定が可能なコンフィギュラブルモードも用意されている。
東北自動車道ではエアサス特有のフワッとした快適な乗り心地を堪能することができた。また、会津若松へ向かうワインディングでは、コーナーのエイペックスを正確に捉えるようなハンドリングを確認できた。
会津若松ではレンジローバー・ブランドを代弁する「伝統的」というキーワードにかけて、会津漆器の「蒔絵」も体験してみたのだった。懐かしさを感じさせてくれる会津若松の街並み、そして堂々とした会津鶴ヶ城の石垣に、マールグレイというボディカラーのレンジローバー スポーツSV エディションTWOがよく馴染んでいたことも新たな発見だった。
グレーの発色も目立ちすぎなくていいのだが、それをスポーティに引き締める黒いアクセントカラーも効いている。しかもよく見れば、ボンネット中央部やオプション設定となっている23インチ・ホイール、そしてブレーキディスク等々の黒はカーボンファイバーの地色をそのまま採用している。
前後オーバーハングや高い位置にあるパーツ、そしてバネ下を軽くするというのはスポーツカー作りの常套なのだが、そんなパフォーマンスアップのツボはラグジュアリーSUVを研ぎ澄ませる場合でも同じなのである。
それは仕立ての良いスポーティングジャケット
内装はレンジローバー一族らしい直線基調のダッシュパネルやヘッドレスト一体型のシート等ですっきりと仕立てられている。だが試乗車はローズウッドとエボニーという2色のレザーが使用され、伝統的で落ち着いたイメージも盛り込まれていた。
レンジローバー スポーツには今回の試乗車のようなトップグレードとしての「SV」のほか「SVビスポーク」というオーナーの好みを徹底的に反映させられる誂えのプログラムも用意されている。究極の1台を注文するとなれば、自分だけの1台を仕立てたいと思うのは当然だろう。そして「誂え」という文化は英国人が得意とするところでもある。

レンジローバー スポーツSV エディションTWO:レンジローバー一族らしい直線基調のダッシュパネルですっきりと仕立てられたインテリア。試乗車はローズウッドとエボニーという2色のレザーが使用され、伝統的で落ち着いたイメージも盛り込まれていた。
背広の語源にもなっているロンドンの小路、サビルロウ・ストリートにはスーツの仕立屋がずらりと軒を連ねており、件の白洲次郎が愛用していたヘンリープールはその代表格といえる。彼らは自らのハウススタイルの範疇に顧客の注文を落とし込む術に長けている。体形にフィットしていることは当然として、例えば胸のポケットにどれくらいの重さのペンを入れるのか? といったことでも縫製の具合、ひいてはシェイプが変わるほどなのだ。
日本でスーツというと冠婚葬祭とかビジネスウェアの域を出ないが、本場のカバレッジははるかに広い。乗馬でも専用のジャケットやパンツは欠かせないし、ハンティングに代表されるアウトドアアクティビティでもジャケットが正装となるのだから。

レンジローバー スポーツSV エディションTWO:奥只見シルバーラインの路面は常にウェットでアンジュレーションも多く運転に注意が必要な道だが、レンジローバー スポーツSV エディションTWOでは難なく疾走することができた。
これらのスポーティングスーツも、元をたどればサビルロウに行き着くことになる。サイドベンツ(ジャケット両裾の切れ目)を入れることで乗馬の姿勢でもシルエットが崩れないようにしたり、腕の動きを妨げないように両肩の後ろや背中にアクションプリーツを加えることでスポーティな体の動きを妨げないスーツを生み出してきたのである。
そう、スーツの世界観に当てはめてみると、レンジローバー スポーツが言わんとする「スポーツ」の意味を理解しやすいと思う。2ボックスの端正なシルエットはレンジローバーの伝統に裏打ちされているが、よりドライバーの意思や動きにフィットするように全体が仕立て直されている、そんなモデルといえるのではないだろうか。
どんな道でも水平姿勢を保てる秘訣は「6Dダイナミクスエアサスペンション」
中でも今回のレンジローバースポーツSVをシリーズのトップモデルたらしめ、ラグジュアリーからサーキットレベルのスポーティまでの幅広い走りのキャラクターを与えているのは「6Dダイナミクスエアサスペンションシステム」だ。
