
マンクス・バギーはビーチを目指す
【デューンバギー恍惚日記】第5回に続き、「メイヤーズ・マンクス」のレポートをお届けしていこう。2017年末にレストアが完了したマンクスは、「ムーンアイズ」主催の“横浜ホットロッドカスタムショー”への出展を実現、その後「ビキニ・トップ(幌)」を装備する追加作業も実施し、いよいよ本格的に公道へと乗り出すこととなった。
デューンバギーで公道を走る
神奈川県大和市の「K’s Collection(ケーズコレクション/以下「ケーズ」と略)」でビキニ・トップ(幌)の取り付け作業を終えたのち、漸くマンクスを公道に持ち出した。駐車場は都内自宅のそばに借りたが、幸運にも知人がケーズ近隣にガレージを所有していたので、当分はケーズの近所で慣らしをした方が安全と考え、短期間だけ知人ガレージも間借りすることにした。当然ナビなど付いていないので、最初の頃は迷子になりながら、湘南、江ノ島あたりをドライブして慣らしを実施。
また自動車雑誌『ティーポ』の取材で城山湖まで足を伸ばしたり、先輩が主催する横浜でのヴィンテージ玩具のイベントに展示したり、早いうちから稼働率は意外に高かった。そうした中で素人なりに感じた初期のドライビング・インプレッションをここに記しておこう。
乗ってみたらどんな感じか
さて公道に乗り出したマンクスはどんな感じか? とにかくこのクルマは軽い。軽さは間違いなく正義だ。組み上がったばかりのVW空冷4気筒1600ccも気持ちよく駆け上って実に痛快。
軽量に加えてフロント・ブレーキをディスク化したことも功を奏して、制動性能についても優秀で極めてよく止まる。基本的には運転が簡単で乗り味は軽快。オープンエアの楽しさを満喫できる快活なレジャーカー、もしくは極めてベーシックなスポーツカーと言える。
バイアス・タイヤはしんどい
ところで自分のマンクスは、リアタイヤに「グッドイヤー・ポリスグラスGT(の復刻版)」を履いている。ポリグラスGTは1960年代末〜70年代初頭のアメリカン・マッスルカー黄金時代を象徴するタイヤで、むっちりしたサイドウォールと控えめなホワイトレターが格好良く、ずっと憧れていた。
しかしレストア開始時、このプランをアメリカ車に造詣の深い友人に話したところ、彼はすぐに警鐘を鳴らしてくれた。曰く「モパー(※)乗りの連中でもポリグラスGTなどのバイアス・タイヤはショーの時にしか履かない人が多い。普段乗りならラジアルの方がずっと楽しいよ」とのこと。
※クライスラー車、ここでは特にマッスルカーを指す
この時はなるほどそうか、と肝に銘じたものの、実際にバイアスを装着して乗ってみたら、友人の言葉の意味が身に沁みて理解できた。しかもこのマンクスは、リアのポリグラスGTに加えて、フロントも145(5.6-15)という細いバイアスなのだ。正直なところ慣れるまではしんどい。特に気を使うのは高速道路走行時である。ちょっとした轍(わだち)でもステアリングを取られがちなので細心の注意が必要だ。
ホットロッドの世界には“ショー・アンド・ゴー(Show and Go)”という言葉がある。ショー会場で如何に美しく輝いても、走れないのはただの「お飾り」だ。美しいだけでなく、きちんと走り、相応のパフォーマンスを発揮できてこそ、クルマとして評価される。そのバランスのさじ加減はオーナー次第。というわけで、自分のマンクスは、なんとか及第点ぐらいだと自覚している。
ビーチを目指して長距離を走る
バイアス・タイヤの限界を実感しながらも、シェイクダウンは進行していき、2回目のオイル交換を済ませたのが10月。ここらで遠出することにした。目的地は石川県の「千里浜なぎさドライブウェイ」。デューンバギーを手に入れたのだから、ビーチを走ることは念願のひとつであった。タイヤの選択からも明らかなように私のマンクスはストリート・バギーとして組まれているが、千里浜は普通のクルマがノーマル・タイヤで走行可能な硬い砂浜ゆえ問題はない。
有難いことに友人が付き合ってくれると言うので、二人で交代しながらの自走を決定。初日は石川の隣県、私の郷里である富山県まで走り、一泊して二日目に千里浜を目指すことにした。ケーズ近隣で間借りしていたガレージから出発し、厚木から圏央道→関越自動車道→上信越自動車道→北陸自動車道という片道約460kmのコース。
高速を思い切り走ることができたのは良かったが、季節は秋。上信越自動車道・妙高周辺の寒さと強風は厳しく、標高は800m程度だが、時速80km程度の巡行時でも体感温度は10℃を下回っており、運転中に手足の感覚が無くなってしまう。安全のため小まめに休憩をとって体を温めながら走り、富山に辿り着いた頃には、とっぷりと日が暮れていた。
千里浜なぎさドライブウェイを走る
富山に到着した晩は実家で一泊、翌朝、目的地である石川県の「千里浜なぎさドライブウェイ」を目指した。富山市街地からだと「北陸自動車道」と「のと里山海道」を経由して約87km。当日は好天で暖かく絶好のドライブ日和であった。北陸自動車道を「金沢森本」で降りたのち、「のと里山海道」に合流すると左側は日本海の絶景。途中の道の駅・高松「里海館」で休憩し、ビキニ・トップを畳んでオープンに。ここから「今浜」インターまでは僅か数分で到着、下道に降りると、いよいよ「千里浜なぎさドライブウェイ」の入り口である。
陽光と波の音、空・雲・海が織りなす全てが美しく、気持ちが高まるまま、硬く締まった千里浜の濡れた砂浜を思う存分に走った。幼い頃に憧れたデューンバギー。その魅力の片鱗を概ね50年を経て漸く実体験できたのだ。
彼の国のバギー乗りの常套句「幸せは金では買えない。しかしマンクスなら買える」その言葉の真意を理解できた素晴らしい一日だった。
その後もこうしたドライブを重ねていく中で、具体的に改善したいポイントが出てきた。次回は車検のタイミングで実施したモディファイなどをお伝えします。お楽しみに!