
エンジン縦置きFRレイアウトという新開発シャシーで、ラージ商品群の第一弾として鳴り物入りでデビューしたCX-60。しかし、期待値の高さも相まって、乗り心地に対しては厳しい声が上がった。それから2年半。ついに足まわりにメスを入れる大幅な改良を実施。新型の乗り味はどう変わったのか、多くの読者が気になる点を詳細にリポート。加えて、スペシャリストによるサスペンションチューニング車も同時に試乗。異なる車両を徹底試乗することで多角的にサスペンションの最適解を探る。
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デビュー時のネガティブな面は解消
マツダが激戦区の新世代ラージクラスに送り出したクロスオーバーSUVの意欲作がCX-60だ。多彩なパワートレインを用意し、2022年秋に第一弾の48VマイルドハイブリッドのXD 3.3を投入。その後、プラグインハイブリッドのPHEVと2.5Lのガソリンエンジン搭載車を仲間に加えている。グローバルで勝負できるから、ラインアップの価格帯は驚くほど広い。直接のライバル車は、日本勢だけではなく欧州のプレミアムSUVにまでおよんでいる。日本勢はハリアーやアウトランダーPHEV、輸入車はボルボXC60やメルセデス・ベンツGLC、BMWのX3などがライバルになるだろうと思われていた。
鳴り物入りで登場したCX-60は、マスコミにもマツダファンにも期待を持って迎えられている。だが、最初にステアリングを握った時、自動車評論家諸氏は、異口同音にCX-60を辛口に評価した。辛辣なコメントはシャシーとサスペンションに集中している。これに続いて開催された試乗会の後も多くの人は疑問符を突きつけた。CX-60はCX-5の上に位置するプレミアムSUVだ。
が、中国自動車道で最終プロトタイプに乗った時も房総半島を横断した時も、乗り心地がハードだと感じられた。高速道路では舗装の継ぎ目を拾い、ショックがダイレクトに伝わってくる。荒れた路面では後席だけでなく前席でも衝撃を感じるほど、脚が硬いと感じた。当然、低い評価にとどまったから、開発陣は青ざめたようだ。
登場から2年半が経ち、CX-60は初めての大がかりなマイナーチェンジを断行した。もちろん、改良の主眼となっているのはサスペンションにメスを入れることだ。ダンパーやスプリングの減衰特性などを見直し、乗り心地の改善を図った。気合の入れ方がハンパではなかったから、公道での試乗を前に期待が高まったものだ。
最初にマツダCX-60のシャシーとサスペンションの特徴について述べておこう。「ドライビングエンターテインメントSUV」をコンセプトに掲げて登場したCX-60は、前後重量配分を最適化しやすい新開発の縦置きエンジン用プラットフォームを採用している。これにフロントがダブルウイッシュボーン、リアはマルチリンクのサスペンションを組み合わせた。リアサスペンションは、ハイブリッド車とPHEV、そして4WDモデルはサスペンションとハブを繋ぐ締結部に金属製のジョイントを用い、スタビライザーも装備した。ベースグレードのXDのFRモデルだけは一部をラバーブッシュとし、リアのスタビライザーも外している。ブレーキは前後とも制動能力の高いベンチレーテッドディスクだ。
こうしてでき上がったCX-60は、人馬一体の爽快な走りを狙いすぎたのか、コーナリング時のロールは抑え込まれているが、ネガティブな面として先にも述べたように乗り心地の粗さが指摘された。とくに後席に座ると、スポーツモデルのようにハードで、路面によっては大きな突き上げを感じることもある。
