
ステアリングギアの変更でいっそうシャープに
「キュキュキュキュッ、ブォゥン! ボボッボボボボ……」
お、のっけからずいぶん変わったことをアピールしてくるじゃないの。試乗車はオプションのスポーツエキゾーストシステムを装着していたからそのせいもあるのだろうが、目覚めのひと吠えもアイドリング音もかなり低くなり、迫力を増している印象だ。先代は雄叫びも唸りももっと高音だった。文字にするなら「ファン! フゥゥゥゥ……」という感じだろうか。
そしてクラッチをミート、先代と同じ感覚でアクセルを踏み込んで行ったのだが……はっ、速い! ターボラグのイヤな低速域でのスカスカ感はまるでなく、2000rpmあたりでトルクの盛り上がりを感じたあとは、そのまま7400rpmのトップエンドまで一気にタコメーターの針が上昇。それに対して二次曲線を描くかのようにスピードが乗ってゆくのだ。この速さは先代とはまるで別モノ。よーく観察すると最後の1000rpmくらいはパワーがついてこない感じがあり、このあたりに回せば回すほどにパワーの出た2.7リッター自然吸気式エンジンとの違いを感じるものの、これはまぁオイシイゾーンがちょっと下に移動した、より低回転域からオイシくなったと感じる人もいるだろう。いろいろなところで「昔のスバルっぽい」と書かれているエキゾーストノートも、確かに不等長特有のビートは似ているといえば似ているのだが、ちゃんとポルシェのブランドに恥じぬよう重厚に調律されている。
そしてハンドリングだが、これはもう、先代譲りのスポーツカーの理想を絵に描いたようなパーフェクトさにいっそう磨きがかけられたと言っていい。実は6気筒→4気筒になってさらに身のこなしが軽くなったのでは……と期待していたのだが、実際は2気筒のマイナスぶんよりおもにターボ周りの重さが嵩んだせいで、車重は25kgのプラスとなる1335kgに増加している。だがそんなことを感じさせないばかりか、足回りのリファインでより安定性が増したことを背景に行なわれたという、911ターボ譲りの10%ダイレクトなステアリングギアを採用した効果の方が顕著に出ており、以前にも増してノーズがクイックに反応するではないか。
迫り来るコーナーに向けてブレーキング。パワーの増大に伴い先代ケイマンSのそれが奢られたというブレーキシステムは効きもフィーリングも絶品。ヒール&トゥでアクセルをあおった時の回転上昇がやや緩慢になったことにターボ化されたことに気づかされるものの、ミッドシップらしからぬ高いフロントの接地感、ステアリングを切り込んでいった際のよりダイレクトな反応、そして何より脱出で踏み込んでいった時のはるかに強力な立ち上がり。ケイマンらしさと、新しいケイマン像のシアワセな同居。しかもこれで安くなったんだから、アリもあり、大アリだ。
それはもはや「ケイマン・ターボ」
ミニサーキットでは2.5リッター4気筒ターボの718ケイマンSを試してみた。こちらは7速DCT仕様で、走りに関するオプションはフル装備。新たに20mm車高が下がることになった減衰力可変式サスのPASMスポーツシャシー、ダッシュボード上のストップウォッチに付随して走行モード選択システム(ノーマル、スポーツ、スポーツプラス、インディビジュアル)などが装着されるスポーツクロノパッケージ、スポーツエキゾーストシステム、20インチのタイヤ&ホイールなどだ。
こちらはエンジンの回転数に合わせて排気ガスの流速を制御、低回転域から高回転域までより効果的に過給できるVTGタイプのターボを組み合わせるから、2.0リッターよりもトルク感がさらに自然吸気エンジンっぽい。DCTということもあってアクセルを踏み込むとスッと2000rpmに達し、そこから迫力の重低音とともに怒濤の加速が開始されるのだ。特にDCTとスポーツクロノパッケージをセット装着した場合に搭載される、ステアリング右下の「スポーツレスポンススイッチ」。これを押すとF1のオーバーテイクモードよろしく20秒間だけエンジンとトランスミッションが最大限ハードコアな設定になるのだが、その時の血の気の引くようなダッシュときたらもう、完全にケイマンの領域を超えている。ここまできたならもう、911ターボに倣って「ケイマン・ターボ」を名乗ってもいいんじゃないか? と思わせるほどだ。
PASMスポーツシャシーは、通常版PASMのスポーツモードではサーキットでややもの足りないかな? と思わせたロール剛性を引き上げてきた印象。10%クイックになったステアリングと相まって、これまで以上に針穴に糸を通すような繊細なドライビングが楽しめるのだ。それでいてノーマルモードにしておけば一般道での乗り心地も悪くない。走りを楽しむメインステージがワインディングだけなら通常版のPASMで十分だが、ケイマンSでサーキットに通うつもりならPASMスポーツシャシーをチョイスした方がいいだろう。
試乗を終えての結論は、600万円台であのうっとりするような自然吸気のフラット6が買えなくなる未来に寂しさを覚えつつ、ケイマンに新しい興奮を与えてくれるこのフラット4ターボもいいじゃないか! というもの。しかもハンドリングはいっそうシャープになり、ベース仕様は価格的により身近になっているのだ。
インパネのアッパーパッドが変更されてインテリアはよりスポーティになっているし、Apple Car Playにも対応する最新のインフォテインメントシステムがようやく日本で使えるようになることも大きい。ちなみに今回のマイナーチェンジに際してケイマンのコードネームは「981c」から「982c」に変わっているのだが(つまりポルシェ的にはフルモデルチェンジ)、もし981cと982cが同時に買えるのなら迷うかもしれないが、もう981cを新車で買うことはできないのだ。それでいて動的品質の高さでいえば世界一リーズナブルなスポーツカーであるという事実はまったく変わらない。私は982cを素直に受け入れることができる。ひとりのクルマ好きとして、いろいろな意味で「あぁよかった」と、ホントに胸をなで下ろしているのである。
ポルシェ718ケイマン
東京標準現金価格 ¥6,190,000
全長/全幅/全高 4379/1801/1286㎜
ホイールベース 2475㎜
車両重量 1335㎏
エンジン型式/種類 -/水平対向4DOHC16V+ターボ
総排気量 1998㏄
最高出力 300ps(220kW)/6500rpm
最大トルク 380Nm(38.8㎏-m)/1950-4500rpm
トランスミッション 6速MT
燃費(JC08) –㎞/L
サスペンション形式 前:ストラット/コイル
後:ストラット/コイル
ブレーキ ベンチレーテッドディスク
タイヤ 前:235/45ZR18 後:265/45ZR18
問い合わせ先 ポルシェジャパン http://www.porsche.com/japan/jp
ポルシェ718ケイマンS
東京標準現金価格 ¥8,654,000
全長/全幅/全高 4379/1801/1284㎜
ホイールベース 2475㎜
車両重量 1385㎏
エンジン型式/種類 -/水平対向4DOHC16V+ターボ
総排気量 2497㏄
最高出力 350ps(257kW)/6500rpm
最大トルク 420Nm(42.9㎏-m)/1900-4500rpm
トランスミッション 7速DCT
燃費(JC08) –㎞/L
サスペンション形式 前:ストラット/コイル
後:ストラット/コイル
ブレーキ ベンチレーテッドディスク
タイヤ 前:235/40ZR19 後:265/40ZR19
問い合わせ先 ポルシェジャパン http://www.porsche.com/japan/jp
- Report : Naohide ICHIHARA (Editor in Chief) Photo:PORSCHE JAPAN