ポルシェデザイン、スイスに新たな自社時計工房を開設
ポルシェデザインは2026年3月26日、スイスのグレンヒェンに新たな時計工房を開設したと発表した。近隣のゾロトゥルンから移転し、スイス時計製造の伝統的な地域に初の恒久的な拠点を構えることとなる。ポルシェは自動車ブランドとして唯一自社の時計工房を所有しており、スポーツカー造りの哲学と高いカスタマイズ性を機械式時計の世界に融合させる、新たなマイルストーンとなる施設である。
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歴史的建造物を最新鋭の生産拠点へ刷新
新たな工房は、スイスの時計製造において伝統ある地域であるグレンヒェンに位置している。かつて時計ブランドの「エテルナ」が本拠地としていた1955年築の歴史的な建物を2024年春に取得し、そこからわずか18ヶ月という期間でポルシェデザインの要求に合わせて全面的に近代化された。物件の最初の視察から完成までトータルで3年が費やされ、ポルシェのデザインと技術的DNAを機械式時計の製造へと昇華させるための拠点として生まれ変わったのである。
この場所はポルシェデザインと深い縁がある。1995年にフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ教授らが関わる企業がこの建物を取得しており、1998年から2014年まではライセンス供与によってポルシェデザインの時計が製造されていた場所でもあるのだ。「欲しいものがないのなら、自ら開発する」というフェリー・ポルシェの哲学を受け継ぎ、自社生産による妥協のない品質基準「スイスメイド」を体現する場となっている。歴史的な金庫の扉や漆喰の装飾などは修復されて残されており、建物の歴史への敬意と現代的な生産環境が融合している。
徹底した品質管理とサステナビリティの追求
約3,600平方メートルの広さを持つ施設内には、現在10カ所の最新鋭の時計製造ステーションが設けられている。緻密な作業が求められるため、空間全体に自然光を再現する特別な照明システムを導入し、さらに各作業台のLEDライトによって微細なほこりや表面のわずかな変化も確実に見つけ出せる環境を整えた。また、気候条件を一定に保つべく、1時間に5回の換気を行う高度な空調や陽圧技術を備えたクリーンルームも完備し、専用の防護服と前室を経由してのみ立ち入れるという徹底ぶりである。
環境への配慮もポルシェの理念を強く反映している。建物の屋上には211枚のソーラーパネルが設置されており、施設のエネルギー需要の最大62%を賄うことが可能だ。さらに、高性能なヒートポンプや熱回収機能付きの換気システムを導入してエネルギー消費を抑えるなど、資源を意識したサステナブルな施設運営が行われている。生産工程においては、短い移動距離で効率よく部品を運ぶ重力式のコンベヤーシステムを採用し、ポルシェならではの連続生産の原則が時計造りにも応用されている。
スポーツカーと時計が交差する独自の顧客体験
新しい工房は単なる生産施設にとどまらず、顧客がブランドの世界観を体感できる空間としても機能する。「ガラスの工房」というコンセプトのもと、ポルシェの伝統でもあるガイド付きの工場見学が可能となっており、高度な時計製造の裏側を見ることができる。1階の展示エリアでは、1972年から続くポルシェデザイン・タイムピースの歴史を辿る展示が行われ、自動車デザインと時計製造の結びつきを視覚的に学ぶことができるのだ。
最も特徴的なのは、顧客が現場で直接時計の仕様を決め、製造後にその場で受け取ることができる「フィッティング・ラウンジ」の存在である。スポーツカーをオーダーメイドするように、一人ひとりの好みに合わせた世界に一つだけの時計を作り上げることができる。さらに、顧客が自身の愛車であるポルシェに乗ったまま工房内に直接乗り入れることができるという、自動車メーカーならではのユニークな体験も用意されており、ポルシェの美学と精密な機械式時計の魅力がシームレスに繋がる特別な場所となっている。
【ル・ボラン編集部より】
かつて初代911を手掛けたF.A.ポルシェが創設したポルシェデザイン。彼らのプロダクトが愛好家を惹きつけるのは、ジャンルを超えてポルシェの「デザイン哲学」を共有しているからだ。この新工房は単なる生産拠点ではない。愛車のステアリングを握ったまま工房へ直に乗り入れ、自身で仕様を決めた機械式時計を受け取る。クルマと時計、二つの精緻なメカニズムへの愛着を繋ぐこの空間は、機能美を追求し続けるブランドの歴史的系譜が辿り着いた、現代における体験型ラグジュアリーのひとつの完成形である。
【画像22枚】究極の「スイスメイド」を生み出す拠点。ポルシェデザイン・タイムピース新工房の内部写真を見る
























