













2000年代の「グランド・スポーツ・ツアラー」が蘇る。メルセデス・ベンツ博物館、希少なコンセプトカー「VISION R 320 CDI」を公開
メルセデス・ベンツ博物館(ドイツ・シュトゥットガルト)は、2026年4月12日までの特別展示「ヤングタイマー」の会場であるコレクションルーム5において、2005年に発表されたコンセプトカー「VISION R 320 CDI」を公開した。後のRクラス(251系列)の原型として知られるVISION R 320 CDIは、「グランド・スポーツ・ツアラー」という新カテゴリーを提示した重要なスタディモデルでもあり、同博物館でRクラスが展示されるのは今回が初となる。
【画像14枚】これが「グランド・スポーツ・ツアラー」の理想形。メルセデス・ベンツ博物館で公開された「VISION R 320 CDI」のディテール
新たな車両カテゴリー「GST」の提唱と革新的な塗装技術
今回展示されている「VISION R 320 CDI」は、バンでもステーションワゴンでもなく、また伝統的なセダンとも異なる新しいコンセプトのカテゴリーとして2002年に発表された「グランド・スポーツ・ツアラー(GST)」を具現化したものである。2005年3月のジュネーブ・モーターショーで発表されたこのモデルは、筋肉質なフォルムと開放感のあるガラスルーフを持ち、空間そのものを演出するスポーティでラグジュアリーなツアラーとして提案された。実際にこの同年、量産モデルであるRクラス(251系列)が市場に投入されている。
特筆すべきは、そのボディを包む「アルビーム(ALU-BEAM)」塗装だ。メルセデス・ベンツが世界で初めて採用したこの塗装技術は、通常のメタリック塗装の顔料が100~300ナノメートルであるのに対し、わずか30~50ナノメートルという極めて微細な顔料を使用している。これにより顔料が塗装表面により均一に馴染み、計算された光の反射(コレオグラフ)によってエッジをより際立たせている。ボディの曲面を生き生きと見せるこの「高光沢エフェクト」は、当時のデザインスタディにおける大きなトピックであった。ちなみにジュネーブ・モーターショーでは、他にも6台のスタディモデルがこの塗装を纏って展示されたという。
ファーストクラスの居住性と「4+2」のシートレイアウト
全長約5メートルという堂々たるサイズを持つVISION R 320 CDIは、高級セダン並みのフォーマットを持ちながら、室内空間はそれ以上に広大に感じられる作りとなっている。ヘッドクリアランスやショルダールーム、座席間の広さなどは当時としては先進的なもので、そのインテリアはまさにラウンジのような特性を持つ。
インストルメントパネルやドアトリムのデザインは力強く、パフォーマンスの高さを予感させる造形だ。内装色には「モヘアベージュ」を採用し、明るい色調とのコントラストや装飾トリムによってスタイリッシュなエレガンスを強調している。また、頭上にはパノラマガラスルーフが広がり、外部と内部が融合するような開放感をもたらしている。
シートレイアウトは「4+2」の構成だ。1列目と2列目にはゆったりとした独立シートが備わり、その後ろに2人掛けのベンチシートを配置することで計6名の乗車を可能にしている。「単に移動するのではなく、スタイリッシュに旅をする」という明確なメッセージが、このシート構成からも読み取れるだろう。
2000年代の「トップ・テクノロジー」と高い実用性
特別展示のテーマである「ヤングタイマー」らしく、搭載されている装備は2000年代当時の最先端技術を象徴している。後部座席に乗る人のために運転席と助手席のヘッドレスト裏にはフラットスクリーンが埋め込まれ、センターコンソールにはDVDプレイヤーが収納されている。これは当時のモバイル・エンターテインメントにおけるトップクラスの技術であり、現代の視点で見れば、当時のライフスタイルや空気感を伝える貴重な歴史的資料とも言える。
また、実用的なラグジュアリーさも追求されている。後部座席は個別に折りたたむことができ、後部センターコンソールはわずかな手順で取り外しが可能だ。これにより、荷物やレジャー用品の量に合わせて積載スペースを自在に変化させることができ、「人生をそのまま持ち運べる」快適性を提供している。
快適とダイナミズムを両立するパワートレイン
「人生は常に流動的である」という考えのもと、その走りを支える技術にも妥協はない。サスペンションにはエアサスペンションを採用し、高い走行快適性と路面への最適なコンタクトを両立させている。
パワーユニットには、当時新型だったV6ディーゼルエンジンが搭載された。最高出力165kW(224PS)、最大トルクは510Nmというスペックを誇り、力強く、長距離移動にも適した余裕ある走りを実現する。駆動方式には4輪駆動システムの「4MATIC」が採用されており、あらゆる天候下での安全な移動を約束している。
メルセデス・ベンツ博物館でのRクラスの展示は今回が初となる。空間への思想、技術への意欲、そして当時のライフスタイルを色濃く反映したVISION R 320 CDIは、快適性とダイナミズムを最高レベルで融合させるというブランドの変わらぬ信念を示す「時代の証人」と言えるだろう。
【ル・ボラン編集部より】
「早すぎた名車」――Rクラスを回顧するとき、我々はしばしばそう形容する。だが、この「VISION R」が放つ輝きはどうだ。セダンの快適性、ワゴンの積載性、そしてSUVの頼もしさを「グランド・スポーツ・ツアラー」という言葉で統合しようとしたメルセデスの野心的な回答がここにある。アルビーム塗装の艶めかしさやラウンジのような独立座席は、単なる多人数乗車手段ではなく「移動そのものを豊かにする」という強い意志の表れだ。その高潔な思想は、形を変え現在のVクラスやGLSの豪奢な空間設計へと確かに受け継がれている。
【画像14枚】これが「グランド・スポーツ・ツアラー」の理想形。メルセデス・ベンツ博物館で公開された「VISION R 320 CDI」のディテール



