完全電動化はGクラスに新たな可能性をもたらした
Gクラスにとって日本の市場はとにかく大事なお得意様ということになるだろうか。その人気は既に30年近く続いているが、特に実質的なフルモデルチェンジの扱いとなる現行型では、年間生産台数の1割強を我が国がいただいているにも関わらず、需要は引く手あまたで納車もままならないわけだ。
でも、そんなGクラスの多くはオフロードを走行することもなく街中をぐるぐると這いずり回るような乗られ方をしているのかもしれない。そしてそれは相当もったいない使い方でもある。やはりGクラスは悪路を走ってナンボのクルマだろう。その思いを新たにしたのはあろうことか、この秋のマイナーチェンジで追加されたBEVの新グレード、G580に乗ってみての偽らざる感想だ。
まずはその基本的な成り立ちを振り返ってみると、G580はラダーフレームと一体化するかたちで二層型のリチウムイオンバッテリーを搭載。その容量は116kWhに及び、WLTCモードでの航続可能距離は530kmとなる。バッテリー底部は26mmのカーボンコンポジットパネルでカバーされており、床面はフラット。新型Gクラスに共通するフロントウインドー周りの形状最適化に加えて、ボンネット形状や穴開きのリアフェンダーなどに空気抵抗低減のための独自のディテールがみてとれる。その結果、Cd値は0.53から0.44へと低減された。
床面のフラット化に加えて4つの車輪を4つのモーターで駆動するG580のパワートレインは、オフロード走行での基本性能向上にも寄与している。前後軸にデフケースを持たないこともあり、最低地上高はG450dより20mm高い250mmを確保。吸気口からの水浸入によるウォーターハンマーの心配もないということで渡河深度は150mm高い850mmを達成している。臓物やエキゾーストといった構成物の違いはアプローチ&デパーチャー角の優位として現れてもいるが、ランプブレーク角についてはバッテリーケースの張り出しぶんだけ、内燃機モデルよりも後退した数値となった。
加えてネガ要素があるとすれば、内燃機モデルより500kg以上は重い、3トンを超える車重だ。悪路では軸荷重が駆動伝達に効く場面もあるにはあるが、概してネガティブに振れてしまう。そこをG580がどう克服しているのかが気になるところだが、オフロードコースでは想像の斜め上を行くパフォーマンスをみせてくれた。
重量増の相殺という能力がもっともわかりやすく現れたのは、内燃機モデルであればローレンジでも速度調整に難儀するだろう、急坂をゆっくりと下る場面だ。G580は3段階のクロール速度をパドルで設定できるが、それを最も低速側に設定しさえすれば、制動側の作動もなく強力な回生減速のみで3km/hを保ちながら砂混じりの路面をじんわりと踏みしめながら走り抜く。
タイヤのグリップ力をセンシングする速度や緻密さが内燃機モデルとは明らかに異なる、それを実感させてくれたのがモーグルでのトラクション能力の高さだった。凹面にタイヤを落として脚を伸ばしきるような場面でも、対角側のホイールスピンはわずかも感じさせず、凸側のタイヤが駆動力をねっとりと路面に伝えて苦もなく、何なら音さえ静かに走破する。
4モーターならではの四輪独立駆動制御はGターンやGステアリングといった極端な差動による挙動がもっともわかりやすいが、オフロード走行全般においても、画期的な性能の実現に繋がっている。重機のような質量の四駆がこれほど何事もなく、安楽に悪路を駆け抜けられるものなのか。完全電動化は間違いなくGクラスに新たな可能性をもたらしたといえる。
G-TURN
4輪に個別装備されたモーターを使って、その場で戦車のように回転できる「Gターン」。使用する場面は限られるが電動G-TURN オフローダーの新たな可能性を感じさせる機能だ。
【SPECIFICATION】メルセデス・ベンツG580 with EQ Technology Edition 1
■車両本体価格(税込)=26,350,000円
■全長×全幅×全高=4730×1985×1990mm
■ホイールベース=2890mm
■トレッド=前後:1660mm
■車両重量=3120kg
■モーター形式/種類=E0033/交流同期電動機
■モーター最高出力=587ps(432kW)
■モーター最大トルク=1164Nm(118.7kg-m)
■バッテリー種類=リチウムイオン電池
■バッテリー容量=116kWh
■一充電航続可能距離(WLTC)=530km
■サスペンション形式=前:Wウイッシュボーン/コイル、後:リジット/コイル
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前後:275/50R20
問い合わせ先=メルセデス・ベンツ日本 TEL0120-190-610