SUVという言葉そのものもすっかり定着し、国産車・輸入車問わずに人気の高いジャンルになっている。このコラムでは、SUVのルーツや選ばれる理由など、あらためてSUVブームについて考察してみる。
X5はオンロードスポーツの概念を採用したパイオニア
現在の自動車販売構成におけるSUVの比率は日本で3割超え、アメリカでは約6割と、もはやそれなしでは市場が成り立たないほどの一大勢力と化している。
そもそもSUVの源流は、フルフレームの車台に扱いやすいワゴン型のボディを架装した第二次大戦後のクルマたちにみられるが、1960年代以降、ワゴニアやレンジローバー、50系ランドクルーザーのように本格的にパッセンジャーカーの快適性を求めるような四駆が登場したことでその道筋が定まった。
次いで1980年代に、モノコックに近い構造のユニボディを用いたXJ型チェロキーのヒットなどでSUVは市場に定着、1990年代はRAV4やCR-VのようにCセグメント級モノコックを用いた手軽なモデルが登場し、勢力が拡大する。
その延長線上のモデルとしてレクサスが1997年、Dセグメント級モノコックを用いたプレミアムSUVのRXを投入(日本ではハリアーとして販売)。以降、乗用系のモノコックを用いたプレミアムブランドのSUVが続々と投入されることになる。
2000年に登場したX5は、SUVに本格的なオンロードスポーツの概念を採り入れたパイオニアとして、その記憶に残ることになるだろう。そして、その流れを受けて2002年に登場したカイエンは、門外漢だと思われていた純然たるスポーツカーブランドが手掛けたSUVの成功例として、他者にも大きな影響を与えた。以降はベントレーやロールス・ロイス、ランボルギーニやアストン・マーティンやフェラーリなどもSUV市場に参入、今やそのラインナップを持たないのはマクラーレンくらいのものである。
SUVが世界中のマーケットで標準化されていく裏で、去りゆく車型もたくさんある。その筆頭はステーションワゴンだ。積載力の面で高さ方向に有利、かつ走りもどんどん乗用車ライクに洗練されてきたSUVに対すればステーションワゴンは立つ瀬がない。今やその車型はアメリカ車からはほぼ絶滅、高速域でのドライバビリティを理由に、欧州や日本のごく一部が細々と続けているのが現状だ。
同様にかつてはデートカーと呼ばれたような、ニュアンスが曖昧なカテゴリーも、軒並みSUVに置き換わった。今や走り命の山道好きでもない限り、背の低いクーペにわざわざ乗る理由はない、そんな時代になったかもしれない。
でも、なんとあらばそんなスポーツカーさえ追い回すほどSUVは運動性能を高めているのも現実だ。それでも背丈の高低によって動的な質感は確実に異なるわけで、そういう繊細なニュアンスを大事にするごく一部の好事家たちが、ステーションワゴンやクーペを愛でている。そこを汲み続けることが出来るか否かは自動車メーカーたちの矜持にもよるところだろう。
多くのユーザーにとっては全能的なクルマとなったSUVは、今後BEVの普及が進む中で、大漁のバッテリーを床下においても居室がしっかり確保できるという点で、その車型がますます重宝されることになりそうだ。
一方で、鉄やガラスといったCO2を排出する素材を多く使うその体躯や必要以上に重くなる重量、空気抵抗や転がり抵抗など、効率面については改善すべき課題も山積している。今や栄華を極めてはいるが、環境性能面で自家用車にも爪に火をともすような節制が迫られる状況になれば、槍玉にあげられる可能性も否定はできない。