物理法則を凌駕する新次元の走り
アウディは2026年3月31日、すでに発表されている次世代ハイパフォーマンスモデル、新型「RS 5」について、その技術的な詳細を公開した。本稿では、これについて詳しくご紹介していきたい。
【画像14枚】新型アウディ「RS 5」は初のPHEV化で“常識破り”のコーナリングマシンへと進化した
639psの怪物が生み出すドライビング体験とは?
A5シリーズの頂点に位置するRS 5は、セダンとアバント(ステーションワゴン)の2つのボディタイプで展開され、アウディスポーツの歴史において初となるプラグインハイブリッド(PHEV)システムを搭載している。
パワートレインは2.9L V6ツインターボエンジンと電気モーターの組み合わせにより、システム最高出力470kW(639ps)、最大トルク825Nmという圧倒的なパワーを発揮、0-100km/h加速はわずか3.6秒を誇る。また、EVモードで最大84kmの走行が可能であり、日常のクリーンな移動と野性味あふれるスポーツ走行を完璧に使い分けることができるとされている。
もはや伝説的存在の「オリジナルクワトロ」を彷彿とさせる筋肉質なブリスターフェンダーなど迫力あるエクステリアや、複数の大型ディスプレイを備えた先進の「デジタルステージ」インテリアも、新型RS 5の大きな魅力となっている。
15ミリ秒でのコントロール
さて、前述のような強大なパワーを支え、ドライビングダイナミクスをかつてないレベルへと引き上げているとされるのが、量産モデルとして世界初採用の「ダイナミックトルクコントロール(Dynamic Torque Control)付きquattro」である。この新開発システムは、リアトランスアクスルにおける電気機械式トルクベクタリングを可能にし、限界領域に至るまで最大限の俊敏性、安定性、トラクションを確保するものだ。
電気機械式トルクベクタリングの中核となるのは、リアトランスアクスルに搭載された出力8kW、トルク40Nmの400V水冷永久磁石式電気モーター(高電圧アクチュエーター)と、オーバードライブギア、そしてロック率の低いコンベンショナルなディファレンシャルである。オーバードライブギアがアクチュエーターのトルクを利用して車輪間にトルク差を生み出すことで、後輪左右間での迅速かつ正確なトルク配分を実現しているという。
従来の機械式クラッチがベースのトルクスプリッターの場合、負荷がかかっている時(アクセルオン時)にしかトルクを完全に配分できないのに対し、この電気機械式システムは固定式カップリングを備えるため、駆動トルクの有無に関わらず、アクセルオフ時やブレーキング時を含むすべての作動状態で機能する。
わずか15ミリ秒という、ほとんど瞬きに相当する間のさらに約10分の1の速さで、最大2,000Nmの差動トルクを左右のドライブシャフトへ柔軟に伝達することが可能だという訳である。
例えば、車両が左カーブに進入してオーバーステアになり始めた場合、システムは内輪のトルクを増大させて車両を安定させる。逆に、トラクションを向上させてアンダーステアを防ぐために外側の右輪により多くの動力を供給する必要がある場合には、左側のドライブシャフトのトルクを減少させ、ディファレンシャルキャリアを経由して右側のドライブシャフトへとトルクを振り分ける。
これにより、コーナリング時に最もグリップの高い車輪にトルクを移動させ、車両のポテンシャルを最大限に引き出すことができるとされているのである。
すべてを統合制御するHCP1
これらすべての機能は、ドライブトレインとサスペンションの統合制御ユニットであるHCP1(ハイパフォーマンス・コンピューティング・プラットフォーム)によって統括されている。車両の状態と環境データを比較し、ドライバーの入力と調和させるだけでなく、ステアリング入力からドライバーの意図を予測し、瞬時に、かつダイレクトな反応を実現するという。
また、フロントアクスルを主にサポートする電子制御ディファレンシャルロックやブレーキトルクベクタリング、さらにはツインバルブ式ショックアブソーバーとも精密に連携し、極めて素早いレスポンスの確保が図られている。

新しいツインバルブ式ショックアブソーバーは、RS 5のバランスの取れたハンドリングにおいて重要な役割を果たす。圧縮と伸張をそれぞれ独立して制御できるため、非常に快適な乗り心地と極めてスポーティなドライビングの両方を可能にするという
この革新的なシステムにより、新型RS 5はドライバーのコマンドを高精度に実行し、ダイナミックなドライビングの限界域であっても車両の動きに対する最大限のコントロール性を提供するとされる。アウディ ドライブセレクトのモード変更によって、ニュートラルな設定から極めて俊敏な後輪偏重の設定まで、各ドライバーにとって理想のセットアップが選択可能だ。
アウディでは、このダイナミックトルクコントロール付きquattroによって、あらゆるドライビングモードにおいて予測可能かつ直感的に管理できるレスポンスを提供し、RS 5をより親しみやすく、かつエキサイティングなモデルへと進化させたと説明しているのである。
【ル・ボラン編集部より】
かつて「獰猛でありエレガンス」と評されたRS 5だが、初のPHEV化には一抹の懸念もあった。バッテリーによる重量増は、スポーツカーにとって宿命的な足枷だからだ。しかしアウディは、後輪に仕組んだ「電気機械式トルクベクタリング」によって、その物理の壁を鮮やかにねじ伏せてきた。15ミリ秒という極限のトルク制御は電動化のネガティブを相殺するどころか、かつてのオリジナルクワトロが掲げた哲学を新次元へ引き上げている。単なるエコではなく、重さを知性で制する極めて現代的なスポーツの解釈である。
【画像14枚】新型アウディ「RS 5」は初のPHEV化で“常識破り”のコーナリングマシンへと進化した















