90年の時を隔てた「原点」と「未来」。ロンドンでの対面が示すブランドの揺るぎない核心
ジャガーは2025年12月2日、ブランド誕生90周年を記念し、英国ロンドンのザ・チャンセリー・ローズウッド・ホテル前にて象徴的な展示を行った。そこには、ブランドの原点である1935年の「SSジャガー」と、新生ジャガーの未来を示すデザイン・ビジョン・コンセプト「タイプ00」が並び立ったのである。90年の時を隔てたこの2台は、創業者ウィリアム・ライオンズ卿の信念である「何もののコピーでもない(Copy Nothing)」という共通の哲学で結ばれており、ジャガーの大胆な変革の歴史と、これからの未来への意志を鮮烈に物語る光景となった。
【画像3枚】90年の時を超えた衝撃のコントラスト。優美な始祖「SS」と、あまりに前衛的な「タイプ00」の共演
「常識への反逆」こそがジャガーの正統。SSジャガーが確立した「Copy Nothing」の精神
今回披露された2台のモデルは、それぞれの時代において「伝統からの脱却」を象徴する存在だ。1935年にデビューした「SSジャガー」は、ジャガーの名を初めて冠したモデルであり、当時の自動車業界の常識を覆すものであった。多くの英国車が縦長で実用性を重視したデザインであった時代に、SSジャガーは低いルーフラインと長く伸びたボンネットを採用し、洗練された車高の低いシルエットを実現したからである。この大胆なアプローチこそが、ジャガーブランドの確立における決定的な瞬間であった。

一方、その隣に並んだ「タイプ00」は、現代におけるジャガーの真髄を示すデザイン・ビジョン・コンセプトである。かつてSSジャガーがそうであったように、タイプ00もまた現代の常識に立ち向かい、ジャガーを再定義する役割を担っている。その大胆不敵なステートメントと力強いフォルム、そして活気あふれるプロポーションは、来るべき未来のジャガーに強いインスピレーションを与えるものとなっている。
過激な造形は街へのオマージュ? 新色「ロンドンレッド」に込められた建築的アプローチ
新生ジャガーの象徴であるタイプ00には、「ロンドンレッド」と呼ばれる特別なカラーが採用されている。この色は、ジャガーのマテリアルチームによって手作業で仕上げられたものであり、モダンラグジュアリーの新しい表現形だ。
インスピレーションの源となったのは、展示場所でもあるロンドンの街並みそのものである。ロンドンを代表する地区に建つ赤レンガ造りのヴィクトリア朝建築が持つ揺るぎない美しさや、アート作品を際立たせるギャラリーウォールの優雅さ、さらには深紅の電話ボックスや赤い二階建てバスといった、ロンドンを象徴する数々の「赤」から着想を得ている。この「ロンドンレッド」を纏ったタイプ00と、歴史的なSSジャガーが並ぶ姿は、ミッドセンチュリーとモダニズムが融合したザ・チャンセリー・ローズウッド・ホテルの建築美とも相まって、ジャガーの芸術的挑戦を見事に反映していた。
「タイプ00」は2026年への序章に過ぎない。次期4ドアGTへ受け継がれる「独創のパイオニア」の魂
ジャガーは2026年に4ドアGTの発表を控えており、今回の展示は新たな章の幕開けを示唆するものである。ジャガー担当マネージング・ディレクターのロードン・グローバーは、「ジャガーは常に独創性のパイオニアであり、卓越したデザインと臆することのない先進的な精神を持ち合わせている」と語る。そして、来年の市販モデル発表に先立ち、ジャガーが妥協のない唯一無二の存在であることを改めて認識してもらうことが重要だと強調した。

過去を振り返れば、当時の最速記録を樹立した「XK120」、美しさのベンチマークとなった「Eタイプ」、ラグジュアリーとパフォーマンスを融合させた「XJS」、そしてスポーツカーへの情熱を再燃させた「Fタイプ」と、ジャガーは常に時代に同調しないアイコンを生み出し続けてきた。90周年という節目に、原点と未来を同時に提示したジャガー。その「Copy Nothing」の精神は、これからも変わることなく継承されていくに違いない。
【ル・ボラン編集部より】
昨年末のマイアミでの「タイプ00」初公開時、「活気あふれるモダニズム」を掲げたそのあまりに前衛的な造形に、多くの愛好家が困惑したことは記憶に新しい。しかし、こうして始祖「SSジャガー」と並ぶ姿を見ると、車名の「00」――ゼロ・エミッションと新生ジャガーのゼロ号車――が意味する真価が腑に落ちる。かつてSSが常識を覆したように、過去の栄光をなぞるのではなく、その反骨精神だけを抽出して再構築する。トラバーチンや真鍮を用いたインテリアも含め、これはクルマというより動く現代建築だ。この挑発的なアプローチこそが、ジャガーのアイデンティティなのだろう。
【画像3枚】90年の時を超えた衝撃のコントラスト。優美な始祖「SS」と、あまりに前衛的な「タイプ00」の共演


