アルファ・ロメオの新型SUV「ジュニア」の試乗会が、イタリアのバロッコのテストコースで行なわれた。アルファ・ロメオ初のフル電動SUVの完成度はいかほどか、イタ車といえば黙っていられない、嶋田智之氏がレポートする。
ハンドリングにかけるアルファ・ロメオの魔法
心配になる気持ちはよく理解できる。アルファの聖地、バロッコのテストコースで行なわれる国際試乗会に参加する前までは、僕の頭の中にもわずかながらそうした疑念がなかったわけじゃないからだ。
アルファ・ロメオのファンには、もちろん全員がそうというわけじゃないけれど、内燃エンジンに強いこだわりを持つタイプが少なくない。ブッソV6ユニットを愛する僕にも、多少はその気がある。内燃エンジンの音と振動は、クルマを走らせる楽しさと気持ちよさに大きな影響を及ぼすからだ。
が、クルマ好きがクルマを走らせる意味を突き詰めるなら、要はどれくらい楽しいのか、どれくらい気持ちいいのか、だ。アルファ・ロメオがそこを捨てたことなど、歴史上、ただの一度もないだろう。
たしかにジュニアにはエキゾーストノートはない。けれど、それを補って余りある宝物を持っている。いうまでもないことだが、それはハンドリングである。アルファは同じSUVのカテゴリーに、すでにステルヴィオとトナーレを送り込んでいるわけだが、そのどちらもが鮮やかなハンドリングでドライバーを楽しませてくれることは、世界中のファンが知っている。
ステルヴィオは11.8対1の凄まじくクイックなステアリングギア比が生む、曲がりはじめの強烈な瞬発力をホイールベースがやや長めの安定方向にあるシャシーで受けとめていく。トナーレはロール軸の前側を大胆なくらい低く設計し、ロールがはじまった瞬間から抉り込むように曲がっていく。さらに重量配分や駆動が異なるMHEVとPHEVでは、ステアリングギア比などを変えて同じようなフィールを味わえるよう見事な作り分けをしている。燃料消費やCO2排出量の問題が降りかかりエンジンで個性を出しにくくなってから、アルファ・ロメオがどこにこだわってドライビングプレジャーを創造してきたかが一発でわかる。11.8対1も前下がりのロール軸も、そのための魔法のようなものだ。
ジュニアにも、もちろんそれはある。グループ内の同じeCMPプラットフォームを使うクルマたちに対してサスペンションのジオメトリーと一部構造を変え、ダブルハイドローリックストップと呼ばれる油圧ストッパー付きのダンパーを採用し、さらにBEVとしては速めの14.6対1のステアリングギア比として……とにかくガラッとアプローチを変えている。そして何より最大のキモとなるのは、トルセンDと呼ばれる機械式LSDを新開発して投入したことだろう。2006年に147に採用したQ2システムの、トルク感応型の機械式LSDの働きを電子制御する仕組みを大幅に進化させたものだ。
実際、その効き目は素晴らしい。ステアリングを切り込んだ瞬間に前輪と後輪が同調するように俊敏に反応して旋回をはじめ、狙ったラインの上をピタリとなぞっていく。オーバーステアもアンダーステアもない。進入時にも脱出時にも、タイヤは見事に路面をとらえ、まず姿勢を乱すことがない。だからコーナーが速い。だから曲がることがすこぶる楽しい。その曲がりっぷりの一連の動きは、ステルヴィオやトナーレよりも美しいといっていいかも。これがアルファ・ロメオじゃなくて何なのだ?
──とこれだけで終わると話が片寄り過ぎだから付け加えると、乗り心地はBセグSUVの最上級レベル、クルマの動きの滑らかさも最上級レベル、居住空間に過不足なし、サイズは日本にもピッタリ。正直、欲しくてたまらない1台だ。
Q.軽快なハンドリングの秘訣は?
A.新開発のトルセンDです!
【SPECIFICATION】アルファ・ロメオ・ジュニア 280ヴェローチェ
■全長×全幅×全高=4173×1781×1505mm
■ホイールベース=2562mm
■車両重量=1590kg
■モーター最高出力=207ps(280kW)
■モーター最大トルク=345Nm(35.2kg-m)
■バッテリー容量=54kWh
■一充電走行距離(WLTP)=322-334km
■トランスミッション形式=1速固定
■ブレーキ=前後:ディスク
■タイヤ(ホイール)=前後:225/40R20
問い合わせ先=ステランティスジャパン TEL0120-779-159