Mの最上位モデル「M8」。その中でも走りを極めた「コンペティション」のバッジを付ける全ボディタイプが関東の梅雨明け初日、ワインディングに集結。クーペ、カブリオレ、グランクーぺ、それぞれの美点は何か? ここでは、ボディタイプがもたらすパフォーマンスの違いをお伝えしよう。
クーペと基本性能から違うグランクーペらしい走り
この記事は、まずはMの小ネタから紹介しよう。従来は、M8を頂点とするラインナップがMモデルとして理解されていた。だが、2018年からBMWではMモデルは改めてサブブランドとして定義。Mモデルは、Mハイパフォーマンス・モデルとして位置づけられている。なお、Mパフォーマンス・モデルは従来のまま。つまり、サブブランドとしてのMモデルを傘として両モデルのラインナップが展開されているわけだ。
ということで、ここではMモデルのMハイパフォーマンス・モデルについてイメージを象徴するM8の研究を進めたい。M8は、2019年からクーペとカブリオレに続き、4ドアのグランクーペの順に日本で発表、現在では全モデルが納車を開始している。
プラットフォームは、FR系BMWで共用化されているが、ホイールベースやトレッドはM8専用設定 (一部8シリーズを含む) であり基本性能の段階から走りに対するこだわりが明らか。さらに、ホイールベースとトレッドはクーペおよびカブリオレとグランクーペでは異なっている。
実をいえば、クーペとグランクーペはこのディメンションの違いが走りのテイストにかなり関わる。グランクーペと比べ、クーペはホイールベースが200mm短くリアのトレッドも30mm狭い。大ざっぱな判断をすれば、クーペはハンドリング重視でグランクーペはスタビリティ重視となる。
もちろん、基本性能だけですべてが決まることはない。だが、クーペとグランクーペには方向性をそれぞれ際立たせる特性が与えられている。どちらも、ダンパーの減衰力を連続可変制御するアダプティブMサスペンションが標準装備となる。今回の試乗車は全モデルがベースグレードではなくより走りを重視したコンペティションだったので、クーペはダンパーをコンフォートにしても減衰力は高めの領域が維持される。
そのため、ステアリング操作に対する応答性は驚くほどダイレクトだ。前後重量配分ではM8のなかでも55:45とBMWの約束ごととは離れているが、フロントヘビー感はまったくない。タイトコーナー進入時も、ステアリングを切り始めた瞬間から長いノーズがシャープに向きを変える。
サスペンションの硬さは、荒れた路面でタイヤが発するドスッというインパクトノイズが大きめなことも印象の背景にある。それを省いた評価をすれば、サスペンション自体はスムーズにストロークしていることが実感でき不快な突き上げとも無縁でいられる。
グランクーペは、基本性能としてスタビリティを稼ぎやすい。そのため、4ドアにふさわしく快適性を重視したサスペンション設定が可能だ。それでいて、ダンパーがコンフォートのままでボディのムダな動きを抑えてくれる。
ホイールベースが5シリーズより長くても、ステアリング操作への応答性がシャープとはいえないまでもシュア (確か) だ。コーナーに進入してからも、切り足せばグイグイ曲がっていく。リアのトレッド拡大で得たスタビリティの余裕を、ハンドリングの向上に振り分けバランスさせている。