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“様子見”のクルマなど作らない。ロールス・ロイス「EX」の系譜と、誇り高き赤バッジに込められた哲学

“極秘”実験車『EX』たちが示す驚愕の先見性

ロールス・ロイスは2026年4月7日、英グッドウッド工場での生産開始以降に製造された3台の実験車(EXモデル)が、それぞれ発表から20周年、15周年、10周年を迎えることを発表した。

【画像37枚】現代ラグジュアリーの礎を築いた幻の実験車たち。歴史の裏面に隠れた3台の姿を見る

あの“星空ルーフ”もここから誕生した

これに該当するのは「101EX」「102EX」「103EX」の3モデルであり、これらは現在のバッテリー式電気自動車(BEV)技術や、同社特有のビスポーク(特注)部門の基盤構築において重要な役割を果たした車両であると言える。ロールス・ロイスのエンジニアリング担当ディレクターであるベルンハルト・ドレスラー氏は、次のように述べている。

「その歴史を通じて、ロールス・ロイスは製品開発プロセスの一環として、実験的(Experimental)、すなわちEXモーターカーを創造してきました。しかし、EXモーターカーは『様子見』に作られたコンセプトカーではありません。それは完全に実現され、走行可能であり、お客様のニーズやご要望に対する私たちの深い理解に基づいています」

「今年アニバーサリーを迎える3台のEXカーはそれぞれ、伝説的なファントム・クーペ、スペクター、コーチビルドの代表作であるスウェプテイルといったグッドウッド時代のモデルの開発に多大な貢献を果たしただけでなく、当ブランドを象徴するスターライト・ヘッドライナーのような表現を通じて、ビスポークの魅力を世界に紹介しました」

「その革新性、創造性、ダイナミズム、そしてエンジニアリングの成果において、これらはサー・ヘンリー・ロイスの技術的卓越性とチャールズ・ロールスの先駆的なビジョンを見事に現代へと翻訳しています」

顧客ニーズを具現化する「EX」の系譜

ロールス・ロイスにおけるEXモーターカーは、市場の要望を問う一般的なコンセプトカーとは異なり、顧客に対する深い理解と将来へのビジョンを通じて特定されたニーズに応えるために開発されている――これにより、技術者は革新的な技術や高度な生産手法、新素材の評価を行うことが可能となると、同社では説明している。

その系譜は1919年にヘンリー・ロイスが製作した「1EX」まで遡ることができるだろう。その後も、ファントムIIをベースにショートシャシー化した軽量モデル「26EX」や、後にブランド初のBEVモデルの名称に引き継がれる「スペクター」のコードネームを持った「30EX」などが製造されてきた歴史がある。

発表から20年を迎える「101EX」(2006年発表)

2006年のジュネーブモーターショーで公開された101EXは、ファントムVIIと同じアルミ製スペースフレームをベースにしつつ、全長を240mm短縮した4シーター・クーペだった。カーボンファイバー複合材のボディや6.75L V12エンジンを採用し、大型モデルよりもドライバーに焦点を当てたキャラクターとして設計された。ルーフラインは低く抑えられ、パンテオングリルはやや後方に傾斜している。

また、現在では同社の多くのモデルに採用されている「スターライト・ヘッドライナー(数百の光ファイバーで星空を演出するルーフ内装)」が初めて採用されたモデルでもある。この車両で得られた知見は、2008年発売の量産車「ファントム・クーペ」や、2017年発表のコーチビルドモデル「スウェプテイル」の開発に活かされたという。

発表から15年を迎える「102EX」(2011年発表)

「ファントム・エクスペリメンタル・エレクトリック(EE)」とも呼ばれる102EXは、同社初のバッテリー式電気自動車(BEV)として開発されたテストベッドである。エンジン駆動に依存していたパワーステアリングや空調などをすべてバッテリー動力へ変換する技術的課題に挑んだモデルであり、当時の乗用車としては世界最大容量のバッテリーと、世界初となるワイヤレス非接触充電システムが搭載された。

ジュネーブでのデビュー後、ラスベガスで開催されたコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)を含め、約1年にわたり世界各地のイベントで披露、このモデルで蓄積されたデータと関係者からのフィードバックは、10年以上後に登場する量産BEV「スペクター」の開発へと繋がっている。

発表から10年を迎える「103EX」(2016年発表)

103EXは、同社が描くラグジュアリーの未来像を示す「ビジョン」モーターカーとして製作された。完全自動運転とゼロ・エミッションを前提としており、車内(グランド・サンクチュアリ)にはシートの代わりにソファが配置され、まるで宙に浮いているかのような空間が演出されている。全長5.9m、全高1.6mというファントム・エクステンデッド同等のサイズを持ち、圧倒的な存在感を放つ。

同モデルでは、ガラス製の「スピリット・オブ・エクスタシー」が初採用されたほか、「エレノア」と名付けられたデジタル・アシスタント機能が搭載され、車両とオーナーのシームレスな接続が提案された。この構想は、現在のオーナー向けアプリ「Whispers(ウィスパーズ)」の概念を予期するものであったと言えるだろう。

特別な意味を持つ「赤いバッジ」

コンセプトや時代背景は異なるものの、これら3台のグッドウッド時代のEXモデルには共通して、赤文字の「ロールス・ロイス・バッジ・オブ・オナー(RRエンブレム)」が装着されている。初期のロールス・ロイス車には赤いエンブレムが用いられていたが、1931年以降は黒文字が標準となっている。

赤いバッジは同社の歴史において、創立75周年記念モデルや「コーニッシュS」など特別な車両にのみ限定的に使用されてきた。この赤いバッジがEXモデルに与えられていることは、ブランド創設時から続く「革新と実験の系譜」において、これらの車両がいかに歴史的に重要な役割を担っているかを示しているのである。

【ル・ボラン編集部より】

ロールス・ロイスにおける「EX(実験車)」の系譜は、モーターショーを彩る単なるアドバルーンとは決定的に異なる。それは顧客の深層心理と未来の環境を俯瞰し、果てしない実走テストを重ねるための「走る実験室」である。2023年に登場した同社初のBEV「スペクター」が示した、あのジョイントの通過さえ心地よくなる完璧な静寂と滑らかさは、突如舞い降りた魔法ではない。15年前に「102EX」が直面した技術的課題に対する、長きにわたる執念の回答なのだ。歴史的転換期を象徴する、特別な赤いバッジの重みを改めて噛み締めたい。

【画像37枚】現代ラグジュアリーの礎を築いた幻の実験車たち。歴史の裏面に隠れた3台の姿を見る

※この記事は、一部でAI(人工知能)を資料の翻訳・整理、および作文の補助として活用し、当編集部が独自の視点と経験に基づき加筆・修正したものです。最終的な編集責任は当編集部にあります。
LE VOLANT web編集部

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