ロールス・ロイス

【写真123枚】量産車では到達し得ない領域。ロールス・ロイス「コーチビルド」の系譜と現代に蘇る至高のワンオフ

世界に1台、究極の「完全特注」

当ル・ボランWebでは、ロールス・ロイスのビスポーク(特注)モデルについてしばしばお伝えしているが、ビスポークの最高峰と言えるのは特注車体製造、「コーチビルド」であろう。同社において1950年代まで主流であったコーチビルドは、モノコック式ボディの導入により一時途絶えかけたが、2010年代に復活を遂げている。ここでは、ロールス・ロイスにおけるコーチビルドの歴史を紐解き、現代のそれについても解説していこう。

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コーチビルドの定義とロールス・ロイスの理念

コーチビルドとは、あらかじめ組み立てられたシャシー(車台)上に、顧客の要望に応じた特注の車体を創り上げる技術であり、自動車の誕生以前――つまり、馬車の時代――から存在する手法だ。現代におけるコーチビルドの意義について、ロールス・ロイスでは次のように説明している。

「少数の選ばれたお客様が、当社のチームの全面的な協力のもと、他に類を見ない真に独自の、完全にパーソナルな車両を創り上げることが可能になります。ボディパネルは専門の職人によって手作業で造形され、量産車にある制限に囚われることなく、素材や手法、テクノロジーにおける新たな可能性を切り開きます」

「すべてのプロジェクトは真のワンオフ(一点もの)であり、決して複製されないという厳格なルールの下に行われます。これらの作品は単なる自動車の域をはるかに超え、所有者にとって永続的な財産となる、真にアーティスティックなマスターピースなのです」

コーチビルドの歴史とデザインの原則

ロールス・ロイスが設立された当時、自動車メーカーはローリング・シャシー(フレームにエンジンやドライブトレインを取り付けたのみの状態)のみを製造し、馬車製造から転業した専門のコーチビルダーが、顧客の仕様に合わせて車体を架装するのが一般的であった。当初、馬車と同じ手法で作られていたボディは、時速30〜40マイルというスピードに耐えられるよう進化を遂げていく。

1920年代に入り大衆車メーカーが車体製造を内製化する中、ロールス・ロイスを筆頭とする高級ブランドは、その後数10年にわたって専門工房への外注を続けた。木製フレームに金属パネルを打ち付ける伝統的な手法は、自動車の高速化に伴い金属チューブやアングルアイアンを用いた構造へと進化し、やがてセミモノコック構造へと移行していった。

ロールス・ロイスも1965年の「シルバー・シャドウ」からセミモノコック構造を導入しているが、その後も、独立したシャシーを持つ「ファントムVI」が、子会社のH.J.マリナー・パークウォード社によって、1993年までコーチビルドで製造され続けている。

デザイン面においては、コーチビルドであっても完全な自由が許されていたわけではない。創業者の一人であるヘンリー・ロイスは、ラジエーター後方のバルクヘッドを固定寸法にすることで、「真の」ロールス・ロイスとして認識されるための不可欠なプロポーションを維持した。

1907年の「シルバー・ゴースト」で確立された「車高とホイール径の2対1の比率」や、車体を貫く「ワフト・ライン」「ウェスト・ライン」「シルエット」という3つのライン、そしてスピリット・オブ・エクスタシーを頂点に配したパンテオン(パルテノン)・グリルは、現在に至るまでブランドを象徴するものとして継承されている。顧客とデザイナーは、これらの基本パラメーターの範囲内で創造的な自由を享受するのだ。

過去の歴史的な名車たち

過去の偉大なコーチビルダーたちは、外装のみならず、ミニアート作品と化すほどの計器盤を組み込むなど、内装にも心血を注いだ。ロールス・ロイスの歴史に名を刻む代表的なコーチビルド車の名を、以下に挙げてみよう。

●40/50HP ファントムI ブロアム・ド・ヴィル(1926年)

