AMG GTに待望の4ドア版が追加設定
43シリーズや53シリーズなど、ラインアップを続々と拡大中のメルセデスAMGに、トップモデルとなるAMG GTの4ドア・クーペが日本上陸を果たした。SLS AMGから続く独自開発の第3弾となるこのモデルを富士スピードウェイで試乗した。今回は、まずそのパフォーマンスに特化した第一印象をお伝えしよう。
「M177」ユニットは本当に気持ちがいい
AMG GTの流れを汲む4ドアクーペ「AMG GT4ドア・クーペ」。そのハイエンドモデルである「GT63 S」を、富士スピードウェイで試すことができた。当日は、かなりスリッパリーなウェットコンディションだったが、639ps/900Nmという途方もないパワー&トルクをいかに4マチックとシャシー、そして電子制御が受け止めるかを確認するには、うってつけの機会だった。
それにしてもAMG珠玉の「M177」ユニットは、本当に気持ちがいいエンジンだ。4Lの排気量を持つV8ユニットのバンク中央に2基のターボユニットを据えるその過給圧制御は極めて緻密で、アクセラレーションに対する追従性がすこぶるいい。全開時の吹け上がりはオーバー600psというパワーを考えると驚くほどリニアで、どかん! とトルクが湧き上がって乗り手を不安にさせるターボラグは皆無。
もちろんこれには優秀なESPがもたらすエンジン出力の調整や、瞬時に前輪へとトルクを配分する4マチックのトラクションも密接に関係しているのだが、エンジンそのもののトルクの出方や回転に伴うパワーの解放には粗雑さが全く感じられず、その圧倒的な速さに驚きと快感を感じながら、安心してコーナーの立ち上がりからアクセルを床まで踏みつけることができるのである。そしてコーナーでのアクセルコントロールにおいても、この緻密な制御がパーシャルスロットルでの微妙な操作を高速コーナリング中において完璧に受け付ける。
こうした特性は、もちろん普通に走るような領域でも十分役に立つ。今回オープンロードでの試乗がなかったためサスペンションの快適性は計りかねるが、ハイエンドモデルと言えども扱いにくさはなく、むしろ楽しさのあまり免許の心配をする必要があるだろう。
そんな風に従順なV8ユニットだけに、そのパワーを受けとめるシャシーの素性は確認しやすかった。そしてその走りには、まさにFRベースの4WDというキャラクターが色濃く表現されていた。何よりこの63Sは自然に曲がる。たとえばフルブレーキングからターンする1コーナーでは、マルチチャンバー式のエアサスがブレーキングで作り出したV8ユニットの慣性をものともせず受け止める。そして可変式のダンパーが突っ張ることなくタイヤへと、穏やかかつ短く荷重を伝える。重みを増した電動パワステの操作性は良好で、転舵すればグーッと手応えを増しながらノーズが入って行く。このときAMG GT4ドア・クーペは最大で1.3度後輪を逆位相しているらしいが、その制御を意識することはない。だからひたすら良く曲がる、という印象だけがある。
また100Rのような高速コーナー(具体的には100km/h以上の領域)では最大0.5度までトー角を同位相して安定性を高めてくれるようで、急激な操作で余計な姿勢変化を与えない限りは、確かにこの路面で滑りながらもリアタイヤがドリフトアウトするようなことは一度もなかった。
総じてそのハンドリングは、ターンインで素直な旋回性を見せ、ターンミドルで発生する慣性を4WDのトラクションで引っ張るという理想的な動きになる。ただし今回の路面だといくら4マチックといえどもESCオフはもちろん、ESCスポーツでもアクセルオンで盛大なパワーオーバーステアが出てしまうため(ターンインでは出ない。これこそがFRベースの素性だ)、走り方としてはESCを活かしたままの方が明らかに速く走れた。たとえ制御が働いても、アクセルを全閉にしなければその後の入力は受け付けられ、じわっと滑りながらも姿勢を立て直せるのだ。本国仕様にはリアバルクヘッド剛性を上げるカーボンプレートもあるというが、今回のような路面ではむしろ、現状のバランスは悪くなかった。