今回のマイナーチェンジの焦点はズバリここ。乗り心地の改善を狙ってサスペンション設定の見直しを図ったのだ。リアダンパーは減衰の伸び側を従来型より2倍ほど大きく設定し、スプリングのふらつきを抑え込んでいる。また、リアのスプリング定数は20〜25%も下げた。ウレタン系のラバーブッシュは長さを5mm短くしたが、大きな入力があった時は支えるようにするなど、バンプストッパー、クロスメンバーブッシュの特性も変えている。リアのスタビライザーを外したのも大きな変更点だ。フロントサスペンションにも手を入れた。ダンパーの減衰力は伸び側の強さをピストンスピードによって1.3〜1.5倍アップして、フワフワとした落ち着きのなさを解消。ナックルアームの締結ポイントも1mm下側にし、安定性を向上させた。
これらの変更に加え、前後のスプリングとダンパーの減衰バランスに合わせてパワーステアリングやシャシー制御も最適化。今までよりキャスター角を立てたので、これを制御によって調整した。パワステはダイレクトで好評だったが、重いという意見があり、少し軽くしている。最初にステアリングを握ったのは新設定グレードのXD SPの4WDだ。CX-60はメカニズムの多くを兄貴分のCX‐80と共有しているから、商品改良を行ったCX-60の足は大幅に進化しているはずだ。
まずは市街地を走ってみた。試乗会場付近の道路は意外に路面が荒れているから評価路としては最適だ。マイナーチェンジ前のCX-60でも同じ道を走ってみたが、タウンスピードではハードな乗り心地が気になった。荒れた路面では突き上げもきつく感じられる。だが、新型CX-60は、低速域からサスペンションが滑らかに動くようになり、不快な上下動とゆすられ感もかなり減っていた。凹凸によるショックを上手に吸収し、ロールしたときのボディの収まりも速やかである。パワーステアリングの操舵フィールは従来より軽く、スッキリしたものになり、多くの人から支持を受けやすいだろう。
3.3LのT3-VPTS型直列6気筒DOHC直噴ディーゼルターボは滑らかに回り、燃費も驚くほどいい。トルクコンバーターレスの8速ATは応答性のよさが魅力である。だが、従来はエンジンが再始動後のの発進時にギクシャクし、上質感を損なっていた。これもクラッチを制御する油圧精度をアップし、クラッチ掛け替え制御を最適化させたことで、滑らかにつながるようになった。
2台目の試乗車は、同じ3.3LのT3-VPTS型ディーゼルターボを積むXDのLパッケージだ。ただし駆動方式が違い、こちらは2WDである。ワインディングロードに乗り入れても動きはしなやかだった。もともと2WDはいい感じの挙動だったが、車両重量が50kgも軽いことも奏功しているのだろう。軽快な身のこなしで、スポーティな味わいが強い。キャスター角を立てているCX-60だが、2WDでも高速直進安定性と落ち着きはよくなった印象だ。舵が正確で、修正時の精度も高まっている。だが、リア駆動だからディーゼルターボの分厚いトルクにあらがうことができず、腰がひける場面も。持てるポテンシャルを余すことなく引き出せるのは4WD。2WDと比べると少しハンドリングはマイルドだが、この味付けがCX‐60を買うユーザー層には合っている。ホットに走っても粘り腰を見せ、安心感もある。どちらが好みの味なのかは、読者の判断にお任せしよう。
最後に乗ったのは、XDハイブリッドにパノラマサンルーフなどのゴージャス装備を加えたプレミアムモダンだ。心臓はマツダ自慢のeスカイアクティブD3.3で、トルコンレスの電子制御8速ATの間にモーターを組み込んでいる。一般にはマイルドハイブリッドと呼ばれるシステムだ。車両重量は2トンに迫るが、高性能を誇示しながら優れた燃費性能を実現しているのが売りである。先に試乗したXD系と同様に、乗り心地は劇的によくなっていた。課題だった突き上げは荒れた路面でも気にならないレベルまで減っている。そして、高速域になるほど印象のよくなる操舵の安心感としなやかな乗り味はハイブリッド車でも変わらない。
マイナーチェンジでCX-60は劇的な進化を遂げ、確実にデビュー時のネガティブな面は解消した。だが、まだ途上だからこの先も伸びしろはある。その点で次の進化も楽しみになってきた。