実業家クラレンス・ウォーレン・ガスクが妻への贈り物として注文したもので、「愛のファントム」と呼ばれる。内装はベルサイユ宮殿のサロンをロココ調で再現しており、マリー・アントワネットの駕籠に着想を得た天井画や、オービュッソンのタペストリーで装飾されている。前席と後席の仕切りには、フランス製の精巧なオルモル(金箔青銅)時計が備え付けられた。

●17EX(1928年)

コーチワークによる重量増が性能を低下させることを懸念したヘンリー・ロイスが、1925年から開発した、軽量で流線型の実験的ファントム・シリーズの5台目である。時速90マイル超での走行が可能であり、高速走行時の視認性が高く、信頼や落ち着きを象徴するブルーで仕上げられている。

●ファントムII コンチネンタル・ドロップヘッド・クーペ(1934年)

顧客と専門家が協力する「共創」の精神から生まれた、最もエキゾチックでバランスの取れたボート・テールの車体を持つ1台である。後部に向かって上昇する凹型のカーブとニス仕上げのリアデッキを具える。デザインを担当したA. F. マクニールの後継者であるジョン・ブラッチリーは、後に「シルバー・クラウド」などを手掛けることとなった。

●ファントムVI リムジン(1972年)

独立したシャシーを持つ最後のモデルであり、コーチビルダー技術の最後を飾る存在である。H.J.マリナー・パークウォード社によって製造され、顧客の要望による豪華な追加装備が多数搭載された。テレビシステムやワイン用冷蔵庫、フロントフェンダーに取り付けて屋外での食事が楽しめるピクニックテーブル、フロントバンパーに固定する「毒キノコ」型シートが備わる。この車両を用いて、ビスポーク能力をアピールするパンフレットも制作された。

グッドウッド本社における現代のコーチビルド

さて、2003年にグッドウッドで生産が開始されて以来、ビスポーク部門は常に、顧客の野心や個人的なラグジュアリーの規範を反映した車両創造を追求してきた。しかし、既存の製品の枠組みすら超えたいと願う一部の特別な顧客の需要に応えるため、同社は新たなコーチビルドのムーブメントを定義することに。現代における主要なプロジェクトを挙げるとすれば、以下のようになるだろう。

●スウェプテイル(2017年発表)

グッドウッド時代初の完全なコーチビルド車で、2013年に顧客から依頼を受け、4年がかりで製造された。1920〜30年代の黄金時代の車にインスパイアされた大型パノラマ・ガラスルーフを持つ2シーター・クーペである。

その最大の特徴は、センターブレーキライトを収める「ブレット・ティップ(弾丸の先端)」へと先細りしていくルーフラインと、レーシングヨットの船体のように車体底面へと境界線なく包み込まれるボディワークだ。車体底面が後方に向かって上向きの弧を描くことで、車名の由来である「スウェプト・テール」を形成。ロールス・ロイスはこの車を「エクストロバート(外向的な者)」と位置付けている。

●ボートテイル(2021年〜2022年発表)

1930年代のアメリカズカップを競ったJクラス・レーシングヨットにインスパイアされ、20世紀に存在した「ボートテイル」のボディ形状を現代に復活させたモデル。ボディパネルは一枚のアルミ板から手作業で成形され、全3台がそれぞれの顧客に合わせて独自に製造された(3台目は非公開)。ロールス・ロイスによれば、このモデルはもてなしを愛する「ヘドニスト(快楽主義者)」を体現しているという。

■第1章(2021年)

顧客が所有する1932年製ボートテイルから着想を得て、メタリックとクリスタルフレークを含む複雑なブルーで仕上げられたボートテイル。カレイドレニョ材を使用したリアデッキが蝶の羽のように開き、カクテルテーブルやスツール、パラソル、シャンパン用冷蔵庫を内蔵した「ホスティング・スイート」が現れる仕組みを備える。内装にはボヴェの特注リバーシブル時計や、ギョーシェ彫りが施された計器盤が採用されている。

