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【技術詳説】BMW「iX3」が示す“駆けぬける歓び”の未来像とは? 「ノイエ・クラッセ」の核心技術を徹底解剖

すべてが新しい。未来のBMWが、ついに走り出す。

2025年9月5日、BMWはブランドの未来を指し示す羅針盤となる「ノイエ・クラッセ」の第一弾モデル、新型EV「iX3」を発表。ル・ボランWebではいち早く、モータージャーナリスト渡辺慎太郎氏による内外装の解説動画を公開した。デザイン、ユーザーエクスペリエンスの刷新についてはそちらをご覧いただくとして、本稿ではその革新を支える技術に焦点を当て、BMWが次世代の「駆けぬける歓び」をいかにして再定義しようとしているのかを詳細に解説しよう。

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心臓部に宿る飛躍:第6世代BMW eDriveテクノロジー

新型iX3の根幹を成すのは、完全新開発された第6世代BMW eDriveテクノロジーである。最大の進化点は、システム電圧を従来の400Vから800Vへと引き上げたことにある。これにより、高出力化と充電時間の短縮、そしてシステム全体の効率化が図られている。パワートレインは、iX3 50 xDriveモデルにおいて、リアアクスルに高効率化を推し進めた励磁式同期モーター(EESM)を、そしてフロントアクスルには新たに非同期モーター(ASM)を搭載する電動AWDシステムを構築した。このEESMとASMの組み合わせは、コンパクトな設計と高いコスト効率を実現するための技術的判断であり、状況に応じて最適な駆動力を瞬時に前後輪へ配分する。システム最高出力は345kW(469ps)、最大トルクは645Nmに達し、0-100km/h加速を4.9秒で駆け抜ける俊足と、210km/hの最高速度(電子リミッター作動)を両立させている。

このパワフルな走りを支えるエネルギー源、高電圧バッテリーもまた、世代を飛び越えた進化を遂げた。BMWは新開発の円筒形リチウムイオンセルを採用。直径46mm、高さ95mmというこの新型セルは、第5世代で用いられた角形セルと比較して、セルレベルでのエネルギー密度を20%も向上させている。さらに革新的なのはその搭載方法である。従来の「セル→モジュール→パック」という階層構造を廃し、セルを直接バッテリーパックに組み込む「セル・トゥ・パック」アプローチを導入。これにより、部品点数が削減され、エネルギー密度とコスト効率が向上した。

加えて、そのバッテリーパック自体を車体の構造部材として活用する「パック・トゥ・オープンボディ」設計を初めて採用した。バッテリーハウジングがフロアの役割を担うことで、車体全体のねじり剛性が向上し、ハンドリング性能を高めると同時に、従来必要だったフロア部材を省略することによる軽量化と材料削減を実現している。iX3 50 xDriveに搭載されるバッテリーの実使用可能エネルギー容量は108.7kWh。これにより、WLTPサイクルで最大805kmという長大な航続距離を達成した。

充電体験の革命とエネルギーハブとしての未来像

800Vシステムの恩恵は、充電性能において最も顕著に現れる。新型iX3は最大400kWの直流(DC)急速充電に対応し、わずか10分間の充電で最大372km分の航続距離を回復させることが可能だ。バッテリー残量10%から80%までの充電に要する時間は、わずか21分という驚異的な速さを誇る。また、BMWが自社開発したバッテリーマネジメント技術により、従来の400V規格の急速充電ステーションにも対応する柔軟性も確保している。

さらに、新型iX3は単に電力を消費するだけの存在ではない。第6世代eDriveテクノロジーは、BMWとして初となる広範な双方向充電機能を実装した。これにより、iX3は移動可能なエネルギー貯蔵庫としての役割を担う。「Vehicle-to-Load(V2L)」機能を使えば、キャンプなどで電化製品に最大3.7kWの電力を供給できる移動式パワーバンクとなる。「Vehicle-to-Home(V2H)」機能は、家庭の太陽光発電システムで発電した電力をiX3に貯蔵し、夜間などに家庭へ電力を供給することを可能にする。そして「Vehicle-to-Grid(V2G)」は、車両を電力網(グリッド)に接続し、電力市場にエネルギーを供給することで、エネルギー移行に貢献しつつ経済的なメリットも得られるという、未来のモビリティ社会を見据えた機能である。

