国内試乗

【国内試乗】フィアット500eはEVになっても、ちゃんとチンクエチェントだった!

500eは96%新設計のブランニューモデル!

2代目と比べてちょっとだけ大きくなった500eだが、フォルムとバランスは変わらない。

フィアット500e(チンクエチェント・イー)は、2008年2月に日本でもデビューし今も売れ続けている2代目フィアット500とはプラットフォームの全く異なる、”96%新設計”となるブランニューモデルだ。モーターを前方に搭載し前輪を駆動するFFのBEVモデルで、2代目はしばらく併売されるが、”長くない将来”に販売終了予定。つまり事実上の3代目フィアット500となる(ということで本稿では便宜上3代目と表記)。

ボディサイズは全長3630mm、全幅1685mm、全高1530mmと2代目よりも60mm長く、60mm幅広く、15mm高くなった。ホイールベースは2320mmと2代目より20mm長いが、全長、全幅の拡大数が同じことからもわかるように、ひと回り大きくはなったものの、全体の印象、プロポーションは変わっていない。ひと目でフィアット500とわかりつつ新しさもある、好感の持てるデザインだ。またフロントがマクファーソンストラット、リアがトーションビームというサスペンション形式も同じとなる。

日本への導入はハッチバックの『Pop』、『Icon』とカブリオレの『Open』という3グレード。Popが16インチのベーシックグレードで、IconとOpenは17インチの上級グレード。今回はそのうちPopとOpenに試乗することができた。

温故知新をやらせたらイタリアは天下一品!

まずはこちらのPopで走り出すと、クリープする動き出しからその軽さに驚いた。1320kgと約300kgも2代目より重く、また他の多くのEV試乗の経験から何となく身構えていたのだが、まずは物理的な軽さを感じた。

ドライビングポジションはより自然になった印象だ。2代目は同年代の他のイタリア車同様にシート前方、太もものあたりが結構張り出ているのだが、3代目はそれがなく、ステアリングも前後方向に調整可能となったのが大きい。シートの背もたれ調整もダイヤルではなくレバー式なのは便利だ。
2本スポークのステアリングは初代へのオマージュで、外装と同色のパーツが内装に使われるなど、初代、2代目からの連続性も感じさせる。相変わらずこういう”温故知新”をやらせたら、イタリアは天下一品だ。

身軽な感じは街に出ても変わらず、少し踏み込んでみたところ、”せっかちなイタリア人がトリノやミラノの街中で困らない程度に速い”と感じた。つまりシティコミューターとしては十二分ということだ。それは高速道路でも同様で、法定速度内であれば何ら問題ない。

ドライブモードはNORMAL、RANGE、SHERPAの3つで、RANGEではワンペダルドライブが可能な強い回生ブレーキがかかり、SHERPAではさらにエアコンオフなどで消費電力を抑えることが可能。個人的にはNORMALの自然なフィーリングに好感を抱いた。

乗り心地はドタバタ感もなく、上質な感触。17インチのOpenでも1インチアップの悪影響は感じず、落ち着いた色合いのデザインと相成って、随分とオトナになったフィアット500という印象。そう、乗っているとエンジンのモーターの違いはあるものの、これはフィアット500だと自然に思わせてくれるのだ。

それは恐らく、同じようなディメンジョンとデザインで、同じサスペンション形式で、イタリア人がイタリアで生産したら(トリノのミラフィオーリ工場生産)、結果的にちゃんとフィアット500になった……という表現が正しいように思う。ちなみに内装では、ダッシュボードのスマホトレイにトリノの街並みが、ドアノブには”MADE IN TORINO”の文字と初代のイラストがそれぞれ描かれ、トリノ産であることを自らもアピールする。

イタリアらしくデザインで勝負!

誤解を恐れずに書くならば、EVの加速や乗り味で明確な個性を出すのは、正直難しいと思う。自動車の進化を各社が競った結果招いたのは画一化で、それに拍車をかけるのが電動化だ。特にエンジンを含めたエモーショナルな部分で勝負してきたイタリア車にとって、電動化はなかなかの高い壁のように見える。

しかしフィアット500は、イタリアもうひとつの武器である、デザインで勝負をかけてきた。ボンネット側にも半分仕込んだヘッドライト、光の加減でピンクにも見える三層パールのセレスティアル・ブルーのボディカラー、先にも挙げた内装の数々。見れば見るほど、このデザインだけでも買う価値あり! と思わせるのだ。

確かにEVであるから価格もPopの450万円~Openの495万円と、65万円とされる補助金の分を差し引いても、2代目の236万円~300万円からは随分とクラスアップした位置にあり、航続可能距離は最大335kmとなるので街乗り中心……と考えていくと、初代ヌォーヴァ500のような国民車というよりは、ランチアのようなラグジュアリーコンパクトカーと捉えるのが正解だろう。

だからこそのオトナっぽいデザインであり、だからこその上質な乗り味だ。発表された時にブルガリやジョルジオ・アルマーニとのコラボレーションモデルがあったのは、このキャラクター、位置づけを象徴するものと言える。

果たして2代目のユーザーはこれをベースとしたマイルドハイブリッドの追加でカバーしていくのか、あるいは次期フィアット・パンダがカバーしていくのか、あるいは……といったところで正解まではまだ時間がかかりそうだが、個人的にはステランティス・グループという大所帯の中で、フィアットの未来を表現するイメージリーダーカーとして今回の500eはいい落としどころに感じる。

蛇足ながらランチア・オーナーである筆者は、フィアット500eの落ち着いたデザインと色遣いにすっかり魅せられてしまい、リースとサブスクリプションのみとなる購入方法で、果たして月の負担が実際にいくらになるのか、気になって仕方がないのであった。

*こちらはPopのディテール

*こちらはOpenのディテール

【Specification】500e Pop
■全長×全幅×全高=3630×1685×1530mm
■ホイールベース=2320mm
■トレッド(F:R)=1470/1460mm
■車両重量=1320kg
■フロントモーター=交流同期電動機
■定格出力=43.0kW
■最高出力=118ps(87kW)/4000rpm
■最大トルク=220Nm/2000rpm
■一充電走行距離(WLTCモード)=335km
■交流電力消費率(WLTCモード)=128Wh/km
■サスペンション(F:R)=マクファーソンストラット:トーションビーム
■ブレーキ(F:R)=ディスク:ドラム
■タイヤサイズ(F&R)=195/55R16
■車両本体価格(税込)=4,500,000円

【Specification】500e Open
■全長×全幅×全高=3630×1685×1530mm
■ホイールベース=2320mm
■トレッド(F:R)=1470/1460mm
■車両重量=1360kg
■フロントモーター=交流同期電動機
■定格出力=43.0kW
■最高出力=118ps(87kW)/4000rpm
■最大トルク=220Nm/2000rpm
■一充電走行距離(WLTCモード)=335km
■交流電力消費率(WLTCモード)=128Wh/km
■サスペンション(F:R)=マクファーソンストラット:トーションビーム
■ブレーキ(F:R)=ディスク:ドラム
■タイヤサイズ(F&R)=205/45R17
■車両本体価格(税込)=4,950,000円
フィアット500e公式サイト

平井大介

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