■第2章(2022年)

真珠産業を起源に持つ家業を拡大させた顧客からの依頼で、4つの真珠貝をモチーフにした、真珠のような光沢を持つエクステリアカラーで塗装されたボートテイル。リアデッキや内装にはロイヤル・ウォールナットの突き板が使用され、随所にマザーオブパール(白蝶貝)のアクセントがあしらわれている。

●ドロップテイル(2023年〜2024年発表)

過去の4シーターの慣習から脱却し、2シーター・モータリングの魅力と抱擁感を捉えた「ロマンチック」なロードスターとして開発された。過去の歴史的な名車を研究してデザインされ、調光ガラス付きのカーボンファイバー製ルーフの着脱により、オープントップ・ロードスターとクーペの2つの顔を持つ。専用のモノコック構造を採用し、後部にはロールス・ロイス史上最大のカーボンファイバーパネルが使用されている。

■ラ・ローズ・ノワール(2023年)

ブラック・バカラ・ローズにインスパイアされ、見る角度で色が変わる150回のテストを経た「トゥルー・ラブ」レッドで塗装されたドロップテイル。内装には1,603個のブラックシカモア材を用いた複雑な寄木細工で舞い散るバラの花びらが描かれ、オーデマ・ピゲの特注時計や専用のシャンパン・チェストが装備されている。

■アメジスト(2023年)

顧客の子息の誕生石であるアメジストにちなみ、微細なアルミ粉末やマイカフレークを含むパープルで仕上げられたドロップテイル。ロールス・ロイスの歴史上最も広大な面積とされる木材を使用し、ヴァシュロン・コンスタンタンによる複雑な手巻きムーブメントを備えた特注時計が組み込まれている。

■アルカディア(2024年)

ギリシャ神話の理想郷にちなんだ名称で、深みと煌めきを持つ自然なデュオトーンのホワイトで仕上げられている。下部構造のカーボンファイバーがビスポーク・シルバーカラーで塗装されたドロップテイルだ。木目調の細かいサントス・ストレート・グレイン材が、空力機能を持つリアデッキなど広範に使用されている。時計の文字盤には119の面を持つ精緻な幾何学的ギョーシェ模様が施されている。

コーチビルドの未来とロールス・ロイスの展望

現代のロールス・ロイス・コーチビルドに対する表現の追求と顧客からの要望は高まり続けている。これに対し、ロールス・ロイスは将来への意気込みを次のように語っている。

「2029年に完成が予定されているグッドウッドの本社敷地の拡張により、ビスポークおよびコーチビルド部門のための追加スペースと最新鋭の設備が調えられます。これにより、より多くの、そしてますます複雑なコミッションを引き受けることが可能となるでしょう」

自動車のアートとしての限界を押し広げるコーチビルドの伝統は、新たな施設拡張によって、さらに強固なものとなっていくのではないだろうか。

【ル・ボラン編集部より】

ロールス・ロイスが内燃機関からEV「スペクター」へと移行し、パワートレインの無音・均質化が極まる現代において、究極の差別化が再び「コーチビルド」へ回帰している点は非常に興味深い。かつてシャシーのみを提供し、職人が手作業でボディを架装した歴史的文脈は、制約なきワンオフモデルとして見事に現代へ蘇った。最新のテクノロジーと古典的ラグジュアリーが交錯する一点物のマスターピースこそが、単なる移動の道具を超え、顧客の哲学を具現化するブランドの真髄を雄弁に物語っている。

【画像123枚】量産車では満足できないVIPに向けたコーチビルド車両、その歴史と細部を目撃する!

※この記事は、一部でAI(人工知能)を資料の翻訳・整理、および作文の補助として活用し、当編集部が独自の視点と経験に基づき加筆・修正したものです。最終的な編集責任は当編集部にあります。
LE VOLANT web編集部

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