4つの「スーパーブレイン」が織りなす新次元の車両制御

これらのハードウェアの進化を統合し、インテリジェントな車両として機能させるのが、完全新開発されたエレクトロニクスおよびソフトウェアアーキテクチャである。その中核を担うのが、「スーパーブレイン」と呼ばれる4つの高性能コンピューターだ。これらはそれぞれ、ドライビングダイナミクス、自動運転、インフォテインメント、そしてボディ・快適機能という4つの領域を分担して処理する。このアーキテクチャは、従来の車両に比べて20倍以上の処理能力を持ち、車両の神経網であるワイヤーハーネスを根本から見直すことを可能にした。4つのゾーンに分割された配線構造により、ワイヤー長は約600m削減され、重量は30%も軽量化された。これは、来るべき「ソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)」時代への基盤となるものである。

特に注目すべきは、ドライビングダイナミクスを司るスーパーブレイン「Heart of Joy」である。BMWが長年培ってきたドライビングダイナミクスコントロールの知見を注ぎ込んだこの頭脳は、駆動、ブレーキ、エネルギー回生、ステアリングといった機能を統合制御し、従来の10倍の速さで情報を処理する。これにより、アクセルやステアリング操作に対する、かつてないほどダイレクトで精密な応答性を実現。

さらに、新開発の「ソフトストップ機能」は特筆に値する。日常的な走行シーンにおける制動の98%を回生ブレーキのみでこなし、摩擦ブレーキの介入を最小限に抑えることで、BMW史上最もスムーズでショックのない停止を実現した。これは効率性の向上だけでなく、ドライビングの質感を新たな次元へと引き上げる革新である。

持続可能性を織り込んだ設計思想

新型iX3は、開発の初期段階から「デザイン・フォー・サーキュラリティ(循環性のための設計)」という原則を徹底している。その結果、車両を構成する材料の約3分の1が二次原材料(リサイクル素材)で占められている。例えば、シャシーを構成するアルミ部品には最大80%、ホイールには70%の二次アルミニウムを使用。内装のシート地には100%リサイクルPETから作られた糸が使われている。こうした取り組みは、サプライチェーンにおけるCO2e排出量を35%削減するという成果につながった。

生産拠点であるハンガリーのデブレツェン新工場は、通常稼働において化石燃料を一切使用しないBMWグループ初の自動車工場として建設された。これらの包括的なアプローチにより、新型iX3 50 xDriveは、そのライフサイクル全体における製品カーボンフットプリントを先代モデル比で34%削減。再生可能エネルギーで充電した場合、同クラスの内燃機関モデルと比較して、わずか17,500kmの走行でCO2e排出量の優位性を確保できると試算されており、これは使用開始後わずか1年で達成可能な数値である。

新型BMW iX3は、電動化時代のスポーツ・アクティビティ・ビークル(SAV)の新たなベンチマークであると同時に、BMWというブランドそのものの次なる100年を定義する「ノイエ・クラッセ」の思想を具現化した存在だ。その核心にあるのは、単なるスペックの向上ではない。ドライビングの歓び、インテリジェンス、そして地球環境への責任を、かつてないレベルで融合させた、包括的かつ深遠な技術的革新なのである。このiX3で示されたテクノロジーは、今後2027年までに登場する40もの新型モデルおよび改良モデルへと展開されていく。我々は今、BMWの大変革時代の幕開けを目の当たりにしているのだ。

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※この記事は、一部でAI(人工知能)を資料の翻訳・整理、および作文の補助として活用し、当編集部が独自の視点と経験に基づき加筆・修正したものです。最終的な編集責任は当編集部にあります。
LE VOLANT web編集部

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