スプリングはエア、ダンパーは電子制御の可変タイプなのだが、ダンパー4本が油圧経路で結ばれ協調制御される点が目新しい。スタビライザーのような物理的なギミックなしに、走行中のボディの前後左右の傾きを瞬間的に補正してくれるのである。
こういったサスペンションは大きな荷重移動が起こる山道やサーキット走行に向いていると思っていた。だが今回はそれがゆったりとした長距離ドライブでも効果を発揮することがよくわかった。
目先の路面が継ぎはぎだらけで荒れていても、レンジローバースポーツSV エディションTWOはまるで平滑な路面を通過するように静かにやり過ごすことができる。
ACCまかせで走る高速道路でも極上ライドを味わえたが、それ以上に驚かされたのは会津若松から奥只見ダムまで200km近く続いたツイスティな山道だった。コマンドポジションから見下ろす広い視界と精確なハンドリング、そしてしっとりとした乗り心地の妙を堪能できたのだ。
そんな乗り心地に対し、前40、後35扁平という23インチタイヤは不釣り合いな感じがする。けれどSUV史上最高レベルの賢いサスペンションと、バネ下を総計で76kgも軽くできるカーボンファイバー製のホイール、ブレーキシステムが嬉しいミスマッチを演出している。大パワーを受け止めるタイヤは硬くても、バネ下の振動を極限まで取り去ることで、速度に関係のないしなやかな走りが可能になっているのだ。
異端ではなく、理想を纏った現代のジェントルマン
時おり道路の上を細い流れが横切っていくような山道を延々と走り、最後は10kmを軽く超える地下通路のような長いトンネルを抜けて辿り着いた奥只見ダム。今日でもここに辿り着くのは大変だが、このダムが完成したのは今から70年以上も前のこと。たとえ最高の走破性を誇るランドローバーがあっても、視察はそれだけで壮大なアドベンチャーだったに違いない。
ミシュランひとつ星の宿「里山十帖」で温泉に浸かりつつ、想像以上に快適なグランドツアラーだったレンジローバー スポーツSV エディションTWOに思いを馳せると、このクルマにすっかり惚れ込んでいる自分がいた。異端というよりも、エンジニアの理想をことごとく実現させた欲張りな1台というのが、このクルマの実像。それは仕立ての良いグレーのスポーティングジャケットを纏った紳士だったのである。
【SPECIFICATION】RANGE ROVER SPORT SV EDITION TWO (MHEV)
レンジローバー スポーツ SV エディションTWO P635(MHEV)
■車両本体価格(税込)=24,740,000円
■全長×全幅×全高=4970×2025×1815mm
■ホイールベース=3000mm
■トレッド=前:1715、後:1725mm
■車両重量=2590kg(カーボンホイール装着時2570kg)
■エンジン形式/種類=B44/V8 DOHC 32V+ターボ
■内径×行程=89.0×88.3mm
■総排気量=4394cc
■最高出力=635ps(467kW)/6000-7000rpm
■最大トルク=750Nm/6000-7000rpm
■モーター形式/種類=TZ-314/交流同期電動機
■モーター最高出力=19ps(14kW)/800-2000rpm
■モーター最大トルク=200Nm/250rpm
■燃料タンク容量=90L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速AT
■サスペンション形式=前:Wウィッシュボーン/エア、後:インテグラルマルチリンク/エア
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前:285/45R22 後:305/40R22
■問い合わせ先=ランドローバーコール TEL:0120-18-5568
■レンジローバー ホームページ:https://www.rangerover.com/ja-jp/
【画像40枚】ローズウッドとエボニーが織りなす“誂え”の空間。「レンジローバー スポーツSV」の気品ある内外装をチェック