昭和っぽさがウケ、新たなる人気を獲得
今年、東京の暑さが尋常ではない。
気象庁によれば、2023年8月20日時点で、東京都心は今年21回目の猛暑日となった。統計を取り始めてから年間の猛暑日最多記録を更新中である。暑さは全国的に厳しく、連日40度近い最高気温が報告されるという異例の状況だ。そうした中、最近よくテレビやネットのニュースで”夏でも涼しい街”として話題となっているのが、千葉県の勝浦だ。
涼しいといっても、本連載で紹介している長野県内のアルトピアーノ蓼科のような高原地帯の気象環境とは違い、それなりに暑い。ただし、勝浦は夏でも極端に暑いことがないし、年間を通じて比較的暖かいのが特長だ。
事実、勝浦市が運営する移住促進のためのポータルサイトには「#100年以上猛暑日知らずの街」というキャッチコピーを掲げているほど。過去10年間の8月の平均気温を見ると、25度~26度と関東地方の夏場としてはかなり低い。直近では、8月第二週の気温を東京都心と比べると、2~5度も低いのだ。多くの人が実感しているように、30度前後での2~5度の気温差は、身体の負担が少なく”涼しい”と感じるものだ。
こうした、勝浦の涼しさに秘密について、各種テレビ番組では専門家の意見を聞いている。それによると、地形と海中温との関係があるようだ。勝浦は入り組んだ海岸線の中にあり、その海底がかなり深い。そこに海からの風がふくと、温度が低い海水の影響を受けて気温が上がりにくいというのだ。
そんな勝浦でお盆休みの週末、コンちゃんと一緒にぶらり旅をしてみた。
東京都心から2時間以内
勝浦って、どこ?
そんなふうに思う人もいるかもしれないが、房総半島の太平洋側、つまり外房(そとぼう)の南側に位置する港町であり観光地である。電車の場合、JR勝浦駅がある。東京からは「特急わかしお」に乗れば1時間半。JR蘇我駅で京葉線から外房線に切り替わる。
クルマだと、京葉道路や首都高速湾岸線から館山道、または東京湾アクアラインから圏央道を経てから一般道を行くと1時間半から2時間程度で到着する、ほど良いドライブが楽しめる距離にある。
昭和の時代、勝浦はとくに団体旅行での有名観光地のひとつであり、東京の人も大体の場所は把握していたはずだ。だが、時代は流れ、旅といえば個人旅行が主流となり、東京都心から日帰りや1泊2日で行ける観光地は急激に増えたため、相対的に勝浦の認識度が下がったのではないだろうか。
それが最近、”夏でも涼しい”ことが再認識されたり、激辛ブームで「勝浦タンタンメン」人気が高まったり、また階段にひな人形を敷き詰めた「ビッグひな祭り」が「インスタ映え」するなど、Z世代を含めて広い世代でも勝浦を知る人が徐々に増えてきた印象がある。
同じく外房で、勝浦のさらに南側にある鴨川には海洋関連施設「鴨川シーワールド」があることで、長年にわたり観光客数が安定して推移してきた。一方、勝浦には大型観光施設はなく、自らがスケジュールを組んで勝浦市内やその周辺の様々なスポットを探索して巡るタイプの旅となる。
朝市で街歩き、電動キックボードの姿も
勝浦といえば、朝市。最近はそうしたイメージが観光客の間でも定着している。
市の観光協会によれば、開催は毎月1日~15日が市街中心部の下本町朝市通りで、毎月16日から月末は仲本町朝市通りで、朝6時半頃から11時頃まで実施される。定休日は、元旦と毎週水曜日。地元であがった魚介類、地元で採れた野菜や果物、串焼きやタイ焼きの屋台など、ちょっとした縁日のような雰囲気である。今回訪れた日曜日は集客数が多いため出店数が多く、平日は”まったり”した雰囲気となる。
コンちゃんを港側に市営駐車場に止めたが、料金はなんと無料。徒歩で5分ほどで朝市があるエリアに到着。都心よりは”涼しい”とはいえ、この日も朝から日差しが強い。日焼け止めを入念にぬって、大きめの麦わら帽子をかぶって街歩きを楽しんだ。
街並みは、いかにも昭和を感じさせる。雑貨店では、「ウキワあります」の文字。干物の加工・卸売り販売のお店の横には看板ネコちゃん。さらに、古い商店を改装したカフェやパン屋さん。食べ歩きをしながら、ゆったりとした時間が流れる。港近くの川には、全長10~20cmほどの魚な群れを成して泳いでいる。
そんな市街地で、ちょくちょく目にしたのが電動キックボードの姿。アメリカの電動キックボードシェアリング大手「Bird」を日本で展開するBRJの事業だ。利用するには、専用アプリをダウンロード。利用時間は午前7時から午後10時まで。料金は基本利用料が100円で、一分間あたり15円が加算される仕組みだ。
海岸線に注目スポット多し
朝市探索を終えて、勝浦港沿いに海岸線を行く。切り立った地形の中で民家の間と通る道はかなり狭く、また幅員の狭いトンネルも少なくない。そのため、クルマのすれ違いで苦労することも度々ある。
それでも先に進んでいくと、「ここが千葉なのか?」「まるで遠い南の島のようだ」という印象を持つような風景に出会う。
例えば、八幡岬。ここは勝浦城跡で、手前の勝浦湾からその先の南房総に向けて地形が手に取るように分かる。また、勝浦湾の綺麗な海は、「いかにも深そうだ」と直感できる風景である。国道128号線に戻り、勝浦の定番観光スポットである勝浦海中公園・海中展望塔へ。
「まるで潜水艦からみる海の様子」と言われる、勝浦の海や近いが体感できる。こうした有料スポット以外にも、入り組んだ海岸線にはプライベートな岩場があり、近隣の民宿などでは関東各地から夏休み終盤を楽しみに来た家族連れが目立った。
こちらはコンちゃんを港近くに停めて、電気ポットを車載バッテリーにつなぎ、リア空間でランチブレイク。 地面からの照り返しは強いものの、なるほど、海風は涼しく感じる。車内の気温計は29度を指している。気象庁によれば、8月末から9月初旬まで関東地方のまだまだ猛暑が続くようだ。
9月中旬以降、暑さがひと段落したら、コンちゃんと今度はどこへ行こうか? 勝浦の海を眺めながら、のんびりと考えた。
この記事を書いた人
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、自動運転、EV等の車両電動化、情報通信のテレマティクス、そして高齢ドライバー問題や公共交通再編など。