スペックシートには載らない、MCプーラの物語
マセラティの最新作「MCプーラ」は、単に卓越した性能を持つスーパースポーツカーというだけではない。その一台には、ブランドが1世紀以上にわたって培ってきた哲学、そして未来への明確なビジョンが凝縮されている。車名に冠された「プーラ（Pura）」、すなわち「純粋」という言葉の意味を、発表会で開発責任者たちが語った言葉から紐解くことで、このモデルの真の価値が見えてくる。
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「純粋」という名の意味と、「グランツーリズモ」の哲学
なぜ「MC20」の進化形として「MC25」ではなく、「MCプーラ」なのか。この問いに、マセラティのチーフ・マーケティング＆コミュニケーション・オフィサーであるジョヴァンニ・ペロシーノ氏は、自身のネーミング戦略への情熱を語ることから始めた。
「私はネーミング戦略が大好きで、お気に入りのトピックの一つです」
彼は、歴史的な名車「MC12」が「マセラティ・コルセ（レーシング）12気筒」という明確な意味を持っていた歴史に触れ、新しいクルマにも同様に強い意味を持たせたいと考えた。そして、「MCプーラ」のコンセプトをこう説明する。
「新しい原理、ブランドの純粋なエッセンス、純粋なデザイン、純粋なクラフトマンシップを持つ新しいクルマでした。ですから、『ピュア（純粋）』はこの新しいクルマに適用されるべきコンセプトだと考えていました」
この「純粋さ」というコンセプトは、単なる一台の車名に留まらず、
「将来的には、マセラティの他のカーラインにも適用することを、より広い視野で考えることにオープンです」
と、ブランド全体の哲学となりうる可能性を示唆した。
「純粋さ」への追求は、マセラティ独自の「グランツーリズモ」という哲学と深く結びついている。この概念のルーツは、19世紀にヨーロッパの貴族たちがイタリアの美を巡る旅をした「グラン・ツアー」にあるという。目的地に速く着くことだけが目的ではなく、旅の過程そのものを楽しむという精神だ。彼は、その本質を次のように語る。
「何かを楽しむためには、快適で、自信に満ちている必要があります。これがグランツーリズモ・ファクターです。私たちのすべてのクルマで、運転に自信を感じることができます」
MCプーラは、他のスーパースポーツカーとは異なり、圧倒的な性能を持ちながらも、ドライバーが決して気負うことのない、快適なグランツーリズモ・フィーリングを提供するために作られているのである。
ドライバーを主役にする造形美学
その哲学は、デザインにも色濃く反映されている。デザイン責任者のクラウス・ブッセ氏は、MCプーラの造形思想の核心を、イタリアの最高級ファッションブランド、アルマーニやロロ・ピアーナに例えてこう語った。
「私たちがMCプーラを、抑制をもたせてデザインしたのには理由があります。クルマがドライバーを圧倒してほしくないのです」
そして、マセラティのデザインが目指す究極の目標を、力強い言葉で表現した。
「私たちのクルマは、それを運転している人を引き立てるようにデザインされています。クルマは見えるけれどドライバーは見えない、そんなクルマをデザインするブランドは他にたくさんありますから」
MCプーラは、オーナーのライフスタイルや個性を増幅させるための、究極的にエレガントな舞台装置なのである。
100%メイド・イン・イタリーを生み出す聖地モデナ
そして、これらの哲学とクラフトマンシップの揺るぎない土台となっているのが、ブランドの魂ともいえるモデナの存在だ。ペロシーノ氏は、その重要性を情熱的に訴える。
「モデナはマセラティの心臓部です。そして、モデナに来ていただければ、ブランドの本質を感じていただけるはずです。私たちの宝石を実際に見て、触れていただければ、より深い感動を得られると断言します」
と、世界中のファンをブランドの故郷へと誘う。
MCプーラは、そのボディだけでなく、心臓部であるネットゥーノエンジンも「完全に100%、モデナ工場で生産されます」とエンジニアリング責任者のダヴィデ・ダネシン氏も断言する。このモデナ工場は、スーパースポーツカーの製品開発、生産、カスタマイズのための「ハウス・オブ・マセラティ」であり続けるという。
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MCプーラは最新のF1由来技術や驚異的なパフォーマンスを誇る一方で、その根底にはマセラティが長年守り続けてきた「グランツーリズモ」という人間中心の哲学と、「純粋さ」への原点回帰という強い意志が流れている。それは単なる工業製品ではなく、イタリアの文化と情熱が生み出した、走る芸術品であり、ブランドのアイデンティティそのものを雄弁に物語るマニフェストなのである。
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